3. 給与6割でも手取りは約7割?高年齢雇用継続給付を足すと月約24.0万円で、60歳前の約69%
高年齢雇用継続給付は、雇用保険法第12条により税金がかからない給付です。再雇用後の手取りに給付金をそのまま足すと、次のようになります。
- 【60歳前】手取り 月約34.7万円
- 【再雇用後・給付金なし】手取り 月約21.4万円(60歳前の約62%)
- 【再雇用後・給付金あり】手取り+給付金 月約24.0万円(60歳前の約69%)
額面の給与は6割でも、手取りで比べると約7割が残る計算です。60歳前との差は、額面では月約17.8万円ですが、手取りと給付金で見ると月約10.7万円です。
※試算の前提は前章と同じです。高年齢雇用継続給付は、令和7年4月1日以降に60歳になった人の支給率(最大10%)で計算しています。
4. 再雇用の5年間で65歳からの年金はいくら増える?老齢厚生年金が年約8.6万円増える
再雇用で厚生年金に加入して働くと、60歳から65歳までの給与も、65歳から受け取る老齢厚生年金に反映されます。日本年金機構「報酬比例部分」の計算式(平成15年4月以降の加入期間)に当てはめると、次のとおりです。
- 【計算式】平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数
- 【再雇用後の標準報酬月額】26万円(給与 月約26.7万円の等級)
- 【60歳から65歳までの60か月分】年約8.6万円(月約7100円)増える
この増えた分は、65歳から生涯にわたって受け取れます。給与が6割に下がっても、厚生年金に加入して働いた期間は、老後の年金の上乗せとして残ります。
※試算の前提:賞与なし、60歳から65歳になるまで標準報酬月額26万円で60か月加入。経過的加算は含めていません。
5. 再雇用1年目の手取りは2年目より少ない?住民税は前年の給与で決まり、年約13.4万円多い
住民税は、前の年の1月から12月までの所得をもとに計算されます。このため、再雇用1年目は、給与が6割に下がっていても、60歳前の給与をもとにした住民税を納めることになります。
- 【60歳前の給与で決まる住民税】年約26.1万円(月約2.2万円)
- 【再雇用後の給与で決まる住民税】年約12.8万円(月約1.1万円)
- 【再雇用1年目の手取り+給付金】月約22.9万円(2年目以降は月約24.0万円)
差は年約13.4万円です。再雇用1年目は、2年目以降より手取りが月約1.1万円少なくなります。給与から天引きされる住民税は、毎年6月から翌年5月までの12回に分けて納めるため、切り替わりの時期は再雇用された月によって変わります。
※試算の前提は前章までと同じです。60歳前の1年間も、給与月約44.6万円だったとして計算しています。
6. 【元FP会社職員の視点】検証:再雇用の手取りは、給与の下がり方だけでは決まらない
今回の試算からは、3つのことが読み取れます。1つは、給与が6割になっても、手取りは6割まで下がらないことです。社会保険料と税が減り、高年齢雇用継続給付が加わるため、手取りと給付金を合わせると60歳前の約7割が残りました。
2つ目は、給付金の支給率が60歳になった時期で違うことです。令和7年3月31日までに60歳になった人は、支給率が最大15%です。同じ給与なら給付金は月約4.0万円で、令和7年4月以降に60歳になった人より月約1.3万円多くなります。
3つ目は、給与が6割まで下がるのは、平均よりも大きく下がるケースだということです。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」では、60~64歳の賃金は男性で月35万8500円と、55~59歳の約80%です。男女計では約83%でした。
ただし、この統計は60~64歳で働く人全体の平均で、再雇用の人だけの数字ではありません。勤め先の再雇用の給与が何割になるかは、会社の制度で大きく変わります。
再雇用の給与を提示されたら、額面の割合だけでなく、手取りと給付金を合わせた額で比べてみてください。60歳時点の給与と再雇用後の給与が分かれば、高年齢雇用継続給付の対象になるかも確かめられます。
私自身、NISAを7年以上続けてきて、収入が変わる時期ほど、家計は「入ってくる額」と「残る額」を分けて見直すことが土台になると感じています。まずは無理のない範囲で、ご自身の手取りを確かめるところから始めてみましょう。
7. まとめ
定年後の再雇用で給与が6割になっても、手取りはそこまで下がりません。60歳前の給与が月約44.6万円の場合、再雇用後の給与は月約26.7万円ですが、高年齢雇用継続給付の月約2.7万円を合わせると、手取りは月約24.0万円で60歳前の約7割でした。
さらに、65歳からの老齢厚生年金が年約8.6万円増えます。一方、再雇用1年目は、前の年の給与で決まる住民税が重くなります。再雇用の条件を考えるときは、5年間の手取りと65歳からの年金まで含めて見ておきましょう。正解は一つではありません。ご自身の働き方と家計に合わせて、無理のない形を考えていきましょう。
※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。実際の手取りや給付金、年金額は、賞与や手当の有無、加入している健康保険、扶養する家族、各種控除、制度改正などにより異なります。高年齢雇用継続給付の対象になるかは勤め先やハローワーク、年金額は年金事務所や「ねんきんネット」でご確認ください。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査の概況」(性別にみた賃金)
- 厚生労働省・ハローワーク「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について」
- e-Gov法令検索「雇用保険法」
- 全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率」
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表」
- 神奈川労働局「雇用保険料率」
- 日本年金機構「報酬比例部分」
- 国税庁「No.1410 給与所得控除」
- 国税庁「No.1199 基礎控除」
- 総務省「個人住民税」
下村 美乃莉