個人向け国債をNISAで買えるようにするかどうか。そんな議論が、いよいよ年末の税制改正に向けて動き始めています。財務省が公表した令和9年度の税制改正要望では、金融庁と財務省がそろって「国債に関する税制の検討」を要望項目に掲げました。
個人向け国債の利率も2026年10月募集分では、固定5年が年2.39%と年2%を超えています(財務省「個人向け国債の発行条件等」)。「国債が非課税で買えるなら、いまの積立より有利なのでは」と考える方もいるでしょう。
そこで今回は、読者から寄せられた疑問に、LIMO&ファイナンス編集長の泉田良輔が答えます。泉田は日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)で、日本生命で外国株式のファンドマネージャーを、フィデリティ投信でアナリストを務めてきた元機関投資家です。
読者の疑問
「もし個人向け国債がNISAでも買えるようになったら、いま、積立投資でS&P500やオルカンのインデックスファンドを買っている行動を変える必要性がありますか?」
ご質問ありがとうございます。先に結論をお伝えすると、「いまの株式インデックスの積立をやめて、国債に切り替える必要はない」と私は考えています。理由は次の3点です。
- まだ決まっていない:要望は「検討」の段階で、国債がNISAの対象になるかどうかは未定です
- 非課税の恵みは利回りに比例する:利回りの低い国債に枠を使うと、非課税で得をする金額は小さくなります
- 国債と株式は役割が違う:置き換えるものではなく、「守り」と「増やす」の役割分担で考えるものです
一つずつ見ていきましょう。
国債NISAはまだ「検討」の段階。いまのNISAのルールを確認
まずは、要望に何が書かれているのかを確かめましょう。金融庁の要望書の「制度の概要」は、次のようになっています。
国債保有者層の多様化を通じた安定的な国債保有者層の構築と、個人投資家の資産形成ニーズへの対応の観点から、必要に応じ、所要の措置を検討する。
この文書には、「NISA」も「個人向け国債」も書かれていません。どんな優遇になるのか、そもそも実現するのかは、年末に向けた税制改正の議論を待つ必要があります。つまり、「国債がNISAで買える」ことを前提に、いまの積立を止めるのは早計です。
では、仮に実現したらどう考えればよいのでしょうか。その前提となる、いまのNISAの枠を確認しておきます。
いまのNISAの主な枠
• 年間の投資枠:つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円(合計360万円)
• 生涯の非課税保有限度額:1800万円(うち成長投資枠は1200万円まで)
• 売却した場合:翌年以降、売却した商品の簿価(取得金額)の分だけ枠が復活
ここで大事なのは、生涯の非課税保有限度額が1800万円と決まっていることです。国債がこの枠の中で買えるようになるなら、国債と株式は、同じ限られた枠をうばい合うことになります。ただし、国債がいまの枠に入るのか、別枠になるのかは、現時点ではわかりません。
非課税のメリットを円で比べると、20年で国債は株式の約17分の1
NISAの最大のメリットは「利益にかかる税金がゼロになること」です。裏を返せば、利益が小さければ、非課税で得をする金額も小さくなります。私はこうした比較を「率ではなく額で見る」ようにおすすめしています。具体的に試算してみましょう。
100万円を1年運用した場合の非課税の効果(編集部試算)
• 個人向け国債 固定5年(年2.39%):利子2万3900円、非課税で浮く税金は約4860円
• 個人向け国債 変動10年(年2.05%):利子2万500円、非課税で浮く税金は約4160円
• 株式インデックスファンド(年5%と仮定):利益5万円、非課税で浮く税金は約1万160円
100万円を20年運用した場合の非課税の効果(編集部試算)
• 国債(年2.39%で5年ごとに投資ができると仮定):利益約9.5万円、非課税で浮く税金は約1.9万円
• 株式(年5%で複利運用が続くと仮定):利益約165万円、非課税で浮く税金は約34万円
※編集部試算。税率は20.315%。国債の利率は財務省「個人向け国債の発行条件等」の2026年10月募集分。株式の年5%は試算のための仮定です。20年の試算は同じ利回りが続き、最後にまとめて課税されると仮定。国債の利子は実際には半年ごとに課税され、固定5年は5年で満期を迎えますが、ここでの資産はそれを合計4回繰り返す(5年×4回)前提。
同じ100万円の枠を使っても、この前提では国債の非課税効果は1年で株式の約半分、20年では約17分の1にとどまります。年数がたつほど差が開くのは、利益が利益を生む複利の効果が、利回りの高い資産ほど大きく働くからです。果物の箱にたとえるなら、NISAは「入れたものが育った分だけ、税金を取られない箱」です。その箱の大きさが生涯1800万円と限られているなら、大きく育つ可能性のあるものを入れたほうが、箱を有効に使える、ということになります。
もちろん、株式は年5%を約束してくれるものではありません。値下がりすれば、非課税のメリットはゼロです。一方、個人向け国債は利子が決まっているので、小さくても確実にメリットを受けられます。ここが次の論点につながります。
