「長期金利3%」。皆さんはこの数字をどう受け止めたでしょうか。財務省が2026年10月6日に実施した10年利付国債(第384回)の入札では、表面利率が年3.1%、募入平均利回りが3.101%となりました。
この入札結果は、個人向け国債の利率にも直結しています。翌10月7日、財務省は個人向け国債の発行条件を公表しました。変動10年は前営業日の10年国債の入札結果から算出した基準金利3.10%に0.66を掛けて年2.05%。固定5年は年2.39%、固定3年は年2.07%と、3タイプすべてが年2%を超えました。
預金だけでなく、そろそろ債券も。そう考える方は決して少なくないでしょう。ただし、一口に債券投資といっても、個人向け国債を買うのか、債券の投資信託を買うのかで、金利が上がったときの結果は大きく変わります。
そこで今回は、読者から寄せられた疑問に、LIMO&ファイナンス編集長の泉田良輔が答えます。泉田は日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)で、日本生命で外国株式のファンドマネージャーを、フィデリティ投信でアナリストを務めてきた元機関投資家です。
読者からの疑問をご紹介
「債券に投資するのにあたって、個人向け国債と債券の投資信託で迷っているのですが、何がどう違うのかわかっていません。投資を決めるにあたって気をつけておくべきポイントについて教えてください」
個人向け国債と債券の投資信託は、どちらも「債券に投資する」ことに変わりはありません。では、何が違うのでしょうか。
先に結論をお伝えすると、違いは次の3点です。
- 元本:個人向け国債は国が元本と利子を支払います。債券の投資信託には元本の保証がありません
- 金利が上がったとき:個人向け国債は値下がりしませんが、債券の投資信託は基準価額が下がります
- コスト:債券の投資信託には信託報酬がかかり、その分だけ利回りが削られます
そのうえで、機関投資家として運用に携わってきた私の実感をお伝えすると、「どちらが得か」よりも「そのお金にどんな役割を持たせるか」で選ぶほうが、後悔は少ないといえるでしょう。一つずつ見ていきましょう。
仕組みの違い:国に直接貸すか、プロにまとめて任せるか
大きな違いは、「誰にお金を貸しているのか」です。個人向け国債は、皆さんが国に直接お金を貸す商品です。元本と利
子の支払いについて、財務省は次のように説明しています。
満期時の元本のお返しも、半年毎の利子の支払いも、国が責任を持って行います。
出所:財務省「個人向け国債」
一方、債券の投資信託は、多くの投資家から集めたお金を運用のプロがまとめて、たくさんの債券に投資する商品です。たとえるなら、個人向け国債は「定食の単品」、債券の投資信託は「シェフが中身を入れ替え続ける幕の内弁当」といえるかもしれません。そして、その弁当の値段(基準価額)は毎日変わります。
投資信託は値動きのある株式や債券などに投資するため、基準価額は株式市場などの動向により変動します。したがって、投資信託には元本の保証はありません。
ここでよくある勘違いがあります。投資信託の財産は信託銀行で分別管理され、販売会社や運用会社が破綻しても影響を受けない仕組みです。しかし、それは「運用で損をしない」という意味ではありません。
ただし、このように保全されていることと、投資信託が運用の結果、損失が発生する可能性のある元本保証のない金融商品であることとは別のことですから、ご注意ください。
個人向け国債
- お金を貸す相手:国
- 元本:満期時に国が支払う
- 利率の下限:年0.05%
- 購入単位:1万円から1万円単位
- 保有コスト:なし
- 満期:あり(3年・5年・10年)
債券の投資信託
- お金を貸す相手:ファンドが組み入れた多数の債券の発行体(国・自治体・企業など)
- 元本:保証なし
- 利率の下限:なし
- 購入単位:ファンド・販売会社による
- 保有コスト:信託報酬(運用管理費用)が日々かかる
- 満期:多くは中身を入れ替え続けるため、一度に元本が戻る日はない
※個人向け国債の内容は財務省「個人向け国債」、信託報酬は資産運用業協会「投資信託のコスト」による。「満期」の項目は一般的な債券インデックスファンドを想定した編集部の整理で、信託期間や運用方針はファンドごとに異なる。
金利が1%上がったら、100万円はいくら目減りするか
投資を決める前に、皆さんに一番知っておいてほしいのがこの点です。債券は「安全」というイメージがあるかもしれません。しかし、債券の価格は金利と逆に動きます。
一般的に、金利が上がると債券価格は下落し、金利が下がると債券の価格は上がります。 また、満期までの期間が長い債券ほど、金利変動の影響を大きく受けます。
では、どれくらい下がるのでしょうか。その目安になるのが「デュレーション」です。機関投資家が債券ファンドを見るとき、まず確かめる数字のひとつです。金利が1%動いたときに、価格がおよそ何%動くかを示します。
国内の債券全体に連動するファンドの一例として、野村アセットマネジメントの月次レポートを見てみましょう。
ファンドの主なデータ(2026年6月30日時点)
- ベンチマーク:NOMURA-BPI総合
- 平均デュレーション:7.7年
- 平均最終利回り:2.3%
- 信託報酬:年0.253%(税抜年0.23%)
