11月30日は、厚生労働省が定める「人生会議の日」です。
もしもの入院や治療のとき、本人は何を望み、費用はどれくらいかかるのか。厚生労働省の「高額療養費制度の概要」によると、75歳以上の窓口負担2割の一般区分では、令和8年8月診療分から外来の上限が月2万2000円、外来と入院を合わせた世帯の上限が月6万1500円となりました。
ところが、厚生労働省が令和4年に実施した「令和4年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」では、家族等と話し合ったことが「ない」人が68.6%、人生会議という言葉を「知らない」人が72.1%という結果でした。
本記事では、人生会議の基本と話し合いが進まない理由を整理し、話し合いの前に押さえておきたい75歳以上の入院時のお金の基本を、公的機関の公表資料をもとに解説します。
1. 人生会議(ACP)とは?「知らない」は72.1%、話し合っている人は約3割
人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)は、もしものときに備えて、望む医療やケアについて本人が考え、家族や信頼できる人と話し合う取り組みです。厚生労働省の「人生会議(ACP)」のページでは、気持ちは変わることがあるため、何度でも繰り返し話し合うことが大切だと説明されています。
同調査(一般国民20歳以上、回答3000人)で人生会議の認知度を見ると、「よく知っている」と「聞いたことはあるがよく知らない」を合わせても27.4%でした。「知らない」は72.1%と、約7割を占めています。家族等との話し合いも、「詳しく話し合っている」と「一応話し合っている」を合わせて29.9%と、3割に届いていません。
なお、同調査は20歳以上の一般国民全体が対象で、75歳以上に限った数値ではない点にご留意ください。
- 認知度:「よく知っている」5.9%/「聞いたことはあるがよく知らない」21.5%/「知らない」72.1%
- 家族等との話し合い:「詳しく話し合っている」1.5%/「一応話し合っている」28.4%/「話し合ったことはない」68.6%
2. 人生会議で話し合えない理由は?「きっかけがなかった」が6割超
同調査で、家族等と話し合ったことがない人(2057人)にその理由を尋ねたところ、最も多かったのは「話し合うきっかけがなかったから」の62.8%でした。次いで「知識が無いため、何を話し合っていいか分からないから」が31.0%、「話し合う必要性を感じていないから」が21.8%と続きます。
話し合った経験がある人(898人)に相手を尋ねた結果は、「家族・親族」が93.3%、「友人・知人」が12.4%、「医療・介護従事者」が8.4%でした。話し合いの多くは家族の間で行われており、きっかけがつかめないまま先送りになっている人が多いのかもしれません。
何を話せばよいか分からない人にとって、入院費用の見通しは話し合いの具体的な入り口になります。次の章では、もしもの入院で1か月に支払う自己負担の上限を確認しましょう。
3. もしもの入院、1か月の自己負担は?令和8年8月診療分からの上限額
75歳以上が加入する後期高齢者医療制度では、医療機関の窓口で支払う割合が所得に応じて1割・2割・3割に分かれています。1か月の窓口負担が上限額を超えた場合、超えた分は高額療養費として支給される仕組みです。この上限額は、令和8年8月診療分から見直されました。
同資料によると、窓口負担2割の一般区分の上限は次のとおりです。外来は月2万2000円、外来と入院を合わせた世帯の上限は月6万1500円となっています。
- 外来(個人ごと):月2万2000円
- 外来と入院の合計(世帯ごと):月6万1500円
- 外来のみの年間上限(個人ごと、8月から翌年7月):21万6000円
- 世帯の年間上限(8月から翌年7月):53万円(一部の方は41万円)
たとえば窓口負担2割の方の1か月の外来医療費(総額)が15万円なら、窓口負担は3万円です。外来の上限は月2万2000円ですので、差額の8000円が高額療養費の対象になります。
入院で医療費の総額が100万円かかった月は、2割負担で20万円となりますが、世帯の上限6万1500円を超えた13万8500円が対象です。1割の方や3割の方、住民税非課税の方は、適用される区分と上限額が異なります。また、差額ベッド代のように上限の対象にならない費用もあるため、実際の区分は広域連合などに確認してください。
4. 話し合いの前に押さえたいお金の注意点が3つあります
人生会議で費用に触れるときは、次の3点を確認しておくと、話が具体的になります。
4.1 1. 窓口負担は1割・2割・3割のどれ?2割の判定基準は
後期高齢者医療の窓口負担は、現役並み所得者が3割、一定以上の所得がある方が2割、それ以外の一般所得者等が1割です。住民税非課税世帯の方は、基本的に1割負担とされています。
2割負担となるのは、課税所得が28万円以上で、かつ「年金収入+その他の合計所得金額」が単身世帯で200万円以上、複数世帯で320万円以上の方です。
厚生労働省の「後期高齢者医療における窓口負担割合の見直し」によると、2割負担が始まった令和4年10月時点の対象者は約370万人で、被保険者全体(約1815万人)の約20%にあたります。
同じ75歳以上でも、世帯の収入状況によって負担割合が変わる点は見落としやすいところです。親の負担割合を家族が把握していない場合は、お住まいの市区町村や広域連合に確認してみてください。
4.2 2. 差額ベッド代は上限の対象外?1日平均は7026円
差額ベッド代の1日当たり平均徴収額と日数別の試算3/3
出所:厚生労働省「(令和7年)主な選定療養に係る報告状況」(令和8年7月22日 中央社会保険医療協議会 総会 第653回 資料)をもとにLIMO編集部作成
差額ベッド代(特別の療養環境の提供)は、公的医療保険の対象外の費用です。高額療養費の上限とは別に、全額が自己負担となります。
