病院や診療所に通うたびにかかる電車やバスの運賃は、通院が続くほど積み重なります。生活保護を受けている人の場合、この交通費をどう扱うかは医療扶助の中で決められています。

厚生労働省が2026年10月7日に公表した「被保護者調査(令和8年7月分概数)」によると、生活保護を受けている世帯は164万4102世帯でした。保護停止中を除く世帯のうち55.2%は高齢者世帯です。

この記事では、生活保護を受けている世帯の内訳と保護費の決まり方を確認したうえで、医療扶助の「移送の給付」として通院の交通費が支給される範囲を解説します。

1. 生活保護を受けている世帯は令和8年7月分で164万4102世帯、高齢者世帯は55.2%

被保護者調査(令和8年7月分概数)で、生活保護を受けている世帯と人の数、世帯類型ごとの内訳を見ていきましょう。

1.1 生活保護を受けている人は196万9655人、保護率は1.60%

生活保護を受けている世帯は164万4102世帯で、前年同月より3516世帯(0.2%)少なくなりました。

生活保護を受けている人は196万9655人で、前年同月より2万438人(1.0%)少なくなっています。人口100人あたりの保護率は1.60%でした。

1.2 世帯類型別の割合は保護停止中を除く163万5284世帯が母数

世帯類型別の数は、保護を一時的に停止している世帯を除いて集計されています。そのため、割合の母数は163万5284世帯です。

生活保護を受けている世帯(保護停止中を除く163万5284世帯)の世帯類型別の世帯数と割合1/2

生活保護を受けている世帯の世帯類型別の割合を示した横棒グラフ。高齢者世帯55.2%、障害者・傷病者世帯25.6%、その他の世帯15.8%、母子世帯3.4%(令和8年7月分概数)

出所:厚生労働省「被保護者調査(令和8年7月分概数)」を参考にLIMO編集部作成

【世帯類型別の世帯数と割合(母数163万5284世帯)】

  • 高齢者世帯:90万3116世帯(55.2%)
  • 障害者・傷病者世帯:41万8114世帯(25.6%)
  • その他の世帯:25万9162世帯(15.8%)
  • 母子世帯:5万4892世帯(3.4%)

高齢者世帯90万3116世帯の内訳は、単身世帯が84万4423世帯、2人以上の世帯が5万8693世帯です。単身の高齢者世帯は、高齢者世帯を母数にすると93.5%、163万5284世帯を母数にすると51.6%にあたります。

2. 生活保護の保護費は最低生活費と収入の差額、医療扶助は医療機関へ直接支払われる

生活保護の保護費は、厚生労働大臣が定める基準で計算した最低生活費と、世帯の収入を比べて決まります。収入が最低生活費に届かない場合に、その差額が支給されます。

2.1 生活保護の扶助は8種類ある

厚生労働省は、生活に必要な費用に応じて次の8つの扶助を設けています。

  • 生活扶助:食費・被服費・光熱水費などの日常生活に必要な費用
  • 住宅扶助:アパートなどの家賃(定められた範囲内で実費)
  • 教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費など
  • 医療扶助:医療サービスの費用(直接医療機関へ支払い、本人負担なし)
  • 介護扶助:介護サービスの費用(直接介護事業者へ支払い、本人負担なし)
  • 出産扶助:出産費用(定められた範囲内で実費)
  • 生業扶助:就労に必要な技能の修得などにかかる費用
  • 葬祭扶助:葬祭費用(定められた範囲内で実費)

2.2 生活扶助基準額の例、高齢者単身世帯(68歳)は東京都区部等で月7万7980円

厚生労働省の「生活保護制度に関するQ&A」では、令和8年10月1日現在の生活扶助基準額の例が示されています。住んでいる地域で額が変わるため、東京都区部等と地方郡部等の2つが並んでいます。

  • 3人世帯(33歳、29歳、4歳):東京都区部等16万8020円、地方郡部等15万370円
  • 高齢者単身世帯(68歳):東京都区部等7万7980円、地方郡部等6万9950円
  • 高齢者夫婦世帯(68歳、65歳):東京都区部等12万5460円、地方郡部等11万1720円
  • 母子世帯(30歳、4歳、2歳):東京都区部等20万50円、地方郡部等17万9300円

