厚生年金に44年以上加入した人の中には、65歳になる前の年金に「定額部分」が上乗せされる人がいます。2026年度の額は、月にすると7万640円です。
一方で、2026年10月1日には、パートなど短時間で働く人が厚生年金に入る要件から「月8万8000円以上」という賃金要件がなくなりました。退職後の働き方しだいで、上乗せされた定額部分は止まることがあるのです。
この記事では、長期加入者の特例について、よく質問される「もし〜したら」という疑問に答える形でひもといていきます。
1. 【長期加入者の特例】厚生年金に44年加入すると65歳前から定額部分も受け取れる
はじめに、長期加入者の特例がどんな仕組みなのか、対象になる人と受け取れる額を確認しましょう。
1.1 特別支給の老齢厚生年金に定額部分が加わる
老齢厚生年金は65歳から受け取るのが原則です。ただ、生年月日によっては、65歳になる前に「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れます。
いま65歳前に支給が始まる人が受け取るのは、このうち「報酬比例部分」だけです。
厚生年金の被保険者期間が44年以上あり、退職などで被保険者でなくなっていれば、ここに「定額部分」も加わります。
これが長期加入者の特例で、加入期間の長さから「44年特例」と呼ばれることもあります。
1.2 これから使えるのは1966年4月1日以前生まれの女性が中心
特別支給の老齢厚生年金の対象は、男性が1961年(昭和36年)4月1日以前生まれ、女性が1966年(昭和41年)4月1日以前生まれの人です。男性はいちばん遅い1961年4月1日生まれの人も2026年3月31日に65歳になったので、これから特例を使うのは女性が中心になります。
女性の受給開始年齢は生年月日で1歳ずつ遅くなり、いま60歳代前半の人は次のとおりです。
- 1960年(昭和35年)4月2日〜1962年(昭和37年)4月1日生まれ:62歳から
- 1962年(昭和37年)4月2日〜1964年(昭和39年)4月1日生まれ:63歳から
- 1964年(昭和39年)4月2日〜1966年(昭和41年)4月1日生まれ:64歳から
1.3 定額部分は2026年度で年84万7680円
日本年金機構によると、2026年4月分からの定額部分は、1956年(昭和31年)4月2日以後生まれの人で「1766円×生年月日に応じた率×被保険者期間の月数」で計算します。1946年(昭和21年)4月2日以後生まれの人は、計算に使う月数が480月までです。
44年は528月になりますが、定額部分の計算には480月までしか入りません。上限まで加入した人の定額部分は年84万7680円で、月にすると7万640円になります。
2. もし退職せずに働き続けたら長期加入者の特例を使えない?
44年に届いたら、働きながらでも定額部分が付くと考える人もいるでしょう。
「厚生年金に44年加入したけれど、65歳までは今の会社で働き続けたい。そのままでも定額部分は上乗せされますか?」
先に結論をお伝えすると、厚生年金に加入して働いている間は、長期加入者の特例は使えません。定額部分が付くのは、退職などで被保険者でなくなった月の翌月分からです。
2.1 在職中に受け取るのは報酬比例部分だけ
日本年金機構の案内では、厚生年金に44年以上加入していても、厚生年金に加入して働き続けている間は、この特例の対象になりません。特例は「被保険者でなくなったこと」が条件だからです。
在職中に受け取る報酬比例部分は、在職老齢年金の仕組みで調整されます。2026年度は、年金の月額と賃金の合計が65万円を超えると、超えた分の2分の1が支給停止になります。
2.2 定額部分は退職した月の翌月分から
44年以上加入した人が退職などで被保険者でなくなると、その月の翌月分から定額部分も受け取れます。
会社が年金事務所に資格喪失届を出すと、特例の手続きもあわせて行われます。そのため、定額部分のために本人が別の届出をする必要はありません。
3. もし退職後にパートで厚生年金に入ったら長期加入者の特例の定額部分は支給停止?
退職したあとも、パートなどで働き続けたいと考える人は多いでしょう。
「退職して定額部分を受け取り始めたあと、近所のスーパーで週20時間以上のパートを始めたら、年金はどうなりますか?」
結論からいうと、パート先で厚生年金に加入すると、定額部分は全額が止まります。10月からは賃金要件がなくなったので、加入するかどうかは労働時間や勤め先の規模で決まります。
3.1 10月1日から賃金要件が撤廃
日本年金機構によると、短時間労働者が厚生年金・健康保険に加入する要件のうち、「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件は2026年10月1日に撤廃されました。残った要件は次の3つです。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 勤め先が従業員数51人以上の企業であること
- 学生ではないこと
厚生労働省は、全国の最低賃金が1016円以上になることを見極めて撤廃の時期を判断するとしていました。最低賃金1016円以上の地域で週20時間以上働くと、年額換算で約106万円になるためです。
3.2 加入すると定額部分と加給年金額が止まる
特例で定額部分を受け取り始めたあとに、再び厚生年金の被保険者になると、定額部分の支払いは止まります。加給年金額が付いている場合は、それも含めて全額が支給停止です。
報酬比例部分のほうは、在職中と同じく在職老齢年金の仕組みで調整されます。年84万7680円の定額部分が止まるかどうかは、週の労働時間や勤め先の規模で分かれるのです。
3.3 過去の適用拡大では経過措置があった
2022年10月と2024年10月の適用拡大では、施行日より前から同じ事業所で働いていて、適用拡大によって被保険者になった人に経過措置が設けられました。「障害者・長期加入者特例に係る老齢厚生年金在職支給停止一部解除届」を出すと、定額部分を引き続き受け取れるという内容です。
日本年金機構がこの経過措置を案内しているのは、2022年10月と2024年10月の適用拡大の分です。働き方を変える前に、年金事務所で自分の場合を確かめておくと安心です。
長期加入者の特例は、加入月数の数え方や退職のタイミングで受け取れる年金が変わります。退職日を決める前に、ねんきん定期便で加入月数を確かめ、年金事務所で見込額を聞いておくと判断しやすくなります。
