SpaceX(スペースX)の2026年7〜9月期決算で、AIクラウドなどを手がける「SI(スーパーインテリジェンス)」事業が売上の5割を超え、営業利益でも黒字になりました。
SpaceXといえばロケットと衛星通信「Starlink」の会社です。上場前には、AIへの設備投資が重荷になり、なかなか稼げないのではないかとも言われていました。
今回の黒字を読み解くうえで、元機関投資家の泉田良輔氏は、AIのデータセンターづくりで多くの会社が詰まっているボトルネック(電力・チップ・場所)を、SpaceXが自前で外そうとしている点に注目します。計算の能力(キャパ)を持っていること自体が価値になる局面で、SpaceXは自社で使わない計算の能力を他社に貸して稼いでいると泉田氏は見ています。
1. 売上の半分超がAI事業に
7〜9月期の売上高は145.8億ドル(前年同期比161%増)、営業利益は27.9億ドルでした。
売上の5割超を占めたのはSI・AIクラウドの事業です。利益で見ると、まだStarlinkを含む通信事業(Connectivity)が営業利益の84.8%を稼いでおり、泉田氏も上場前は「ほとんどStarlinkじゃん」と指摘していました。それでも今回、SI・AIクラウドは営業利益の15.4%を占め、黒字になっています。
上場前は、SIの設備投資が重しになり、ここが黒字化するかが争点でした。では、なぜSpaceXのAI事業は早く利益を出せたのでしょうか。
2. 泉田氏が「回収が早い」と見る理由
SpaceXのCFO(最高財務責任者)は、10〜12月期の設備投資を350億〜400億ドル、2027年1〜3月期の全社売上を330億〜370億ドルと見込みました。2つの見通しは別々の根拠で示されており、売上見通しの根拠は今後6か月の契約です。それでも泉田氏は、投資とほぼ同じ規模の売上が翌四半期に立つ点に、回収の早さへの自信が表れていると読みます。
では、なぜSpaceXは早く回収できると考えているのでしょうか。泉田氏は、AI投資のボトルネックを解消するときにSpaceXが何をしているかが大事だと話します。ボトルネックは「電力」「チップ」「場所」の3つです。
AIデータセンターの3つのボトルネックとSpaceXの打ち手1/2
出所:SpaceX 2026年7〜9月期 決算説明会・目論見書(2026年6月)、泉田良輔氏の解説を基にイズミダイズム作成
2.1 電力:ボトルネックはガスタービンの「羽根」
泉田氏によると、アメリカでデータセンターを作るとき、いま一番手っ取り早く主流になっている電源は、ガスタービンによる火力発電です。ところが、GEや三菱重工といったガスタービンを作れる会社のキャパは、すでにいっぱいになっているといいます。GEは2031年に納める分の予約を受け付けている段階だと泉田氏は説明します。
その中でも特に詰まっているのが、タービンの羽根です。ジェット機のエンジンのように角度のついた羽根に火を当てて回し、発電する部品です。羽根はタービンのほかの部分より12〜18か月遅れているとされます。
「タービンの羽根が作れない。要はキャパがいっぱいなんで、もう納められませんよって話になっているんですよ」
これに対してSpaceXは、ロケットエンジン用の技術を使って羽根を自社で鋳造しています。発電機は買ってくるとしても、一番詰まっている羽根だけを自分たちで作れば、ほかの会社より1年〜1年半早く電力を立ち上げられます。これがイーロン・マスク氏(SpaceXのCEO)の算段だと泉田氏は説明します。
泉田氏によると、マスク氏の構想はさらに大きいといいます。発電所は、電気を一番使う時間帯(日中や夕食どき)に合わせて能力を用意しているため、夜間などはその能力が余っています。Teslaが作る電池にその時間の電気を貯め、データセンターが使うときに引き出せば、もっと効率よく電力を調達できるという考え方です。
2.2 チップと場所:Terafabと宇宙
チップについては、Tesla、Intelと一緒に半導体工場「Terafab」を作ろうとしています。2027年5〜6月ごろに試作チップを動かすことを社内の目標にしています。
場所については、アメリカでは住民の反対運動などで、データセンターを簡単には建てられない地域も出てきていると泉田氏は話します。そこでSpaceXが挙げているのが、反対運動の起きない宇宙です。
泉田氏は、普通の人が言えば「できるわけがない」と言われるような話でも、マスク氏が言い、SpaceXが今持っている技術や設備で考えると、できるのだろうと思わせるところがすごいと話します。競合が何に困り、投資家に何を問われているかを理解したうえで、1つずつ答えているという見方です。
3. 泉田氏が見る黒字の背景:余った計算資源を「貸す」商売
SI事業が黒字になった背景について、泉田氏は、SpaceXが自分たちで使わない計算資源(キャパ)を他社に貸す商売がうまくいっていることを挙げます。
計算能力を貸し出す事業は「ネオクラウド」と呼ばれ、CoreWeave(コアウィーブ)などが知られています。ハイパースケーラー(巨大なデータセンターを持つ大手クラウド事業者)が自前では間に合わなかったキャパを、ネオクラウドから借りて計算処理をしているという構図です。泉田氏は、キャパを実際に持っていること自体が今は難しく、そのため価値になると説明します。
「自分たちで設備投資する期間を短くできるわけじゃない?となると、このビジネスにおいても優位性があるわけですよ。それで、この商売がうまくいってて、みんなキャパ足んないから、契約してくれる条件もSpaceXからすると有利なわけですよね」
マスク氏の貸し方の方針は、長期ではなくスポット(その都度の条件)で貸すことだと泉田氏は紹介しています。よりよい条件を出す相手が現れれば、そちらに乗り換えていけるという考え方で、借りたい側が多く貸せる側が少ない今は、売り手市場になっていると泉田氏は見ています。
3.1 大口顧客の構成と、解約の条件
SpaceXは四半期報告書(Form 10-Q)で、AIクラウドの契約内容の一部を開示しています。7〜9月期の連結売上のうち、顧客Aが16.6%、SI関連の顧客Bが34.5%を占めました。社名は明かされていません。
連結売上に占める大口顧客の割合(2026年7〜9月期)2/2
出所:SpaceX Form 10-Q(2026年9月30日終了四半期)を基にイズミダイズム作成
開示されているのは「連結売上の10%を超える顧客」が2社という意味で、顧客がこの2社しかいないわけではありません。ただ、上位2社で7〜9月期の連結売上の約5割(51.1%)を占めており(1〜9月の累計では約4割=41.5%)、顧客Bの分はSI事業の売上の約3分の2にあたります(開示値からの計算値)。
泉田氏は、大口顧客への依存はもちろんリスクだとしたうえで、企業向けのビジネスなので、自社で設備投資できたからといってすぐにやめるという話にはなりにくいと見ています。契約期間は通常3年です。ただし、双方とも90日前に通知すれば解約できる条件も付いています。