私たちは、仕事では「売上3000万円」「前年比110%成長」といった目標を立てて(あるいは立てさせられて?)、その達成に向かって頑張ります。しかし、こうした「目標達成」の能力が活かされるのは、何も仕事に限りません。

『科学的にラクして達成する技術』の著者で、行動科学の専門家である永谷研一さんは、こう話します。

「たとえば、ほとんどの人は、『できればいつも健康な体でいたい』と願っていると思います。そのために、体重の増減に気をつけている人は多いでしょう。つまり、ダイエットは、健康になるための『目標達成』のテーマの一つともいえます。逆にいえば、目標が達成できない理由は、実はダイエットが失敗する理由の中に隠されているのです」

 この記事では、これまで13年間、のべ1万5000人以上の目標設定と行動実践のデータを検証・分析してきた永谷さんに、目標達成の観点から「ダイエットが続かない理由」を教えてもらいました。

ダイエットが続かない5つの理由

 ダイエットが失敗してしまうのには、主に次のような「5つの理由」があります。

[理由その1]本当にやせたいと思っていない
[理由その2]行動が続かない要素が満載である
[理由その3]深く考えていない
[理由その4]たった一人で黙々とやる
[理由その5]どうありたいかが見えていない

 ダイエットが失敗するこれら5つのワケと、仕事や勉強での目標が達成できず、計画倒れになってしまう理由は、実は同じなのです。では、この5つを簡単に説明していきましょう。

[理由その1]本当にやせたいと思っていない

 ある夫婦の会話です。

夫「あーあ。最近、腹が出てきたなあ。やせるために走るかな」
妻「言ってるだけで、どうせやらないんでしょ」
夫「そんなことないよ。やるさ。今回は」
妻「じゃあ、いつまでに何キロ減らすのよ?」
夫「……」

 この妻の指摘は的を射ています。ダイエットがうまくいかないとき、ほとんどの場合は、本人も心の中では「やせたらいいな」程度にしか思っていません。でもそれは「星に願いを込めて」と同じ、「願い」レベルのものでしかないのです。

 ダイエットを続けるためには、「本気かどうか」は大事な要素です。そして本気の人は目標をしっかり立てます。たとえば「1カ月で、体重を3キロ減らす」「3カ月で、おなかを5センチ引っ込める」など、期限を定め、具体的な数値を設定します。目標が明確でなければ「何をすべきか」が見えてこないからです。

 その一方で、本気でない人は目標もあいまいです。そもそも「やせて健康になる」といったものは、目標ではなくて単なるスローガンです。これでは達成するはずがありません。

 ただ、ビジネスの場でも、まったく同じようなことが起きています。たとえば「英語を勉強して、グローバルで活躍する」「部下を育成して、元気な組織にする」というのは、目標ではなく、単なる「願い」です。神棚に向かって拝むレベルにすぎず、実践には結びつかないのです。

[理由その2]行動が続かない要素が満載である

 目標達成のためには、行動しなければ何も始まりません。ダイエットをしようとしたときに、考えられる行動は大きく2種類に分けられます。

 それは、「走る」「筋トレをする」といった「運動系」の行動か、または「食べる量を減らす」「油っぽいものを避ける」といった「食事系」の行動の2つ。しかし、残念なことに、いずれも「行動が続かない要素」が満載なのです。

 まず「運動系」の例として挙げた行動は、なぜ続かないのでしょう。理由は簡単。取りかかるのが面倒だからです。「今日は雨が降ってるし、明日から走ろう」「お酒を飲んじゃったし、筋トレは控えよう」と言っては、先送りしてしまいます。

 三日坊主という言葉があるように、誰でも面倒なことは途中でやめてしまうもの。したがって、続けるためには、もっと簡単なことから始める必要があります。たとえば「通勤電車では立つ」とか「寝る前に3分腹筋をする」といったことをやる。まず簡単なことから始めて、それを続けることができたら、次のステップに進めばよいのです。

 仕事の場面でも、同じようなことが起きています。私はのべ1万5000人以上の「目標達成に向けた行動実践」の状況を見てきましたが、最初から難易度が高い行動をしようとした人のほとんどが、途中でやめてしまっています。ハイレベルな行動より、「まず簡単なことを続ける」ほうが大切だということです。

 次に、「食事系」の例として挙げた行動が続かない理由はなんでしょう。それは、食事を制限することは、人間の心理的な特性として苦しいからです。「食べない」というのは「◯◯しない」というネガティブな行動であり、がまんするのが苦しいので続かないのです。

 そこで、「◯◯しない」を「○○する」というポジティブな行動に変えると、続けることが簡単になります。行動科学の世界でも「人間は気持ちのいいことを継続しようとする」という研究報告が多々あります。たとえば、「料理の工夫を楽しみながら、カロリーを抑える」というポジティブな行動に変換すると、ぐっと継続しやすくなります。

 仕事においても、「絶対にミスをしない」といった、ネガティブな行動は苦しいもの。ずっと注意していなくてはならず、「また失敗するんじゃないか」と恐怖や不安を感じながら仕事をすることには、メリットもありません。だから続きません。

