この記事の読みどころ

  •  4月末の週から始まった2016年3月期決算発表を経て、多くの企業の決算説明会、個別取材が一段落した現時点で、化学株投資の今後を考えてみました。
  •  2016年3月期決算は前半の順調な景況感と120円/ドルという好ましい為替に支えられて、予想通りの好調な決算となりました。一方、2017年3月期は各社とも慎重な見方、予想が大勢を占めています。
  •  短期の投資家は、会社予想を見て売りのポジションを取ったと推察しますが、実際の株の動きは底堅かったというのが筆者の印象です。2017年3月期Q1決算が発表される8月上旬あたりまで、むしろ株を安値でコツコツ拾うチャンスではないかと考えています。

足元の事業環境は全く冴えない展開が続く総合化学株

まず、化学セクターの典型である総合化学メーカーの2016年の事業環境をまとめてみました。すると、以下のように、原料安要因を除くと良い話はなさそうです。

(1)原料のナフサ(粗製ガソリン)の価格が低水準で推移する
(2)製品価格は原料価格にほぼ3か月(四半期)遅れて決まる傾向が強い
(3)円高が続くと安い輸入品が国内市場に入りやすく価格軟化の傾向が強まる
(4)消費税引き上げが見送られたので前倒し需要は発生しにくい

悪い話の中から次のシナリオを考える

原料のナフサは原油価格が2月に底入れしたことで、徐々に価格が上向く傾向を強めそうです。一方、石油化学製品の価格は四半期遅れて決まる傾向があるので、4~6月の製品価格は底値を探る展開となるでしょう。そのため、スプレッド(原料と製品の価格差)は最悪期を迎えます。

よって、8月上旬に発表される2017年3月期Q1(4-6月)決算での進捗率は極めて悪いと予想します。

これまでにも述べていることですが、証券会社のアナリストは、業績数字が目に見えて良くならないと「買い」にはできません。恐らく「中立」ないし「売り継続」が主流でしょう。しかし、そういう時が実は絶好の拾い場であることが多いと思います。

また、5月の雇用統計結果が予想外に弱かったため、6月の米国における利上げの可能性は低くなりましたが、米連邦準備制度理事会(FRB)が、今後数か月以内に政策金利を引き上げると言う見方は依然として強いようです。となれば、再び円安が進行するかもしれません。

円高是正シナリオでは、通常は民生用ハイテク株や自動車株が買われますが、円安が進んでデフレ傾向に歯止めがかかれば、素材産業はインフレが追い風になるので、総合化学メーカーにはプラスに働くでしょう。

以上のシナリオで注目できる総合化学株は、三井化学(4183)、三菱ケミカルホールディングス(4188)、住友化学(4005)と考えます。

iPhone次第の電子材料関連株

電子材料系の化学株は、半導体周辺分野と、液晶や有機ELなどスマホ・テレビ向け等の民生用電子機器周辺分野に大きく分けられます。

半導体周辺分野では300ミリのシリコンウエハーの動向が先行指標になります。主要なシリコンウエハーメーカーによると、5月中~下旬の段階で7月頃までの半導体メーカーからの発注が見えているそうです。

一方、電子材料関連銘柄で筆者が注視しているのは、信越化学工業(4063)、SUMCO(3436)、日東電工(6988)、ADEKA(4401)、信越ポリマー(7970)です。

電子材料は最終的な需要が動かないと業績に反映されません。実際、上記銘柄の株価は、昨年10月以降、米国アップル社によるiPhoneの急激な在庫調整の報道を受けて冴えない状況が続いています。

今後、半導体需要を牽引するのは、秋に発売が予定されているiPhone7の販売状況になると思われます。ただ、中国スマホのナショナルブランドが頑張っているという情報も耳にしますので、その売れ行きは現状では判断が難しいところです。

このように、電子材料関連は景気循環型というよりも、ハイテク製品が売れないと思い切った投資は難しいかもしれません。現状では、株価が安いので取り敢えず買ってみるスタンスが半分、もう少しハイテク製品の動向を見てからという慎重姿勢が半分といったところでしょうか。

 

LIMO編集部