国債と株式は「どちらか」ではなく「役割分担」
ここまで読むと、「国債はNISAに向かない」と感じたかもしれません。しかし、私が伝えたいのはそういうことではありません。国債と株式は、そもそも担う役割が違うのです。
参考になるのが、私たちの公的年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。GPIFは、運用の土台となる「基本ポートフォリオ」を次のように定めています。
GPIFの基本ポートフォリオ(2025年4月1日適用)
• 国内債券:25%
• 外国債券:25%
• 国内株式:25%
• 外国株式:25%
GPIFのような大きな機関投資家でも、株式だけで運用しているわけではありません。債券で値動きを抑え、株式で資産を増やす。この組み合わせで、長期の運用を安定させているのです。
個人の皆さんも同じです。S&P500やオルカンの積立は「増やす」役割。個人向け国債は「守る」役割です。個人向け国債は国が元本と利子を支払うため、株価が大きく下がった局面でも、その部分は値下がりしません。
ですから、問うべきは「積立をやめて国債に変えるか」ではなく、「自分の資産全体のうち、守りの部分をどこに置くか」です。すでに預金などで守りの資産を十分持っているなら、積立を変える理由はあまりありません。逆に、資産のほとんどが株式で、守りの資産を増やしたいと考えていた方にとっては、国債NISAは「守りの置き場所」の選択肢が増える、という意味を持つでしょう。
元機関投資家イズミダの視点
NISAで国債の話題が出ると、「非課税になるなら、国債も株式と同じくらいお得になる」という声を耳にします。しかし、これは誤解だと私は考えています。非課税は利益にかかる税金をなくす仕組みなので、利回りの低い資産ほどメリットは小さくなります。先ほどの試算でも、100万円あたりの恵みは国債(年2.39%)で年約4860円でした。国債の性格が変わるわけではなく、「手取りが少し増える」という程度であることは、押さえておきたいところです。
もう一つ、「国債がNISAで買えるようになるのだから、いまのうちに積立を止めて待ったほうがいい」と考える方もいるかもしれません。しかし、要望は「検討する」という段階で、実現するかどうかも、いまの枠に入るのか別枠になるのかも決まっていません。未定の制度を待って積立を止めれば、その間の積立の機会を失うことになります。制度が決まってから考えても、遅くはないといえるでしょう。
機関投資家は、税制が変わったからといって、基本の資産配分を大きく変えることはありません。まず「どれだけの値動きに耐えられるか」で資産配分を決め、そのうえで「どの口座で持つと税金が安くなるか」を考える。この順番が大事です。
税制の優遇は、あくまで持ち方の工夫です。国債NISAが実現したとしても、「守りの資産をどれだけ持つか」を先に決め、その守りの部分をNISAで持つかどうかを考える。そうすれば、制度が変わるたびに積立をやり直す必要はなくなるでしょう。
まとめ
今回の話をまとめると以下の通りとなります。
- 個人向け国債のNISA対象化は決定していない。金融庁と財務省の要望は「国債に関する税制の検討」の段階
- 非課税の恵みは利回りに比例する。試算では、100万円を20年運用した場合の効果は国債約12万円、株式(年5%仮定)約34万円
- 国債と株式は置き換えるものではなく、「守る」と「増やす」の役割分担で考える
積立をそのまま続けやすい人
- 預金などで、生活防衛資金や守りの資産をすでに十分持っている
- 10年以上の長期で、値動きを受け入れて資産を増やしたい
国債NISAが実現したら検討してもよい人
- 資産のほとんどが株式で、守りの資産を増やしたいと考えている
- 数年以内に使う予定のお金を、値下がりしにくい形で持ちたい
参考資料
- 財務省「令和9年度税制改正要望」(https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2027/request/index.html)
- 金融庁「令和9年度税制改正要望事項(新設・拡充・延長)国債に関する税制の検討」(https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2027/request/fsa/09y_fsa_k_20.pdf)
- 財務省「令和9年度税制改正要望事項 国債に関する税制の検討」(https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2027/request/mof/09y_mof_k_04.pdf)
- 財務省「個人向け国債の発行条件等」(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/houdouhappyou/p20261007.pdf)
- 金融庁「NISAを知る」(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/index.html)
- 年金積立金管理運用独立行政法人「基本ポートフォリオの考え方」(https://www.gpif.go.jp/gpif/portfolio.html)