「給湯器の無料点検にうかがいます」「分電盤が古いと火事になります」。こうした電話や訪問をきっかけに高額な交換工事を契約するトラブルが増え、分電盤の点検商法の相談は2025年度に6545件と、前年度の約5倍になりました。
2026年10月9日には、給湯器の点検を装って工事代金をだまし取ったとして、警視庁がガス機器販売会社の実質的経営者ら8人を詐欺などの疑いで逮捕したと報じられています。
ただ、「自分で点検を承諾したのだからクーリング・オフはできない」とは限りません。本記事では、最新の相談データと本物の法定点検の見分け方、契約してしまったときの手続きを整理します。
1. 分電盤の点検商法、2025年度の相談は6545件で前年度の約5倍
独立行政法人国民生活センターは2026年9月16日、「分電盤の点検商法にご注意ください-相談が各地に広がり増加しています-」を公表しました。PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)の登録分による相談件数の推移は次のとおりです。
- 2022年度:14件
- 2023年度:39件
- 2024年度:1290件
- 2025年度:6545件
- 2026年度:2223件(7月31日までの登録分。前年同期は1312件)
2025年度は6545件で、2024年度の1290件から約5倍に増えました。2026年度も7月末時点で、前年同期の約1.7倍のペースが続いています。
地域別に見ると、2024年度は南関東で目立っていた相談が、2025年度は北関東や九州北部を含む各地に広がりました。
1.1 契約した人の年代は?70歳以上が8割超
同センターが2025年度の相談を契約当事者の年代別に分析したところ(年代が判明した6039件)、70歳以上が8割を超えていました。
- 60歳未満:472件(7.8%)
- 60歳代:665件(11.0%)
- 70歳代:1722件(28.5%)
- 80歳代:2609件(43.2%)
- 90歳以上:571件(9.5%)
70歳代の1722件、80歳代の2609件、90歳以上の571件を合わせると4902件で、割合は81.2%です。
2. 給湯器でも「ガス会社から依頼された」と身分を偽る手口
国民生活センターは2024年2月21日に「給湯器の点検にご注意ください-70歳以上の高齢者を中心にトラブル急増!-」を公表し、2023年度の給湯器の点検商法の相談が2022年度同期の約3倍に増えたと注意を呼びかけました。電話口で「自治体から委託を受けた」「契約中のガス会社から依頼された」などと身分を偽るケースもあり、契約当事者の7割以上が70歳以上だったとしています。
冒頭の逮捕をめぐっては、メディアでの報道で、高齢者宅に電話で訪問の約束を取り付けたうえで、給湯器の一酸化炭素の濃度が危険な水準だと偽って交換を迫ったとされる例が伝えられています。法令上の基準がないにもかかわらず、基準を大きく超えていると説明したケースもあったと報じられました。
報道では、同社が2023年以降に約7600件の契約を結び、約22億円を売り上げたとみられることや、契約者の9割が70歳以上だったことも伝えられています。いずれも捜査段階の容疑で、確定した事実ではない点に留意が必要です。
3. 本物の点検はどう届く?見分けるポイントは2つ
突然の電話や訪問が本物の点検かどうかは、電気とガスで次のように見分けられます。
本物の点検と点検商法の見分け方(電気・ガス)3/4
出所:国民生活センター「分電盤の点検商法にご注意ください-相談が各地に広がり増加しています-」報告書本文、世田谷区「給湯器の「点検商法」にご注意」、杉並区立消費者センター「杉並区内でも多発!「ガスの点検します。」突然の電話・訪問業者に注意」をもとにLIMO編集部作成
- 電気(分電盤を含む)の法定点検:電気事業法に基づき4年に1回、無料。原則として日時を電話で知らせることはなく、身分証明書を携帯した電力会社か登録調査機関の調査員が来る。点検後に交換工事の契約を持ちかけることはない
- ガス給湯器:法定点検はない
- ガスの点検:突然来ることはなく、事前にチラシ等で訪問予定日が知らされる。点検費用を請求されることはない
3.1 電気の法定点検は「4年に1回・無料・事前に書面」
国民生活センターの同資料によると、電気事業法に基づく一般家庭の電気の法定点検は4年に1回、無料で行われます。点検するのは、身分証明書を携帯した電力会社(一般送配電事業者)か、電力会社から委託を受けた登録調査機関の調査員です。
原則として、電力会社が法定点検の日時を電話で知らせることはなく、点検後に調査員が分電盤の交換工事を持ちかけることもありません。経済産業省も2025年1月15日に公表した「電気設備の点検等を装った訪問者に御注意ください」で、点検作業員の身分証等を必ず確認するよう呼びかけました。
なお、同センターは、住宅用分電盤の使用期限を定めた法律はないとしています。「法律で耐用年数が決まっている」という説明は、それ自体が疑うべきサインといえるでしょう。
3.2 ガス給湯器には「法定点検」がない
東京都世田谷区の注意喚起資料「給湯器の「点検商法」にご注意」は、「給湯器の法定点検を無料で行う」という電話の事例を挙げたうえで、現在ガス給湯器に「法定点検」はないと明記しています。
ガス会社などが法令に基づいて行う保安点検はありますが、経済産業省が2024年12月5日付でLPガスの業界団体に出した文書では、こうした定期保安点検は事前にチラシ等で訪問予定を知らせるよう求めました。突然の電話で日時を決めてくるものではありません。
交換時期は、国民生活センターの「見守り新鮮情報」第478号(2024年3月12日)によると、業界団体等が推奨する10年が目安で、法律上の期限ではありません。
灯油を使う石油給湯機は国の「長期使用製品安全点検制度」の対象で、所有者登録をするとメーカーから点検時期の通知が届きます(点検は有料)。見知らぬ業者の電話とは別物です。
点検商法の勧誘でよく使われるのが、「法律で決まっている」「期限が過ぎている」という言い回しです。
しかし本文で見たとおり、住宅用分電盤の使用期限を定めた法律はなく、ガス給湯器にも法定点検はありません。給湯器の「10年」は業界団体などが示す点検や取り替えの目安で、過ぎたら違法になる期限ではないのです。
一方で、設備が古くなれば故障のリスクが高まるのも事実でしょう。大切なのは「交換しない」ことではなく、「誰の判断で交換するか」ではないでしょうか。気になる場合は、契約中の電力会社やガス会社、メーカー、地域の電気工事店などへ自分から連絡し、複数の見積もりを比べてから決める方法があります。
電話や玄関先で「法律」「義務」「危険」という言葉が出てきたら、その場では返事をせず、一度電話を切って確かめる。この手順を家族で共有しておくだけでも、落ち着いて判断する余裕が生まれます。
