3. 退職金が入る前の住民税:退職した月で残りの納め方が変わる
会社員の住民税は、前年の所得をもとに計算した年税額を、6月から翌年5月までの12回に分けて給与から差し引く仕組みです(特別徴収)。退職して給与から引けなくなったあとの残りをどう納めるかは、地方税法第321条の5に定めがあります。
3.1 1月から4月に退職すると最後の給与や退職金から一括で
1月1日から4月30日までに退職した場合は、5月31日までに支払われる給与や退職手当が残りの住民税の全額を上回るときに限り、そこから残りを一括で差し引くことになっています。本人の申し出は要りません。
3.2 6月から12月の退職は申し出がなければ自分で納める
6月1日から12月31日までに退職した場合、最後の給与や退職手当から一括で差し引くのは、本人の申し出があったときです。申し出がなければ、残りは市区町村から届く納付書などで自分で納める普通徴収に切り替わります。
納付方法の案内の仕方は市区町村ごとに異なります。たとえば広島市では、退職すると残額は原則として普通徴収になり、12月までに退職した人が給与や退職金から一括で納めるには本人の希望が要ると案内しています。
3.3 住民税が年36万円の人の場合
年税額36万円(月3万円)の人を例に、退職した月ごとの残りを計算すると次のとおりです。
- 3月31日に退職:4月分・5月分の6万円を、最後の給与や退職金から一括で差し引く
- 9月30日に退職:10月分から翌年5月分までの8か月分で24万円。申し出れば一括、申し出なければ普通徴収
9月末に退職して申し出をしなかった場合、24万円は退職後に自分で納める形です。どちらで納めるかは、退職前に会社の給与担当に伝えておきましょう。
4. 【未払賃金立替払制度】会社が倒産して退職金が払われないときは国が一部を立て替える
退職金は会社が支払うものなので、会社が倒産すると支払われないおそれがあります。そうしたときに使えるのが、国が未払いの賃金の一部を立て替える未払賃金立替払制度です。
厚生労働省の「令和7年度の未払賃金立替払事業の実施状況」によると、2025年度に立替払を行った企業は2223件(前年度比15.2%減)、支給者は2万8987人(同5.2%減)、立替払額は118億8500万円(同7.6%増)でした。支給者1人あたりにならすと、約41万円になります。
4.1 立替払の対象には退職手当も入る
賃金の支払の確保等に関する法律施行令第4条によると、立替払の対象となる未払賃金には、毎月の給与だけでなく退職手当も入ります。対象は、会社が破産手続開始の申立てなどをした日の6か月前の日から2年間に退職した人です(同施行令第3条)。
立て替えられる額は、未払賃金総額の8割です。未払賃金総額には退職した日の年齢に応じた限度額があり、立替払の上限は次のとおりです。
- 30歳未満:未払賃金総額の限度額110万円、立替払の上限88万円
- 30歳以上45歳未満:未払賃金総額の限度額220万円、立替払の上限176万円
- 45歳以上:未払賃金総額の限度額370万円、立替払の上限296万円
たとえば58歳で退職し、退職金1000万円がまるごと払われなかった場合、立替払の計算に入るのは370万円までです。受け取れるのはその8割の296万円で、残りの704万円は立替払の対象になりません。
4.2 退職金の保全は努力義務で、遅延利息の対象からも外れている
賃金の支払の確保等に関する法律第5条は、退職手当を支払うと定めた事業主に、支払いに充てる額の保全措置を講じるよう求めています。ただし、条文は「努めなければならない」という書き方で、義務ではなく努力義務です。
なお、中退共と契約している事業主などは、もともとこの保全措置の対象から外れています。
また同法第6条は、退職した人の賃金を退職の日までに支払わなかった事業主に、年14.6%の遅延利息を課しています(同法施行令第1条)。ただし、この条文の「賃金」からは退職手当が除かれているのです。
5. 退職金の支払時期は退職前に就業規則と2つの窓口で確かめる
退職金がいつ、どのように入るのかを退職日が決まる前に知っておけば、生活費や住民税の段取りを立てやすくなります。確認したいのは次の3つです。
- 就業規則・退職金規程:「支払の時期」と、請求の手続きが要るかどうか
- 会社の給与担当:住民税を最後の給与や退職金から一括で差し引いてもらうかどうか
- 中退共に加入している会社なら:退職金共済手帳(請求書)をいつ受け取れるか
就業規則に支払時期の定めが見当たらない、決められた時期を過ぎても支払われない、といったときは、会社の所在地を受け持つ労働基準監督署に相談できます。住民税の納め方は、住んでいる市区町村の住民税の担当課が窓口です。
6. まとめにかえて
会社員の退職金は、労働基準法で「7日以内」と決まっているわけではなく、就業規則で定めた支払時期に支払われます。国家公務員は退職から1か月以内、中退共は請求から1か月〜2か月半程度が目安です。
退職金が入るまでのあいだにも、住民税の残りや毎月の生活費の支払いは続きます。会社が倒産したときの未払賃金立替払制度も含め、受け取れる時期と金額を早めに把握しておきましょう。
参考資料
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」
- e-Gov法令検索「労働基準法」
- 群馬労働局「賃金支払いに関する事項のあらまし」
- e-Gov法令検索「国家公務員退職手当法」
- 厚生労働省「退職金の請求」
- 勤労者退職金共済機構「退職金請求手続きの流れについて」
- e-Gov法令検索「地方税法」
- 広島市「退職したのですが、個人の市民税・県民税(住民税)の納付方法は、どのようになりますか(退職と住民税)。」
- 厚生労働省「令和7年度の未払賃金立替払事業の実施状況」
- e-Gov法令検索「賃金の支払の確保等に関する法律」
- e-Gov法令検索「賃金の支払の確保等に関する法律施行令」
太田 彩子