この記事の読みどころ

英国の欧州連合(EU)離脱の余波が英国不動産市場を揺るがしています。英国がEU離脱となればロンドンなどからビジネスが流出、不動産への需要が後退するとの懸念から償還を求める投資家が増えたことに対し、流動性が相対的に低い不動産市場へ投資するファンドが償還請求に応じきれないことへの現実的な対処とも言えますが、市場のセンチメントが悪化しているだけに、注意は必要です。

  •  英国不動産ファンドで解約停止が相次ぐ
  •  過去の金融危機では解約停止が前兆となったケースもあり印象はよくない
  •  英国不動産市場の個別要因と見られる面もあり、冷静な判断が求められる

英国不動産ファンド:顧客取引停止、相次ぐ解約で資金対応に苦慮

英国では大手不動産ファンドの対顧客取引停止が相次いでいます。7月5日までの報道では合計3本、約91億ポンド(約1兆2,100億円)の資産が凍結されました。

3本のファンドの内訳は次の通りです。まず、2016年7月4日に英保険スタンダード・ライフ傘下のスタンダード・ライフ・インベストメンツが29億ポンド規模の英不動産ファンドの解約を停止しました。

次いで5日には英保険プルデンシャル傘下のM&Gインベストメンツが44億ポンド規模のファンド「プロパティ・ポートフォリオ」の取引を停止、さらに英保険アビバ傘下のアビバ・インベスターズも18億ポンド規模の不動産投資信託(REIT)「プロパティ・トラスト」を凍結しました。

その後も同様の動きが報道されており、投資家からの解約請求に応じきれないとの判断から、多くの英国不動産ファンドで一時的な解約停止などの対応がとられています。

どこに注目すべきか:解約停止、パリバショック、不動産ファンド

英国のEU離脱の余波が英国不動産市場を揺るがし、英国の株式市場では不動産に関連する金融セクターのパフォーマンスが市場全体を大きく下回っています。

英国不動産投ファンドを巡る混乱は、理屈で考えれば、流動性が相対的に低い不動産市場に投資するファンドが償還請求に応じられなかったに過ぎないとも言えます。しかし、市場のセンチメントが悪化している中、為替市場ではポンド続落、円高進行と典型的なリスク回避の動きも見られます。

では、どのように考えるべきでしょうか?

まず、ファンドの解約停止という響きはよくありません。リーマンショックを知る投資家は「パリバショック」(BNPパリバ傘下のファンドが解約停止を突然公表、リーマンショックの前兆となったと言われる)でもこの言葉が使われたため、イメージが先行する懸念があります。

ただ、今回の英国の不動産市場での解約停止は、中身が異なると考えられます。

リーマンショックの時はサブプライムローンなど得体の知れない証券に投資されていたファンドが世界中に拡散していたという背景があります。しかし、英国の不動産ファンドの解約は、英国がEUに留まるか不透明な中、商業用不動産市場への影響を回避するための必然的な流れです。

一方、不動産ファンドが解約に応じたくても不動産取引は流動性が低いため応じることができず、解約停止はある意味で致し方ない面もあると思われます。

しかも、理屈で考えれば、英国で不動産が売られてもビジネスの移転先(たとえばドイツやフランス)で不動産が買われることになれば、トータルで影響は相殺されるかもしれず、英国はともかく不動産市場の悪化が他の国へ波及する道筋は見通しにくいと思われます。

なお、解約停止は市場の落ち着きが戻るまで一定期間解約を停止するという処置であって、市場に落ち着きが戻れば解約を再開する可能性も考えられます。

別の視点として、英国、特にロンドンの不動産価格が下落したこととポンド安となったことで、外国人投資家は、英国がビジネス拠点としてある程度機能すると確認されれば、購入のチャンスと見るかもしれません。

なお、英投資協会(Investment Association)の統計によれば、英国の不動産ファンドの投資総額は約245億ポンドで、ファンド全体に占める不動産ファンドの割合は数%に過ぎないなど、規模の小さい市場となっています。

理屈で考えれば英国がEUにとどまるか不透明なので、英国の不動産への投資を解消する動きが表面化しましたが、他の国や地域への影響は限定的となる可能性もあり、冷静な判断が必要と思われます。

ただし、英国不動産市場に対する懸念のきっかけとなった英国の国民投票では、EU離脱は経済的に不合理という理屈に情が勝っただけに今後も注視は必要です。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文