老齢年金は、65歳で受け取らずに待つと、待った月数に応じて増額されます。これを年金の繰下げ受給といいます。
ただ、待っている途中で気が変わり、65歳からの分をさかのぼってまとめて(一括で)受け取りたくなる人もいるでしょう。
そのとき気になるのが、国民健康保険料や後期高齢者医療の保険料への影響です。日本年金機構の案内と法律の条文をもとに、この疑問に答えます。
1. 【繰下げ受給】もし70歳を過ぎて一括で受け取ると保険料はさかのぼって上がるのか
今回取り上げるのは、次のような疑問です。
「年金を繰り下げるつもりで受け取らずにいましたが、72歳のいま、65歳からの分をさかのぼって受け取ろうと考えています。まとめて受け取ると、過去の国民健康保険料まで上がるのでしょうか?」
先に結論をお伝えすると、上がる場合があります。日本年金機構も、過去分をまとめて受け取ると、過去にさかのぼって保険料や税金に影響する場合があると注意を呼びかけているのです。
ただし、保険料をさかのぼって計算し直せる期間には、法律で期限があります。まずは、70歳を過ぎてからさかのぼって受け取るときの仕組みから確認しましょう。
2. 特例的な繰下げみなし増額制度とは
70歳を過ぎてから、繰下げを選ばずに65歳からの年金をさかのぼって受け取る場合に使われるのが、特例的な繰下げみなし増額制度です。日本年金機構の案内では、次のように説明されています。
70歳に到達した日後に、65歳からの本来の年金をさかのぼって受け取ることを選択した場合は、請求の5年前の日時点で繰下げ受給の申出があったものとみなして増額された年金を一括で受け取ることとなります。
出所:日本年金機構「年金の繰下げ受給」
2.1 対象になる人とならない人
対象は、1952年(昭和27年)4月2日以後に生まれた人、または2017年4月1日以後に年金を受け取る権利ができた人です。
一方で、80歳以後に請求する場合や、請求の5年前の日以前から障害年金や遺族年金を受け取る権利がある場合は使えません。
2.2 年180万円の人が71歳で請求すると
65歳からの本来の年金が年180万円の人が、71歳でさかのぼって請求した場合を考えます。請求の5年前の66歳の時点で繰下げを申し出たものとみなされ、増額率は1か月0.7%の12か月分で8.4%です。
- 本来の年金額:年180万円
- みなしの増額率:8.4%(0.7%×12か月)
- 増額後の年金額:年195万1200円
- 一括で受け取る5年分:975万6000円
試算は概算で、税金や保険料が差し引かれる前の額です。この5年分は、受け取った年にまとめて入る収入ではなく、本来受け取るはずだった年ごとの収入として扱われるのが原則です。
3. 一括で受け取った年金は本来の年の収入になる
さかのぼって支払われた年金がどの年の収入になるかは、自治体の住民税の案内で確かめられます。たとえば埼玉県坂戸市では、次のように説明しているのです。
遡って支払いを受けた年金は、本来支払いを受けるべき年分の収入となります。
出所:坂戸市「住民税Q&A(年金編)」
3.1 過去の年の所得が増えて住民税が計算し直される
坂戸市では、年金の支払者から届く支払報告書をもとに、税額を計算し直す仕組みです。青森市も、さかのぼって支払われた分は本来支給されるべき年の収入として課税するとし、増えた分は納付書で納める形です。
国民健康保険料や後期高齢者医療の保険料、65歳以上の介護保険料は、前の年の所得をもとに計算されます。過去の年の所得が増えれば、その所得で計算した年度の保険料も変わる可能性があるわけです。
3.2 所得の増え方は年ごとに見る
先の試算なら、5年それぞれの年に、年195万1200円の年金収入があったものとして所得が直されます。年金がほかの収入と合わさって基準を超えると、保険料の軽減の対象から外れる年が出てくることもあります。
筆者が保険料の計算を担当していた頃、住民税の所得が直されると、それに合わせて過去の年度の保険料も計算し直していました。年金をさかのぼって受け取るときは、年金事務所だけでなく、お住まいの市区町村の保険料の担当にも、どの年度が変わりそうか聞いておくと安心です。
