離れて暮らす親が亡くなり、少しだけ預金が残っていた。生活保護を受けている人にとって、親の遺産は「受け取ってよいお金なのか」「保護費はどうなるのか」が気になるところです。
厚生労働省が2026年10月7日に公表した「被保護者調査(令和8年7月分概数)」によると、生活保護を受けている世帯は164万4102世帯でした。保護停止中を除いた世帯の51.6%は、単身の高齢者世帯です。
この記事では、生活保護を受けている世帯の状況と保護費の決まり方を確認したうえで、受給中に遺産を相続したときに保護費の返還がどう決まるのかを、生活保護法と審査会の答申にそって解説します。
1. 生活保護を受けている世帯の51.6%は単身の高齢者世帯、令和8年7月分は164万4102世帯
被保護者調査(令和8年7月分概数)から、生活保護を受けている世帯と人の数、世帯類型の内訳を見ていきます。
1.1 生活保護を受けている人は196万9655人、保護率は1.60%
生活保護を受けている世帯は164万4102世帯で、前年同月より3516世帯(0.2%)減りました。受けている人は196万9655人で、前年同月より2万438人(1.0%)減っています。
保護率は1.60%で、人口100人あたり1.6人が生活保護を受けている計算です。
1.2 高齢者世帯は90万3116世帯、そのうち93.5%が単身世帯
世帯類型別の数は、保護停止中の世帯を除いた163万5284世帯で集計されています。
- 高齢者世帯:90万3116世帯(55.2%)
- うち単身世帯:84万4423世帯(51.6%)
- 障害者・傷病者世帯:41万8114世帯(25.6%)
- その他の世帯:25万9162世帯(15.8%)
- 母子世帯:5万4892世帯(3.4%)
割合はいずれも163万5284世帯に占める割合です。高齢者世帯90万3116世帯のうち、単身世帯は93.5%にあたります。
2. 生活保護の保護費は最低生活費と収入の差額、68歳の単身世帯の生活扶助基準額は月6万9950円〜7万7980円
生活保護では、厚生労働大臣が定める基準で計算した最低生活費と世帯の収入を比べ、収入が届かない分が保護費として支給されます。年金や児童扶養手当などの収入があっても、最低生活費に届かなければ差額を受けられます。
2.1 生活扶助基準額の例(令和8年10月1日現在)
厚生労働省の「生活保護制度に関するQ&A」に載っている、生活扶助基準額の例です。児童養育加算等を含む月額です。
- 高齢者単身世帯(68歳):東京都区部等7万7980円、地方郡部等6万9950円
- 高齢者夫婦世帯(68歳、65歳):東京都区部等12万5460円、地方郡部等11万1720円
- 3人世帯(33歳、29歳、4歳):東京都区部等16万8020円、地方郡部等15万370円
- 母子世帯(30歳、4歳、2歳):東京都区部等20万50円、地方郡部等17万9300円
生活扶助のほかに、必要に応じて住宅扶助や医療扶助なども支給されます。
2.2 65歳以上の単身無職世帯の家計は、2025年平均で毎月2万9980円の不足
総務省の「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は月11万8465円、消費支出は月14万8445円でした。消費支出から可処分所得を引いた不足分は2万9980円です。生活保護を受けていない世帯も含む平均で、最低生活費とは計算の仕方が違います。
3. 生活保護の受給中に相続した遺産は、親が亡くなった日以後の保護費を返還する対象になる
生活保護を受けている人が親の遺産を相続すると、受け取った遺産は生活保護法第63条の費用返還の対象になります。返還の対象になる期間と額の決まり方を確認します。
3.1 生活保護法第63条は「資力があるにもかかわらず保護を受けたとき」の費用返還を定めている
生活保護法第63条は、費用返還義務を次のように定めています。
被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
出所:e-Gov法令検索「生活保護法」第63条
3.2 遺産の「資力」が生じたのは、遺産分割の日ではなく親が亡くなった日とされる
東京都行政不服審査会の答申は、厚生労働省の「生活保護問答集」問13-6の答を引いて、費用返還の対象となる資力の発生時点は被相続人の死亡時と解すべきだとしています。民法では、相続は死亡によって開始し、遺産分割の効力は相続開始の時にさかのぼるとされているためです。
返還の対象は、遺産分割で相続することになった財産の額を上限に、親が亡くなった日以後に支給された保護費です。
3.3 相続金7728円が、全額返還の対象になった例
東京都行政不服審査会が令和7年7月に審議した事例では、生活保護を受けている人が父親名義の口座から相続分として7728円を受け取りました。福祉事務所は、父親が亡くなった日から月末までに支給した保護費のほうが多かったため、7728円の全額を返還の対象と決めました。
審査会は、遺産は国の通知で収入として認定しないものに当たらず、この処分は適正だったと判断しています。金額が小さくても、相続した遺産は返還の対象になりうるということです(参考:東京都行政不服審査会『答申』令和6年2月27日付けの返還金額決定処分に係るもの)。
生活保護を受けている間に親の遺産を相続すると、親が亡くなった日以後に支給された保護費が、相続した額を上限に返還の対象になります。金額の大小は問われず、遺産分割に時間がかかっても数え始めは変わりません。
親が亡くなったら、遺産の額が決まっていなくても、住んでいる地域の福祉事務所に相続が始まったことを伝えておくと手続きが進めやすくなります。
ここからは、遺産分割に時間がかかった場合の返還の範囲と、返還額から差し引ける「自立更生」の考え方を、金融機関で相続の手続きに携わってきた立場から見ていきます。