久しぶりに親の家を訪ねたとき、階段で手すりを探すように歩く姿や、浴室の出入りで慎重になる様子に、ヒヤリとした方もいるのではないでしょうか。
2026年9月30日に株式会社家がほしいが公表した「【500人調査】高齢の親の住環境で危険を感じる場所は?実家でヒヤリとした経験をアンケート」では、高齢の親を持つ子世代500人のうち73.2%が、実家でヒヤリとした経験があると答えました。
手すりの設置などで事故を防ぎたいと考えたとき、気になるのが工事の費用です。
介護保険には住宅改修の給付がありますが、認定の有無や申請の順序によっては使えない場合もある点に注意が必要です。本記事では、調査結果と制度のポイント、自己負担の目安を順に確認します。
1. 親の家で危険を感じる場所は?1位は階段45.8%
同調査の回答者は500人で、調査の概要は本節末の注記にまとめています。
親の住環境で危険を感じる場所として最も多く挙がったのは、階段の45.8%でした。浴室が27.6%、玄関が19.2%、いたるところの段差が13.4%、トイレが4.4%と続きます。
【データ】親の住環境で危険を感じる場所とヒヤリ経験1/4
出所:株式会社家がほしい「【500人調査】高齢の親の住環境で危険を感じる場所は?実家でヒヤリとした経験をアンケート」をもとにLIMO編集部作成
- 1位:階段(45.8%)
- 2位:浴室(27.6%)
- 3位:玄関(19.2%)
- 4位:いたるところの段差(13.4%)
- 5位:トイレ(4.4%)
階段は上り下りのたびに体を支える動作が続く場所であり、浴室は濡れた床での立ち座りや出入りの段差が気になる場所です。こうした動作が重なる場所に、不安が集まりやすいと考えられます。ただし同調査は民間企業によるインターネット調査で、回答者の女性比率は72.8%と高めです。日本全体の傾向というより、子世代の実感をつかむための目安として受け止めるのが妥当でしょう。
※調査概要:株式会社家がほしい「【500人調査】高齢の親の住環境で危険を感じる場所は?実家でヒヤリとした経験をアンケート」(2026年9月30日公表)/調査期間:2026年7月3日〜4日/調査方法:インターネットアンケート/調査対象:高齢の親を持つ子世代500人(女性364人、男性136人)/回答者の年代:20歳代6.8%、30歳代28.6%、40歳代37.4%、50歳代以上27.2%。回答者数が500人と限られるため、結果は傾向をみる目安としてご覧ください。
2. ヒヤリ経験は73.2%、対策は手すりに集中?
親の家でヒヤリとした経験があるかを尋ねたところ、「頻繁に」が9.6%、「たまに」が63.6%でした。両方を合わせた経験ありは73.2%にのぼります。一方で「あまりない」は22.6%、「全くない」は4.2%にとどまりました。
子世代の7割超が、親の家で一度はヒヤリとした経験を持っていることになります。
では、実家の安全対策として何を検討しているのでしょうか。同調査の結果は次のとおりです。
- 手すりの設置:20.6%
- 施設への入居:8.8%
- 住み替え:6.6%
- 浴室のリフォーム:6.0%
- ワンフロアでの暮らし:5.8%
- 検討している対策がない:28.2%
最も選ばれたのは手すりの設置(20.6%)でした。住み替えや大がかりなリフォームに比べると、取り入れやすい対策として選ばれているとみられます。その一方で、検討している対策が「ない」と答えた人も28.2%と、約3割を占めました。ヒヤリとした経験があっても、具体的な対策までは進んでいない人が少なくない様子がうかがえます。工事の費用がハードルになっているなら、公的な給付の仕組みを知っておくことが、最初の一歩になるかもしれません。
筆者の実家は、父が50代のときに建てた家です。当時の父は、まさか2センチもない段差に自分がつまづく日が来るとは思っていなかったでしょう。
ところが晩年は、ごくわずかな段差や畳のへりにも足を取られるようになりました。若いころは気にも留めなかった場所が、年齢とともに危ない場所へ変わっていきます。
階段や浴室だけでなく、毎日通る廊下や敷居のような所にも、ヒヤリとする瞬間は潜んでいるのだと感じました。
確認するときは、親に「危ないから直そう」と伝えるより、「ここは歩きやすい?」と尋ねるほうが本音を聞きやすい場合もあります。気づいた場面を書き留めておけば、あとで制度や専門家に相談するときの材料にもなるでしょう。
3. 介護保険の住宅改修で押さえたい注意点が3つあります
厚生労働省の「福祉用具・住宅改修の概要」(2020年9月の介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会資料)によると、介護保険の住宅改修は、手すりの取付けなどを行う際に費用の一部が支給される仕組みです。
ただし、利用には守るべき条件があり、見落とすと給付を受けられない場合があります。親の家の工事を考える前に、次の3点を確認しておきましょう。
3.1 1. 要支援・要介護の認定が前提です
