本記事の3つのポイント

  •  新型コロナの拡大を受け、UV-C LEDで除菌が行え、不織布マスクの再利用などにつなげられる殺菌消臭器などが注目
  •  UV-Cはその強い殺菌力の反面、皮膚がんや白内障を生じさせるなど人体に照射すると有害。そのため、UV-Cを照射しているあいだは周辺を無人化する必要がある
  •  この問題の解の1つとして取り組まれているのがロボット技術との統合だ。移動機能を持ったロボットにUV-Cライトを搭載することで、照射作業を無人化し、遠隔操作を可能にする

 

 新型コロナウイルスが世界各地で大きな影響を与えるなか、各国で衛生に関する意識が急速に高まっている。それに伴い注目を集め始めているのが、紫外線技術を活用した殺菌技術である。

 紫外線は可視光線よりも波長が短い光で、特に100~400nmの波長域を指し、波長別に315~400nmの「UV-A」、280~315nmの「UV-B」、100~280nmの「UV-C」(深紫外)の3種類に分類される。このうち最もエネルギーが高く、生体に対する強い破壊力を持つのがUV-Cで、その特性を活かし、トイレ、キッチン、調理器具などの殺菌・消臭、水の浄化、空気の除菌などに使用されている。

 UV-Cの光源としては長年、水銀ランプが主流だったが、人体や環境へ悪影響を与える水銀は「水俣条約」による制限が進んでいることから、現在、水銀を使わず効率良くUV-Cを発生することができるLEDへのシフトが進んでおり、スタンレー電気㈱、ナイトライド・セミコンダクター㈱、日機装㈱、旭化成㈱のグループ会社であるCrystal IS社、LGイノテック、SETi(Sensor Electronic Technology)、日亜化学工業㈱などが、UV-C LED関連製品を展開している。

 そして昨今の新型コロナの拡大を受け、UV-C LEDで除菌が行え、不織布マスクの再利用などにつなげられる殺菌消臭器などが注目を集め始めている。「不織布マスクに使用されるメルトブローン繊維は、熱可塑性ポリマーを原料とするため、紫外線照射を受けると構造が破壊されフィルター性能が低下する」との指摘も一部であるが、ナイトライド・セミコンダクターが、波長275nmのUV-C LEDをN95マスク(米国労働安全衛生研究所の規格に合格したマスク)や手術用マスクに40分間照射した結果、粒子捕集率は照射前とほぼ同じという結果を得られた。200分間の照射でもN95マスクの粒子捕集率は99.959%を記録し、手術用マスクも劣化は認められなかったという。

 一般的な紫外線ランプ照射は、不織布の静電気などの分子間力を弱めるのに対して、UV-C LEDは静電気などの分子間力を活性化し、高める効果があるのではないかと同社では推測している。

ニューヨークの地下鉄で実証

 また、ナイトライド・セミコンダクターと長年連携している韓国のソウルバイオシスは、グループ会社のSETiと共同で量産している紫外線LEDの清浄技術「violeds」(バイオレッズ)によって、新型コロナを30秒で99.9%殺菌できると4月末に発表した。米コロンビア大学の放射線研究センターでは、UV-Cのなかでも205~230nmの非常に短い波長に、新型コロナの不活化効果があると報告している。

 新型コロナは、感染者が触れたドアノブやベッドレールなどでも数日間生きているため、感染者を受け入れる医療機関をはじめ、鉄道車両や航空機の座席、学校、オフィスでは数時間かけて人手による消毒作業が実施されている。その作業にUV-Cを活用することで、作業の大幅な効率化が期待されている。

 実証も進み始めており、例えば、ニューヨーク市の地下鉄を運営するメトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ(MTA)では、UV-Cライトを活用して、鉄道車両やバスの内部を殺菌するプログラムを5月から開始。ベンチャー企業のPuro Lighting(米コロラド州)と連携し、約150台のUV-Cライトを活用して、その効率性と費用対効果を実証・評価している。

人体に無害なUV-Cにも期待

 UV-Cを活用するうえで注意する点がある。UV-Cはその強い殺菌力の反面、皮膚がんや白内障を生じさせるなど人体に照射すると有害であるということだ(UV-Cで照射・殺菌されたものは触れても無害)。そのため、UV-Cを照射しているあいだは、周辺を無人化する必要がある(ちなみに太陽光から発生するUV-Cはオゾン層で吸収されるため、地表には届かない)。

 この問題の解の1つとして取り組まれているのがロボット技術との統合だ。移動機能を持ったロボットにUV-Cライトを搭載することで、照射作業を無人化し、遠隔操作を可能にするというもので、デンマークのBlue Ocean Robotics、米Xenex Disinfection Services、アイルランドのAkara Robotics、米バージニア大学、インドネシアのスラバヤ工科大学などが技術開発や実証を進めている。

 もう1つのアプローチが、人体に無害なUV-Cの実用化。その一環として、神戸大学とウシオ電機㈱の研究グループが、222nm波長のUV-Cを反復照射しても、皮膚がんが発症しないことなどを世界で初めて実証し、ヒトの皮膚や眼にも安全であると3月に発表した。

 222nm波長のUV-Cは、殺菌ライトとして一般的に使用されている254nm波長のUV-Cと比べて遜色ない殺菌力を保有。さらに、神戸大による実験では、222nm殺菌ライトを照射したマウスでは皮膚がんが全くできず、眼についても顕微鏡での観察レベルで全く異常が出なかったという。

 222nm波長のUV-Cが無害であった理由はその深達度にあり、皮膚においては、従来の紫外線が皮膚の表皮の基底層という一番下層にまで到達し、細胞のDNAを損傷させてしまうのに対して、222nm波長のUV-Cは角質細胞層という極めて表層(垢になる)部分までしか到達しないため、表皮細胞のDNAを損傷しないことを発見した。

 感染症対応が長期化するなか、ウイルスの存在を前提とし、新型コロナとともに経済活動を送る「ウィズコロナ」への取り組みが世界各地で模索され始めている。消毒・殺菌作業が日常化するなかで、UV-Cを活用したソリューションが今後さらに広がっていくことになるかもしれない。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島 哲志

まとめにかえて

 新型コロナの感染拡大防止のため、様々な技術や取り組みが生まれています。今回取り上げた紫外線による殺菌消臭器もその1つです。ワクチンや特効薬のめどが立つまで今しばらくの時間を要することを考えれば、こういった感染抑止に向けた取り組みはある意味で、大きなビジネスになりうる可能性を秘めています。

電子デバイス産業新聞