- 過去1年の騰落率:ファンド▲6.5%、インデックス▲6.3%
出所:野村アセットマネジメント「野村日本債券インデックス(野村投資一任口座向け)月次レポート(2026年6月30日基準)」。一任口座向けのため、一般の個人が購入できるファンドとは信託報酬などが異なります。国内債券全体の性格を示す例として用いています。
「債券なのに1年で▲6.5%」。金利が上がる局面では、債券の投資信託もこれだけ下がる、という実例です。
このデュレーション7.7年を使うと、金利が1%上がった場合の値下がりはおよそ7.7%と試算できます。100万円なら約7.7万円です。
一方の個人向け国債には、金利で価格が動くという概念自体がありません。途中で換金するときのルールは、財務省がこう定めています。
発行後1年を経過すればいつでも可能(中途換金) 直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685
出所:財務省「個人向け国債」※「直前2回分…」は中途換金時に差し引かれる金額
変動10年(第199回、年2.05%)を100万円買った場合、1回の利子は1万250円です。差し引かれるのは2回分の2万0500円×0.79685=約1万6335円。つまり、直近1年分の税引後の利子を返すイメージです。しかも変動10年は半年ごとに利率が見直されるので、金利が上がれば受け取る利子も増えていきます。
100万円を投資し、金利が1%上昇した場合
個人向け国債(変動10年)
- 金利上昇による値下がり:なし
- 途中で手放すときのコスト:約1.6万円(発行から1年経過後)
- その後の利回り:半年ごとに上方修正
債券の投資信託(デュレーション7.7年)
- 金利上昇による値下がり:約▲7.7万円
- 途中で手放すとき:そのときの基準価額で換金
- その後の利回り:新しく組み入れる債券の利回りが上がる
※編集部試算。債券投信の値下がりは「デュレーション×金利の変化幅」による概算で、金利が平行に1%上がり、その間の利子収入や信託報酬は考慮していない。国債の換金コストは利率年2.05%が続いた場合の値で、実際の差引額は直前2回の適用利率による。
もっとも、債券の投資信託が一方的に不利というわけではありません。金利が上がれば、その後に組み入れる債券の利回りも上がるからです。おおざっぱにいえば、デュレーションに近い年数を持ち続ければ、値下がり分を利回りの上昇で取り戻しやすくなります。逆にいえば、数年以内に使う予定のお金を債券の投資信託に入れると、値下がりしたまま取り崩すことになりかねない、ということになります。
信託報酬は「率」ではなく「額」で見る
次にコストです。個人向け国債には、保有している間の手数料がありません。これに対して投資信託には、保有している限りかかり続ける費用があります。
運用管理費用(信託報酬) 投資信託を保有している間、投資信託の保有額に応じて日々支払う費用。年率でいくら支払うのか、目論見書などに記載されています。
出所:資産運用業協会「投資信託のコスト」
「年0.253%」と聞くと、わずかに感じるかもしれません。しかし、債券は株式に比べて期待できるリターンが小さい資産です。利回りが2%前後の世界では、この差は無視できません。私はこうした数字を「率ではなく額で見る」ようにおすすめしています。
先ほどのファンドの例で試算してみましょう。
100万円を投資した場合の試算
- ファンドが保有する債券の平均最終利回り:2.3%
- 信託報酬:年0.253%=年約2530円
- 信託報酬を差し引いた利回りの目安:約2.05%
- (参考)個人向け国債 変動10年(第199回):年2.05%(保有コストなし)
※編集部試算。利回りと信託報酬は野村アセットマネジメント「野村日本債券インデックス(野村投資一任口座向け)月次レポート(2026年6月30日基準)」、国債の利率は財務省「個人向け国債の発行条件等」による。最終利回りは債券を満期まで保有した場合の利回りで、ファンドの将来の運用成果を示すものではない。両者は基準日も商品性も異なるため、単純比較はできない。
ただし、ここで例に挙げたファンドは投資一任口座向けで、一般の個人が購入できるファンドとは信託報酬の水準が異なります。信託報酬は同じ指数に連動するファンドでも商品ごとに違い、0.1%違うだけで、100万円あたり年1000円、10年でおよそ1万円の差になります。実際に購入するときは、目論見書でそのファンドの信託報酬を確かめ、平均最終利回りから差し引いて手元に残る利回りを確認してください。
信託報酬を差し引くと、このファンドの例では個人向け国債(変動10年)とほぼ同じ水準になります。それでいて、債券の投資信託には金利上昇で値下がりするリスクがあります。
では、債券の投資信託には何の意味もないのでしょうか。そうとは限りません。金利が下がる局面では価格が上がり、株式の下落をやわらげる役割を果たすことがあります。また、海外の債券など、個人向け国債では投資できない対象に分散できるのも強みです。ただし外国通貨建ての場合、「円高になれば基準価額にマイナス」(資産運用業協会「投資信託が持つリスク」)という為替のリスクも加わります。
購入する前に、目論見書や月次レポートで次の4つを確かめておくとよいでしょう。
- 信託報酬(年率)と購入時手数料
- 平均デュレーション(金利が1%動いたときの値動きの目安)