厚生労働省が令和8年7月22日の中央社会保険医療協議会 総会に示した「(令和7年)主な選定療養に係る報告状況」によると、令和7年8月1日現在の1日当たり平均徴収額(推計)は、全体で7026円でした。
病室別では1人室が8710円、2人室が3161円、3人室が2815円、4人室が2894円です。1人室は令和4年7月1日時点の8322円から、3年間で388円上がっています。
- 全体平均7026円:10日間で7万260円/30日間で21万780円
- 1人室8710円:10日間で8万7100円/30日間で26万1300円
- 4人室2894円:10日間で2万8940円/30日間で8万6820円
上記は平均徴収額をもとにした編集部の試算で、実際の請求額を示すものではありません。高額療養費で医療費の上限が守られても、病室の希望次第で別の費用が加わる点が盲点です。1人室の病床は令和7年8月1日現在で20万2592床あり、総病床数の16.2%でした。請求の有無や条件は医療機関ごとの説明で確認する必要があります。
4.3 3. 年間上限は新設された?令和9年8月にも見直しが予定されています
高額療養費の自己負担限度額は、令和8年8月診療分から見直され、年間の上限が新たに設けられました。厚生労働省の「高額療養費制度を利用される皆さまへ」によると、令和9年8月にも所得区分を細分化するなどの見直しが予定されています。
世帯の年間上限による支給は償還払い(いったん支払った後に支給を受ける方法)で、令和9年8月以降に対象となる可能性が高い方へ、加入先の後期高齢者医療広域連合から案内が送られます。年間上限の支給は、毎月の窓口とは別の手続きの流れになる点にも注意が必要です。案内の時期や方法はお住まいの広域連合で異なる場合があるため、最新の情報を確認しましょう。
5. 話し合いが進まない背景は?医療費のデータと本人の意向から見る
5.1 75歳以上の1人当たり医療費は98.9万円、全体の約2.5倍
厚生労働省が令和8年8月28日に公表した「令和7年度 医療費の動向」によると、令和7年度の概算医療費は49.2兆円で、前年度から約1.3兆円(2.6%)増えました。1人当たり医療費は全体で40.0万円、75歳以上で98.9万円です。75歳以上は全体の約2.5倍にあたります(編集部計算)。
ここでの1人当たり医療費は、医療費全体を人数で割った平均値です。本人が窓口で支払う自己負担額ではないため、この金額に1割や2割を掛けた額がそのまま負担になるわけではありません。ただし、年齢が上がるほど医療を受ける機会が増える傾向がうかがえるため、元気なうちから備えを話し合う意味は小さくないでしょう。
5.2 書面や信頼できる人を決めることに賛成は約7割、共有は15.8%
本人の意向に目を向けると、同調査では、人生の最終段階の医療・ケアについて「考えたことがある」人が51.9%いました。一方で、家族等と話し合っている人は29.9%です。考えている人の半数近くが、話し合いまで進めていない計算になります。
事前に書面を作成しておくことへの賛成は69.8%(反対は1.3%)、信頼する人を決めておくことへの賛成は69.3%(反対は2.8%)でした。意思決定を託したい人は、「家族」が92.3%、「医療・介護従事者」が27.5%です。(複数回答)
話し合った内容を医療・介護従事者と「共有している」人は15.8%、「共有していない」人は81.6%でした。話し合いの内容が医療の現場に伝わっていない場合が多い状況です。
6. まとめにかえて|話し合うきっかけに。人生会議で確認したいお金の4項目
人生会議では、どのような医療やケアを望むかに加えて、費用の見通しも家族で共有しておくと安心につながります。公的な制度の枠組みにもとづき、次の4項目から話し合ってみてはいかがでしょうか。
- 窓口負担割合:1割・2割・3割のどれに当たるか
- 高額療養費の区分:外来と世帯それぞれの月額上限、年間上限はいくらか
- 入院時の病室の希望:個室を望むか、大部屋でもよいか(差額ベッド代は1日平均7026円)
- 支払いの段取り:入院費の支払いを誰が担い、どの口座を使うか
この4項目を一度に決める必要はありません。気持ちや状況が変われば、何度でも話し直せることが人生会議の特徴です。まずは厚生労働省の「人生会議(ACP)」のページで取り組みの概要を確認し、お住まいの市区町村や広域連合で負担割合や高額療養費の区分を調べるところから始めてみましょう。
預貯金の管理や成年後見制度など、法律や税金に関わる個別の判断が必要な場合は、自治体や公的機関の専門の相談窓口に相談するのが安心です。
※窓口負担割合や自己負担の上限額などの個別の取り扱いは、お住まいの市区町村、後期高齢者医療広域連合、加入している医療保険者、医療機関の窓口にご確認ください。本記事は公的機関の公表情報にもとづく一般的な制度解説であり、制度内容や数値は将来変更される場合があります。
参考資料
- 厚生労働省「令和4年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」(調査期間:令和4年11月22日〜令和5年1月21日)
- 厚生労働省「人生会議(ACP)」(2026年11月4日閲覧)
- 厚生労働省「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)してみませんか?」(2026年11月4日閲覧)
- 厚生労働省「高額療養費制度の概要」(2026年11月4日閲覧)
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(令和8年7月31日更新、2026年11月4日閲覧)
- 厚生労働省「後期高齢者医療における窓口負担割合の見直し」(令和4年10月施行)
- 厚生労働省「(令和7年)主な選定療養に係る報告状況」(令和8年7月22日 中央社会保険医療協議会 総会 第653回 資料)
- 厚生労働省「令和7年度 医療費の動向」(令和8年8月28日公表)