夫を亡くして遺族厚生年金を受け取りながら働いていると、収入が増えたら年金が減るのではないかと心配になる方もいるのではないでしょうか。

日本年金機構と厚生労働省の解説ページには、就労や収入を理由に遺族厚生年金が止まるという記載はありません。ただし、65歳以上で厚生年金に加入して働くと、自分の老齢厚生年金が「在職老齢年金」の仕組みで減ることがあり、令和8年度の基準額は65万円です。

この記事では、遺族厚生年金と在職老齢年金の関係を、日本年金機構と厚生労働省の資料で確認し、65歳以上の例で試算していきます。

1. 遺族厚生年金は働いても止まらないが、65歳以上は自分の老齢厚生年金が減ることがある

まず、結論から確認します。遺族厚生年金そのものは、働いたことを理由には止まりません。一方で、65歳以上で厚生年金に加入して働く場合は、自分の老齢厚生年金が減ることがあります。

1.1 遺族厚生年金に、就労を理由とする停止の記載はない

厚生労働省の「年金制度の仕組みと考え方」は、遺族厚生年金が支給停止になる場合として、次の5つを挙げています。

  • 同じ事由で労働基準法の遺族補償を受けられるとき(死亡日から6年間)
  • 配偶者が遺族基礎年金の受給権を持たず、子が持っているとき(配偶者に支給する場合)
  • 配偶者が遺族厚生年金の受給権を持っているとき(子に支給する場合)
  • 夫、父母、祖父母が60歳に達するまでのとき
  • 受給者の所在が1年以上明らかでないとき

失権(受給権がなくなること)の事由は、受給権者の死亡、婚姻、直系血族・直系姻族以外の人の養子になったとき、子や孫が18歳に達した日の属する年度の末日を迎えたとき(障害等級1級・2級の場合は20歳に達したとき)、夫の死亡時に30歳未満で子のない妻が受給権を得てから5年を経過したとき、などです。いずれにも、就労や収入の増加は入っていません。

日本年金機構の「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」にも、就労や収入を理由に支給を止めるという記載はありません。

なお、日本年金機構は「生計維持」の収入要件として、前年の収入が850万円未満、または所得が655万5千円未満という基準を示しています。これは、亡くなった方に生計を維持されていたかを確認する場面の基準です。受給が始まったあとに収入が増えた場合の取り扱いは、公式ページでは確認できませんでした。心配な場合は、年金事務所で確認してください。

1.2 減る可能性があるのは、自分の老齢厚生年金

減る可能性があるのは、遺族厚生年金ではなく、自分の老齢厚生年金です。60歳以降に厚生年金に加入して働くと、給与と老齢厚生年金の合計額に応じて、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になることがあります。これが「在職老齢年金」の仕組みです。

2. 在職老齢年金のしくみ(令和8年度の基準額は65万円)

日本年金機構の「在職老齢年金の計算方法」で、令和8年度の基準を確認します。

2.1 計算式と、基本月額・総報酬月額相当額

在職老齢年金の判定には、2つの金額を使います。

  • 基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
  • 総報酬月額相当額:(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12

基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円以下なら、老齢厚生年金は全額支給されます。65万円を超えると、「基本月額−(基本月額+総報酬月額相当額−65万円)÷2」の額が支給されます。超えた額の半分が、支給停止になる計算です。

この65万円は令和8年度の基準額で、賃金の変動に応じて毎年度改定されます。

2.2 老齢基礎年金は対象外

支給停止の対象は老齢厚生年金です。老齢基礎年金と経過的加算額は、働いていても全額支給されます。

基本月額ごとに、老齢厚生年金が全額支給される総報酬月額相当額の上限を並べました。上限は「65万円−基本月額」です。

在職老齢年金で、老齢厚生年金が全額支給される総報酬月額相当額の上限(令和8年度)1/2

在職老齢年金で、老齢厚生年金が全額支給される総報酬月額相当額の上限(令和8年度)

出所:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」をもとにLIMO編集部作成

  • 基本月額3万円:総報酬月額相当額が62万円まで全額支給
  • 基本月額5万円:60万円まで全額支給
  • 基本月額8万円:57万円まで全額支給
  • 基本月額10万円:55万円まで全額支給
  • 基本月額12万円:53万円まで全額支給

3. 65歳以上は遺族厚生年金が「差額」になる

在職老齢年金を考える前に、65歳以上の遺族厚生年金がどう計算されるかを確認します。

日本年金機構の「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」は、65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金の受給権がある場合の取り扱いを、次のように説明しています。老齢厚生年金は全額支給され、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止されます。

遺族厚生年金の額は、死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額と、「報酬比例部分の2分の1の額と自分の老齢厚生年金の2分の1の額の合計」を比べて、高いほうです。自分の老齢厚生年金を受け取ったうえで、その差額が遺族厚生年金として支給される形になります。