 それよりも、「結果的にミスをしないためには、どんな行動を取ったらいいのか」と考えると継続することができます。「事前に仕事の段取りを先輩に相談する」「品質チェックリストを使い、部署全体で確認する」など、「○○する」という前向きな言葉で表される行動こそ続けることができ、結果として、「ミスをしなく」なります。

[理由その3]深く考えていない

 ダイエットを続けていると、必ず壁にぶつかります。すんなり目標を達成する人は、まれでしょう。がんばっても体重がまったく減らなかったり、体重が増えたり減ったりする時期、いわゆる「踊り場」があったり、さまざまな行動を試してはまた別な方法に手を出したりと、紆余曲折があるものです。

 目標達成までの道のりは、決して平坦な道ではありませんから、紆余曲折があっても、まったく問題はありません。

 問題なのは、「体重がなぜ減ったのか、なぜ減らなかったのか」を考えていないこと。逆に言えば、重要なのは「起こった事実をスルーせず、その理由をしっかり考えること」なのです。

 たとえば、「いい調子で減ってるけど、もっといい方法がないかな」「あれっ、体重が増えてきたぞ。理由はなんだろう?」と深く考えます。そして、目標達成の進捗状況や過程で考えたことを記録し、目標達成に向けてしっかり進んでいるのか、進まない理由は何か、別の方法はないか……と検証するのです。

 仕事をしていると、いつも同じような失敗を繰り返してしまう人がいます。一方で、いつもよい仕事をする人もいます。その違いは、「一つひとつの仕事をやりっぱなしにしていないかどうか」です。

 毎日バタバタと仕事をこなすだけで、深く考えていない人は、押し寄せてくる仕事の「量」に追われて、「質」は一向に上がりません。一方でよい仕事をする人は、起きたことやその原因を文章にしてメモし、客観的に検証して、よりよい方法を見つけようとします。簡単にできた仕事でも、「うまくいった原因」を追究することで、もっとよい方法を見つけようとします。その結果、成果の高い仕事につながり、目標達成も確実になるのです。

[理由その4]たった一人で黙々とやる

 ダイエットがうまくいっても(いかなくても)、誰も喜んでくれないのであれば、なかなかやる気が保てません。また、こっそりやめてしまっても、誰にも突っ込まれないから続きません。一方で、他人をうまく巻き込んでいる人の多くは、楽しく行動を続けることができ、ダイエットに成功します。

 たとえば家族のいる方であれば、体重の記録をグラフにして、家の中に貼り出すのはどうでしょう。そして家族を巻き込んで、毎日コメントしてもらうのです。

 「お父さん、最近、減ってきたね」なんて子どもに言われたら、それは嬉しいでしょう。ときには「ちょっとサボってない? 体重増えてきたよ」といった強烈な指摘もあるかもしれません。それでも一人でやるより、何倍も効果が大きいでしょう。

 仕事においても、常に目標達成できる人のほとんどは、周りを巻き込むことがうまい人です。積極的に自分の目標や行動を公開して、もらった意見を活かそうとします。周りから「突っ込んでもらえる」環境をあえてつくり、ほかの人から多くを学び取ろうとするのです。

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[理由その5]どうありたいかが見えていない

 ダイエットを成功させるために、多くの人は「毎日5キロ走る」「食事は軽めにする」などさまざまな行動を実践します。ところがうっかりするとその行動が目的化してしまい、目標を見失いがちになります。

 効果的でない行動は、簡単なものにどんどん変えてしまってよいのです。最初からベストな方法が見つかるはずはありません。行動を変えていくことで、最適な行動を探し当てていくのです。

 みなさんが日々、生活する中での「できたこと」の中には、自分の「ありたい姿」が隠れています。たとえば、ダイエットの目的は、もしかしたらやせるためではなく、健康になって家族との幸せの時間をたくさん持ちたいからかもしれません。それを見つめていくと、成長プロセスが楽しくなっていきます。なぜなら、自分のできたことを見て「小さな達成感」を感じることで、次へのモチベーションになるからです。こうしていくうちに、自分の「理想の姿」にたどり着くのです。

 以上が、ダイエットが失敗する5つの理由です。これを仕事に当てはめると、「達成できない負のスパイラル」から抜け出すヒントになるでしょう。

 

■ 永谷 研一(ながや・けんいち)
発明家/行動科学専門家。株式会社ネットマン 代表取締役社長。1966年静岡県生まれ。1999年ネットマン設立。学校や企業の教育の場にITを活用するサービスのパイオニア。行動変容を促進するITシステムを考案・開発し、日米で特許を取得。アメリカでO-1ビザ(卓越能力者ビザ)が認められた。行動科学や認知心理学をベースに、1万5000人の行動変容データを検証・分析し、目標達成メソッド「PDCFAサイクル」を開発。三菱UFJ銀行、ダイキン工業、シミックHD、トリドールHD、日立グループなど130社の人材育成プログラムに導入される。また子供たちの自己肯定感を高める社会活動を行っている。4人の子の父。著書に『1日5分「よい習慣」を無理なく身につける できたことノート』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

永谷氏の著書:
科学的にラクして達成する技術

永谷 研一