この記事の読みどころ

  • 英国のEU離脱決定を受けて、金価格が急騰しています。24日は一時+8%上昇しました。
  • 米国が利上げを実施した昨年12月以降、逆風の相場環境にもかかわらず、金相場は堅調に推移しています。
  • 金価格が妙に上昇した後、世界的な危機が訪れたことが何度もあります。先行指標としても注目です。

英国のEU離脱決定を受けて、世界の金融市場が大混乱

英国のEU離脱を決定した国民投票の結果を受けて、世界中の金融市場が大混乱しています。特に、株式市場の下落は深刻で、報道によると離脱決定後に失われた額は2兆1,000億円ドル(約215兆円)と言われています。

この金額は、東証1部の時価総額の約47%に該当しますが、これが1日で消失したわけです。また、株式市場だけでなく、原油相場や為替相場にも混乱が生じています。やはり、英国のEU離脱決定は、想定以上に大きな影響をもたらしていると言えましょう。

金価格が急騰し、一時は前日比+8%高の1,363ドルまで上昇

そのような中、債券を除き、唯一上昇した資産が貴金属であり、とりわけ、金(ゴールド)が急騰しました。英EU離脱を受けた24日は、取引時間中に一時、前日比+8%急騰して1,363ドル(1トロイオンス当たり、以下同)を付けました。この価格は、2年4か月ぶりの高値です。

その後、上値が重くなり、24日の終値は+4.4%高の1,319ドルとなりましたが、終値で見ても2年3か月ぶりの高値となっています。なお、24日の国内での金価格(円建て)は、大幅な円高が進んだ影響により、同+2.7%高に止まっていますが、それでも大いに注目されました。

出所:LBA(The London Bullion Market Association)のPM終値
円建て価格は三菱マテリアルの公表する小売価格(消費税抜き)

金には「通貨」と「投資資産」の2つの位置付け

ここで、金の特徴を簡単におさらいしておきましょう。金には2つの位置付けがあります。1つは「通貨」、もう1つは「投資資産」です。

古代ローマ時代から1971年に起きた“ニクソン・ショック”まで、金は名実ともに通貨としての役割を果たしていました。これを「金本位制度」と言います。1971年に金本位制度は終焉を迎えましたが、現在も実質的には通貨の役割を担っています。

投資資産としての金の特徴、メリットとデメリット

金は“ニクソン・ショック”以降、投資資産としての価値が注目され今日に至っています。その特徴は、1)価格は米ドルと逆相関の関係にある、2)世界が暗い時代(戦争、テロ、大不況等)になると上昇、の2点です。

これらの特徴は、常に当てはまるとは限りませんが、概ねこのような動きをすると見ていいでしょう。また、最大のメリットはインフレに強いことであり、最大のデメリットは金利が付かないことです。そして、実物資産の金は、決して“紙屑”にならないということが重要です。

今回の金価格急騰の背景は何?

さて、今回、金が急騰した要因は何でしょうか。もちろん、直接的には英EU離脱に他なりません。ただ、24日の為替相場の動きを見る限り、ドルが急落したという事実はなく、英EU離脱に絡んだ投機的な動きが少なからずあったと考えられます。一方で、今後の世界経済のさらなる低迷を引き起こすトリガー(きっかけ)になる可能性を織り込み始めている可能性も否めません。

実は、金相場に関しては、気になる動きが続いているのです。

利上げ実施は大きな逆風、それなのになぜ金は上昇している?

それは、昨年12月中旬から金相場は高値圏が続いていることです。昨年12月に米国で利上げが実施され、なおかつ2016年も複数回数の利上げが予定されている現在の市場環境は、金にとって大きな逆風です。

足元、米国の追加利上げ実施時期が不透明になっていますが、それでも、金価格が上昇する相場環境ではありません。しかし、実際には堅調に推移しています。と言うことは、最大のデメリット(金利が付かない)を上回る要因があると考えるのが自然です。

いや、もしかすると、昨年12月からの金価格上昇は、今回の英EU離脱ショックを織り込んでいたのかもしれません。“まさか”、“単なる偶然だろう”と思う方も多いでしょう。ただ、過去には、金価格が妙に上昇し始めた時、その後に危機が生じたケースは少なくないのです。

1978年末から金価格が急騰した後、1980年にはソ連のアフガニスタン侵攻で米ソ対立が深刻化しました。2000年秋から金価格が上昇し始めた後、“9.11”からイラク戦争へ繋がりました。そして、2005年末から妙に金価格が上昇し始めた約3年後、リーマンショックが起きています。

引き続き、今後の金価格の動向に注目したいと思います。

 

LIMO編集部