4. 会社の開示資料の「どこ」を読むべきか
では、キオクシアが現在このサイクルのどこにいるのかを、投資家はどのように判断すればよいのでしょうか。泉田氏は、会社が決算のたびに公表する資料の中に、重要なヒントがあると指摘します。
具体的には、決算説明会資料の中にある「NAND市場の概況」というページです。ここには、データセンター(DC)・エンタープライズ向け、スマートフォン・PC向け、そしてNAND市場全体の見通しが書かれています。
NAND市場の概況4/4
出所:キオクシアホールディングス「2027年3月期 第1四半期 決算説明会」資料(2026年7月31日) p.5
第1四半期の資料では、NAND市場全体の見通しとして、2026年(暦年)のビット伸長率(記憶容量をビットという単位で数えた市場の伸び率)は「10%台後半」とされ、2027年(暦年)には「需要が供給を上回る状況を予想」と記載されていました。また、データセンター向けの欄には「Agentic AI向けアプリケーションがNAND需要拡大の主要な成長ドライバーに」と書かれています(Agentic AIはAIエージェントとも呼ばれます)。
泉田氏は、すでに10月に入っているため2026年の数字そのものが大きく変わることはないと見ており、注目すべきは会社がどうコメントするかだといいます。投資家が注目すべきは、次の決算発表でこれらの「表現」がどのように変化するかです。見通しの「10%台後半」が引き上げられるのか、引き下げられるのか。また、2027年の「需要が供給を上回る」という予想が維持されるのかどうか。これらの表現の変化が、サイクルの位置を測るバロメーターになると考えられます。
さらに数値面では、会社が示す「次の四半期のガイダンス」の前四半期比(QoQ=直前の3か月との比較)を確認します。今回の第2四半期ガイダンスは売上収益が前四半期比で+35.2%でした。泉田氏は、次に出る第3四半期のガイダンスの伸び率がこれより上がっていればポジティブ、下がっていれば注意が必要だと話します。インフラ投資の勢いが続いているのか、鈍り始めているのかを読み取る手がかりになります。
5. 株主と株主還元の現在地
最後に、キオクシアの株主構成と会社のアクションについても触れておきます。
会社は7月31日、投資家層の拡大を目的として1株を3株にする株式分割(10月1日効力発生)を発表しました。同時に、「資本効率の向上と株主還元の充実」を目的として、上限8,000億円の大規模な自社株買いも発表し、8月3日から10日までのわずか6営業日で取得を終了しています。泉田氏は、大株主であるベインキャピタル系のファンドの売却をある程度吸収する必要があったことや、利益が出ているなかでのお金の使い道という意味合いもあったと見ています。
一方で、大株主による株式の売却も続いています。ベインキャピタル系のファンドは6月4日と6月11日に、市場外の取引で計約2,179万株(分割前。分割後に直すと約6,537万株)を手放し、ベイン系の保有割合(株券等保有割合)は14.17%になりました。
また、母体である東芝も8月4日から9月7日にかけて市場で計約666万株(分割前)を売り、保有割合は12.84%に下がりました。8月3日には市場で約199万株(分割前)を売却しており、同日付で筆頭株主が東芝からベイン系のファンドに入れ替わっています。10月1日時点での東芝の保有割合は11.80%となっています。
さらに、日本取引所グループ(JPX)は10月7日、TOPIX(東証株価指数)の算出に使うキオクシアの浮動株比率(市場で売買されうる株の割合)を、15%から2段階で50%まで引き上げると発表したと報じられています。泉田氏は、これによりTOPIXに連動するインデックスファンド(指数に連動するように運用する投資信託)の買いが入るとして、需給面ではプラスに働くと見ています。
5.1 有価証券報告書のリスク欄の活用法
こうした大株主による売却が株価の重しになるリスクについて、実は会社自身が有価証券報告書の「事業等のリスク」という項目で明記しています。該当箇所には「当社株主による当社株式の処分に係るもの」として、ベイン系のファンドや東芝による売却が市場価格に影響を及ぼす可能性が書かれています。
同じリスク欄には、今回の話とは直接関係のない気候変動のリスクも並んでいます。会社が業績や株価に影響しうるものを幅広く挙げている一覧だといえます。泉田氏自身は、機関投資家時代にこの欄をほとんど見なかったといいます。書かれている内容は言われるまでもなく認識していたからです。一方で、個人投資家が会社のリスクを改めて整理するには便利だと話します。
「特に知らない会社、知らない業種に関しては、『こういうリスクがあるんだ』と知ることもあるので、見た方が面白いと思います」
6. まとめ
この記事では、キオクシアの業績好調の背景と、事業サイクルの見方について解説しました。投資に活かせるポイントは以下の通りです。
- 開示資料の変化に注目する:次の決算で2027年について「需要が供給を上回る状況を予想」という表現が維持され、第3四半期ガイダンスの前四半期比が第2四半期の+35.2%を上回れば、AIインフラ投資の段階がまだ力強く続いていると読めます。
- サイクルの転換点に備える:もし表現が弱まったり、伸び率が下がったりした場合、ドットコムバブル後の光ファイバーのように「インフラ投資が一巡した後」の局面に近づいていると意識する必要があると考えられます。その場合、株式市場の関心はインフラを使って稼ぐサービスの側へ移っていく、というのが泉田氏の見方です。
なお、この記事では競合他社の動向、製品の価格変動、為替の影響、および新たな技術開発の進捗については扱っていません。実際の投資判断においては、これらの要因が業績に与える影響も考慮する必要があります。また、インフラ投資の次にどのサービスが主役になるかについては、泉田氏も「まだ見えない」としており、今後の市場動向を注視していく必要があります。
参考資料
- キオクシアホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年7月31日)
- キオクシアホールディングス「2027年3月期 第1四半期 決算説明会」資料(2026年7月31日)
- キオクシアホールディングス「株式分割及び株式分割に伴う定款の一部変更に関するお知らせ」(2026年7月31日)
- キオクシアホールディングス「自己株式の取得枠設定に関するお知らせ」(2026年7月31日)
- キオクシアホールディングス「自己株式の取得状況及び取得終了に関するお知らせ」(2026年8月10日)
- キオクシアホールディングス「主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」(2026年8月10日)
- キオクシアホールディングス「有価証券報告書(第8期)」(2026年6月24日)
- 株式会社東芝「変更報告書」(2026年8月10日・9月14日・10月8日提出)
- BCPE Pangea Cayman2, Ltd. ほか「変更報告書」(2026年6月16日提出)
- 森口亮「キオクシア株『浮動株比率引き上げ』で“2兆円超の買い需要”でも株価が勢いづかない3つの事情」(マネーポストWEB、2026年10月15日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
各資料の入手先: キオクシアホールディングス株式会社 IRライブラリ
株式会社東芝・BCPE Pangea Cayman2 ほかの変更報告書(大量保有報告書)は、金融庁の電子開示システム「EDINET」で閲覧できます。
※リンクは記事作成時点のものです。