「使っていない口座を売るだけで報酬がもらえる」「口座に振り込まれたお金を送金するだけのアルバイト」。SNSなどで、こうした誘いを見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。
警察庁によると、預金口座の通帳やキャッシュカードを売ったり譲ったりする行為の罰則は、改正された犯罪収益移転防止法により2026年7月10日から引き上げられました。これまでの「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」が、「3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」になっています。
同じ日から、いわゆる「送金バイト」にも罰則ができました。この記事では、改正前と改正後の罰則を並べ、預貯金通帳等の不正譲渡などで検挙された件数が2021年からどう変わってきたかを確認します。
1. 預金口座の通帳やキャッシュカードを売る・譲る行為の罰則は、2026年7月10日から引き上げ
犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)の一部を改正する法律は、2026年6月10日に公布されました。警察庁は、主な改正点として次の3つを挙げています。
- 預貯金通帳の不正譲渡等に対する罰則の引上げ
- 「送金犯罪」に関する罰則の創設
- いわゆる「架空名義口座」を利用した新たな措置の創設
このうち罰則の引上げと送金犯罪の罰則は2026年7月10日から施行されています。架空名義口座を利用した措置は、公布の日から1年を超えない範囲で政令で定める日から施行されます。
1.1 改正の背景は、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺での預金口座の悪用
警察庁が国会提出時に公表した法律案の概要では、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺の被害を「極めて憂慮すべき状況」とし、これらの犯罪で預貯金口座などの金融サービスが悪用され、手口も巧妙化していると説明しています。2025年中の3つの被害額の合計は約3241億円(暫定値)とされています。
2. 預貯金通帳等の不正譲渡は「3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」に、業としてなら5年以下・1000万円以下
改正前と改正後の罰則を並べると次のとおりです。いずれも拘禁刑と罰金をあわせて科すこともできます。
預貯金通帳等の不正譲渡などの罰則(改正前と2026年7月10日から)1/2
出所:警察庁「令和8年犯罪収益移転防止法の改正について」、警察庁「犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部を改正する法律案(概要)」をもとにLIMO編集部作成
【預貯金通帳等の不正譲渡等の罰則】
- 改正前:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 2026年7月10日から:3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金
- 業として行った場合:3年以下・500万円以下から、5年以下・1000万円以下に
2.1 通帳を「買う」「売る」だけでなく、勧誘や誘引も罰則の対象
警察庁の啓発ポスターは、罰則の対象となる行為として「買う・譲り受ける行為」「売る・譲り渡す行為」「勧誘・誘引」の3つを挙げ、反復継続して(業として)行った場合は加重処罰になるとしています。
警察庁の「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)」も、預貯金通帳等を有償または無償で譲り受けたり譲り渡したりした者を罰則の対象と説明しています。お金を受け取っていなくても、対象になりうるということです。
3. いわゆる「送金バイト」も2026年7月10日から罰則の対象。依頼する側も引き受ける側も2年以下・300万円以下
「送金バイト」は、自分名義の口座を使わせたまま、その口座に振り込まれたお金を別の口座に送金するよう頼まれ、報酬を受け取るものです。警察庁の資料では、犯行グループが被害者から自分の口座に入金させ、報酬分を除いて別の口座に送金させる流れが示されています。
3.1 正当な理由なく有償で依頼・引き受けをすると、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
改正後の法律では、通常の商取引や金融取引などの正当な理由がないのに、有償でこうした送金を依頼した人と、事情を知りながら有償で引き受けた人の両方に、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)が科されます。業として行った場合は、3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金です。
4. 預貯金通帳等の不正譲渡などの検挙は2025年に4699件、2021年の約1.9倍
警察庁の「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)」によると、2025年中に預貯金通帳等の不正譲渡等で犯罪収益移転防止法違反として検挙された件数は4699件で、前年より186件増えました。
【犯罪収益移転防止法違反の検挙件数】
- 2021年(令和3年):2535件
- 2022年(令和4年):3066件
- 2023年(令和5年):3424件
- 2024年(令和6年):4513件
- 2025年(令和7年):4699件
4.1 検挙件数は4年で2164件増え、2022年以降は毎年前の年を上回る
2021年の2535件から2025年の4699件まで、検挙件数は4年で2164件増え、約1.9倍になりました(LIMO編集部が計算)。2022年以降は毎年、前の年の件数を上回っています。
預金口座の通帳やキャッシュカードを売る・譲る行為の罰則は、2026年7月10日から「3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」に引き上げられました。同じ日から、送金バイトを依頼する側と引き受ける側にも罰則ができています。
預貯金通帳等の不正譲渡などによる検挙は2025年に4699件と、2021年の約1.9倍です。「口座を売るだけ」「送金するだけ」という誘いは、罰則の対象になる行為への誘いだと知っておくことが、自分の口座を守る第一歩になります。
ここからは、罰則の対象になるのは通帳だけではないことと、口座を手放したあとに起こりうること、使っていない口座の整理の仕方を見ていきます。