いずれも児童養育加算などを含む月額です。生活扶助のほか、必要に応じて住宅扶助や医療扶助なども支給されます。

3. 65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月14万8445円、保健医療は8388円

総務省の「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」で、65歳以上の単身無職世帯が1か月に使うお金の内訳を確認します。生活保護を受けていない世帯も含めた平均です。

  • 食料:4万2545円
  • 住居:1万1416円
  • 光熱・水道:1万5565円
  • 家具・家事用品:6069円
  • 被服及び履物:3049円
  • 保健医療:8388円
  • 交通・通信:1万3601円
  • 教育:0円
  • 教養娯楽:1万6132円
  • その他の消費支出:3万1681円

消費支出の合計は14万8445円です。保健医療は消費支出の5.7%、交通・通信は9.2%を占めています。家計調査の平均は生活保護の最低生活費とは計算の仕方が違うため、そのまま比べるものではありません。

4. 生活保護の医療扶助では、通院の交通費が「移送の給付」として支給される

生活保護の医療扶助は、診察や薬だけでなく、医療機関に行くための移送も対象にしています。扱いは厚生労働省の通知「生活保護法による医療扶助運営要領について」に定められています。

4.1 移送の給付の範囲は8つ、電車・バスで受診するときの交通費も含まれる

医療扶助運営要領は、移送の給付を行う場合としてアからクまでの8つを挙げています。通院に直接関わるのは、電車・バス等で受診するときの交通費(ア)と、傷病や障害で電車・バス等の利用が著しく困難な人の交通費(イ)です。

医療扶助の「移送の給付」が行われる8つの場合2/2

医療扶助運営要領が定める移送の給付の範囲アからクまでの一覧。電車・バス等で受診するときの交通費、利用が困難な人の受診の交通費、検診命令、往診、緊急搬送、離島からの移送、緊急の転院、移植のための搬送

出所:厚生労働省「生活保護法による医療扶助運営要領について」新旧対照表を参考にLIMO編集部作成

  • ア:電車・バスなどで医療機関を受診するときの交通費
  • イ:傷病や障害で電車・バスなどの利用が著しく難しい人が受診するときの交通費
  • ウ:検診命令により検診を受けるときの交通費
  • エ:医師の往診などにかかる交通費や燃料費
  • オ:けがをした人を災害現場などから医療機関へ緊急に運ぶ場合
  • カ:離島などで重い病気やけがをし、近くの医療機関では必要な医療を受けられないため、最寄りの医療機関へ移送する場合
  • キ:移動が難しい患者を、医師の指示で設備の整った医療機関へ緊急に転院させる場合
  • ク:医療扶助の対象となる移植手術のため、臓器の摘出を行う医師の派遣や摘出した臓器の搬送に交通費などがかかる場合(国内に限る)

4.2 移送は「経済的かつ合理的な経路及び交通手段」で、受診先は近くの医療機関が原則

移送の給付は、療養に必要な最小限度の日数に限り、傷病などの状態に応じて「経済的かつ合理的な経路及び交通手段」で行うとされています。

受診する医療機関は、原則として居住地などに比較的近い医療機関に限られます。ただし、近くの医療機関では対応が難しい場合は、専門的な治療の必要性や主治医との信頼関係などを総合的に考えて、適切な医療機関への受診が認められます。

4.3 移送の費用は最小限度の実費、割引運賃が使えれば割引後の額

移送に要する費用は、経済的かつ合理的な方法と経路で移送したものとして計算した最小限度の実費です。医学的な管理のために付添人が必要な場合に限り、付添人の日当なども含まれます。

身体障害者などの割引運賃が使える場合は、割引運賃で計算した額になります。

生活保護を受けている世帯の半数を超える高齢者世帯にとって、通院は暮らしの一部です。医療扶助には診察や薬の費用のほかに、電車やバスで通院するときの交通費も含まれています。

どの医療機関に、どの経路と交通機関で通うかは、福祉事務所が決めます。通院が続くときは、担当のケースワーカーに交通費の扱いを確かめられます。

ここからは、移送の給付を申請してから支給されるまでの手続きと、申請が遅れたときの扱いを見ていきます。

太田 彩子

自治体で保険料の計算を担当していた頃も、医療にかかわるお金は制度ごとに申請先や順番が違い、窓口でよく確認を受けてきました。通院の交通費も、使う前に福祉事務所へ相談しておくと安心です。