子どもは「国の宝」

特別車両にタンデム(2人乗り)のベビーカーを載せ、数日間通勤した経験がある筆者も、複数の乗客たちに「迷惑ではありませんか?」と質問を投げかけたことがあります。

すると、サラリーマン風の若き男性がこう答えました。

「ぜんぜん! だって僕らは誰もが赤ちゃんだったわけでしょう? ベビーカーの中で泣き叫び、親や他人を手こずらせながら成長してきた者同士じゃないですか。迷惑だと思うとか、他人が意見するなんて、まったくナンセンスだと思いますね」

周りにいた乗客らも、口を揃えて彼の意見に賛同していました。

つまり子育てに関して、他人が苦言を呈する権利などない、ということなのでしょう。オランダには、子供は「国の宝」という考えがあるそうです。

国の将来を担う子供たちこそが、社会の中で最も大切と考えているのです。ベビーカーが目の前に陣取ったとか、赤ちゃんの泣き声がうるさいとか、それこそ子供じみた理由をつけ、国の宝を邪険に扱う理由はどこにもないということなのでしょう。

穿った考え方をすれば、ベビーカーの中でむずがっている赤ちゃんや幼児たちが、20年も経てば社会に出て働き、納税する立場になるわけです。彼らが支払う年金保険を、老いた己が年金として受け取る日も来ることでしょう。そんな青写真が、万人の中に描かれているのかもしれません。

バスや列車内にベビーカーを運び入れたところで、苦情をいうどころか、赤ちゃんを覗き込んで笑いかけるおおらかなオランダ人たち。国の宝を乗せた「女王の馬車」を迎え入れるための車両を設け、未来を見据えた姿をすこし真似してみるのも悪いことではないでしょう。

稲葉 かおる