- 平均最終利回り(信託報酬を引くといくら残るか)
- 投資対象が国内か海外か、為替ヘッジの有無
換金・税金・NISAでも扱いが異なる
換金のしやすさにも違いがあります。個人向け国債は発行から1年間、原則として換金できません。ただし財務省によると、大規模な災害の被害を受けた場合や、保有者が亡くなった場合は、期間に関係なく換金できる特例があります。一方、債券の投資信託は原則いつでも解約を申し込めますが、受け取る金額はそのときの基準価額次第です。
税金は、課税口座であればどちらも20.315%が基本です。個人向け国債の利子には20.315%が課税され、財務省は第199回の変動10年の利率を「年率 2.05%(税引後 1.6335425%)」と公表しています(財務省「個人向け国債の発行条件等」)。投資信託についても、資産運用業協会は公募株式投資信託の税率を「20.315%」としています(資産運用業協会「投資信託の税金」)。
大きく分かれるのがNISAです。金融経済教育推進機構(J-FLEC)の資料には、次のようにあります。
※上記のうち、NISAの対象は株式と株式投資信託等です。
つまり、個人向け国債はNISA口座では買えません。債券の投資信託は、制度上「株式投資信託」に分類され、要件を満たすものであれば成長投資枠で買える場合があります。ただし、つみたて投資枠は「金融庁の基準を満たした株式投資信託に限定」(同資料)されています。買いたいファンドがNISAの対象かどうかは、金融庁の対象商品リストや販売会社で必ず確認してください。
よくある誤解とその回答
- 「債券の投資信託なら元本割れしない」・・・ 元本の保証はありません。先ほどの例では、過去1年で▲6.5%でした。
- 「信託銀行で分別管理されているから損はしない」・・・ 分別管理は、販売会社や運用会社の破綻から財産を守る仕組みです。運用の損失を防ぐものではありません。
- 「個人向け国債はいつでもコストゼロで換金できる」 ・・・発行から1年間は原則として換金できず、その後も直前2回分の利子相当額(税引後)が差し引かれます。
元機関投資家イズミダの視点
機関投資家は、債券を「利回りが得られるから」だけでは持ちません。そのお金をいつ、何のために使うのか。つまり「時間軸」に合わせて、値動きの大きさ(デュレーション)を選んでいます。とくに生命保険会社などは資産(アセット)と負債(ライアビリティ)を意識した運用を行っています。
実はこれは、家計でも同じ話です。数年以内に使うかもしれないお金や、元本を減らしたくないお金は、個人向け国債が持つ「値下がりしない」という性質と相性がよいでしょう。一方、10年以上先を見て株式と組み合わせるのであれば、債券の投資信託が株式中心になっている場合には分散の役割を果たす場面もあります。
まとめ:どんな人にどちらが向くか
個人向け国債が向きやすい人
- 元本を減らしたくない、数年以内に使うかもしれない(金利上昇が気になるなら変動10年)
- 保有コストをかけたくない
債券の投資信託が向きやすい人
- 10年以上の長期で、株式と組み合わせて分散したい
- 海外の債券にも分散したい、NISAを使いたい(為替リスクと、NISAの対象かどうかを確認)
- どちらが優れているかではなく、「そのお金をいつ使うか」で選ぶことが、後悔しない債券投資の第一歩といえるでしょう。
参考資料
- 財務省「個人向け国債」(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/)
- 財務省「個人向け国債の発行条件等」(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/houdouhappyou/p20261007.pdf)
- 財務省「変動10年(第199回)発行条件」(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/main/issue/hendou10/No_199.html)
- 資産運用業協会「投資信託が持つリスク」(https://www.imaj.or.jp/study/investmenttrust/meritrisk/risk.html)
- 資産運用業協会「投資信託の安全性」(https://www.imaj.or.jp/study/investmenttrust/meritrisk/safety.html)
- 資産運用業協会「投資信託のコスト」(https://www.imaj.or.jp/study/investmenttrust/costtax/cost.html)
- 資産運用業協会「投資信託の税金」(https://www.imaj.or.jp/study/investmenttrust/costtax/tax.html)
- 野村アセットマネジメント「野村日本債券インデックス(野村投資一任口座向け)月次レポート(2026年6月30日基準)」(https://www.nomura-am.co.jp/fund/monthly2/140418/M1140418_202606.pdf)
- 金融経済教育推進機構「少額投資非課税制度 NISA」(https://j-flec.go.jp/wpimages/uploads/nisa_202605-3.pdf)
LIMO編集部