4. 同じ10日でも月をまたぐとどうなるのか
高額療養費は、月の1日から末日までの医療費で計算します。月末から翌月にかけて入院すると、医療費が2つの月に分かれ、それぞれの月で上限に届かないことがあります。
- 【同じ月に10日】医療費約8.7万円+食事代=約10.4万円
- 【月末5日+翌月5日】医療費6.3万円×2か月+食事代=約14.3万円
- 【30日を15日ずつ2か月】医療費約8.9万円×2か月+食事代=約22.8万円(同じ月より約8.3万円多い)
10日の入院が月をまたぐと、それぞれの月の医療費は21万円で、3割の6.3万円が上限額の8万5800円を下回ります。高額療養費は出ず、3割をそのまま負担することになります。
予定された手術などで入院日を選べる場合は、入院の時期を病院に相談する方法もあります。ただし、治療の都合が優先です。
5. 働けない間の収入は?会社員は傷病手当金で給与の約3分の2、国民健康保険では任意の給付
生命保険文化センターの調査では、直近の入院で収入が減った人は18.3%で、減った額は平均27.3万円でした。
会社員などが加入する健康保険では、病気やけがで仕事を休み給与が出ないとき、休み始めて4日目から傷病手当金が支給されます。1日あたりの額は、直近12か月の標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2で、支給期間は通算1年6か月です。
- 【入院10日】1日6667円×7日=約4.7万円
- 【入院30日】1日6667円×27日=約18万円
厚生労働省「我が国の医療保険について」によると、自営業やフリーランスの人などが加入する国民健康保険では、傷病手当金は市町村などが任意で行う給付です。行っていなければ、休んだ間の収入は自分で備えることになります。
※試算の前提:標準報酬月額30万円。連続する3日間の待期のあと、4日目から支給。休んだ日の給与は出ないものとします。
6. 【元公務員の視点】検証:医療保険が要るかは「病室」「貯蓄」「働き方」で分かれる
試算では、大部屋に10日入院した場合の自己負担は約10.4万円で、調査の平均18.7万円より少なくなりました。調査の平均には、差額ベッド代や家族の交通費、日用品のほか、月をまたいだ入院や長い入院も含まれるためと考えられます。
医療費そのものは、高額療養費で月9万円前後に収まります。差がつくのは、差額ベッド代、入院が月をまたぐかどうか、それに働けない間の収入です。
数字を読むうえで押さえておきたいのが、窓口での支払い方です。いまはマイナ保険証か、自己負担限度額の区分が書かれた資格確認書を医療機関に出せば、窓口での支払いは月の上限額までで済みます。限度額適用認定証を前もって申請する必要は、原則ありません。
ただし、オンラインで資格を確認できない医療機関にかかる場合や、住民税非課税世帯で入院中の食事代の減額を受けたい場合などは、認定証の申請が必要になります。
また、2026年8月に新設された年間上限(この区分で53万円)は、医療機関の窓口でいったん支払い、上限を超えた分をあとから加入している健康保険から払い戻してもらう仕組みです。入院が長引いたり繰り返したりした場合は、4回目から上限が月4万4400円に下がる「多数回該当」もあります。
すぐに使える貯蓄が20万円ほどあり、大部屋でよい会社員なら、10日程度の入院は貯蓄でまかなえる計算です。一方、個室を希望する人や、傷病手当金のない国民健康保険の加入者では、給付金が支払いと収入減の両方を支える場面が出てきます。
医療保険には、支払いと収入減に備えられる安心がある一方で、保険料を払い続ける負担もあります。払い込む保険料の総額と受け取れる給付金を比べたうえで、必要な日額を考えていただきたいと思います。
7. まとめ
2026年8月からの高額療養費の上限で試算すると、年収約370万〜約770万円の会社員が同じ月に10日入院した場合の自己負担は、食事代を含めて約10.4万円でした。平均的な医療保険の給付金8.5万円で約8割をまかなえます。一方、個室を選ぶと約19.1万円、月をまたぐと約14.3万円になります。
医療保険を考えるときは、まず公的な医療保険で自分の負担がどこまで抑えられるかを知るところから始めてみてください。上限額の区分や傷病手当金の有無は、加入している健康保険(会社員は協会けんぽや健康保険組合、自営業の人は市区町村の国民健康保険の窓口)で確かめられます。
※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。実際の自己負担は、医療費の額、入院の時期、所得区分、加入している健康保険、病院の料金などによって変わります。詳しくは、加入している健康保険や医療機関、保険会社などでご確認ください。
参考資料
- 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 2. 物価対応」
- 厚生労働省「令和7年度 医療費の動向」
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会「主な選定療養に係る報告状況」
- 厚生労働省「我が国の医療保険について」
- 北海道「令和8年8月から高額療養費制度が見直されます」
- 全国健康保険協会「傷病手当金」
- 生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査」
太田 彩子