厚生労働省の住宅改修の資料では、対象は要支援1以上の認定を受けた人とされています。実家でヒヤリとした段階で、親がまだ認定を受けていない場合は、介護保険の住宅改修は使えません。その場合の手すり工事は、全額が自己負担になります。
認定は、お住まいの市区町村の窓口に申請して受ける仕組みです。親の状態に不安があるときは、地域包括支援センターに相談しましょう。認定の申請や介護サービスの案内を受けられる窓口です。
3.2 2. 工事前の申請が基本です
住宅改修は、工事を始める前に市町村へ申請するのが基本とされています。同資料では、やむを得ない事情がある場合には工事の完成後の申請も可能とされていますが、これは例外的な扱いです。工事を先に済ませてしまうと、給付の対象外になるおそれがあるため、依頼する業者を決める前にケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談しておくと安心です。
また、償還払いが中心とされている点にも注意が必要です。いったん工事費の全額を支払い、後から給付分が戻る流れのため、手元に一時的な資金が必要になります。
3.3 3. 上限20万円は定額で、再利用には条件があります
支給限度基準額は、要支援・要介護の区分にかかわらず20万円です。限度額の範囲内であれば、複数回に分けて申請することも可能です。要介護状態区分が3段階以上重くなった場合や、転居した場合には、あらためて20万円までの限度額が設定されると明記されています。
対象となる工事は、次の6種類に限られます。
- 手すりの取付け
- 段差の解消
- 滑りの防止および移動の円滑化等のための床または通路面の材料の変更
- 引き戸等への扉の取替え
- 洋式便器等への便器の取替え
- 上記の工事に付帯して必要となる住宅改修
3.4 自己負担はいくら?工事費20万円と25万円で比べると
給付の割合は、所得に応じて原則9割(上限18万円)、8割(上限16万円)、7割(上限14万円)と決まっており、自己負担は1割から3割です。たとえば工事費が20万円の場合、1割負担なら自己負担は2万円で、給付は18万円となります。2割負担なら自己負担が4万円(給付16万円)、3割負担なら6万円(給付14万円)という計算です。
工事費が25万円になると、計算が変わります。上限の20万円を超える5万円は、全額が自己負担です。1割負担の場合は、20万円の1割にあたる2万円と超過分の5万円を合わせた7万円が自己負担になります。同じ計算で、2割負担なら9万円、3割負担なら11万円です。
- 工事費20万円・1割負担:自己負担2万円(給付18万円)
- 工事費20万円・2割負担:自己負担4万円(給付16万円)
- 工事費20万円・3割負担:自己負担6万円(給付14万円)
- 工事費25万円・1割負担:自己負担7万円(給付18万円)
- 工事費25万円・2割負担:自己負担9万円(給付16万円)
- 工事費25万円・3割負担:自己負担11万円(給付14万円)
上限を超える部分は自己負担となるため、見積もりの段階で、どこまでが給付の対象になる工事なのかを確認しておくことが重要になります。
4. 親本人は住まいの不便をどう見ている?調査を並べて確認
子世代が階段を危険と感じていても、親本人が感じている住まいの課題は、視点が異なる可能性があります。
内閣府の「令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査結果(全体版)」(60歳以上の男女が対象)によると、現在の住宅の問題点で最も多かったのは「住まいが古くなり、いたんでいる」の29.5%でした。「防災・防犯面で不安がある」が24.4%、「断熱性や省エネ性能が不十分」が16.9%と続き、「段差や階段等があり使いにくい」は12.7%です。住居の形態は、持家(一戸建て)が76.2%を占めています。
一方で、身体機能が低下した場合に行いたい住宅改修を尋ねた設問では、「手すりを設置する」が69.1%で最も高く、「床や通路面の段差解消」が42.5%、「生活様式の洋式化」が37.7%などと続きます。「浴槽の改修」は34.9%でした。普段は不便を感じていなくても、体の状態が変わったときには、手すりや段差解消への意向が高いことがわかります。
なお、前半の調査は子世代、こちらは60歳以上の本人が対象で、設問の内容も異なる点には注意が必要です。数値を直接比べることはできないため、親と子で見えている景色が違うかもしれない、という視点を持つための材料として受け止めるのがよいでしょう。
親の暮らしぶりが家族に伝わりにくい事情もあります。厚生労働省が公表した「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」によると、65歳以上のいる世帯は2761万4000世帯で、全世帯の50.2%です。その内訳は、単独世帯が933万5000世帯(33.8%)、夫婦のみの世帯が882万8000世帯(32.0%)で、合わせると約3分の2にのぼります。子世代と同居していない世帯が多いと、階段や浴室でのヒヤリとした出来事が、子世代に伝わらないまま過ぎている場合もあるかもしれません。
5. 住宅改修の自己負担は家計にどう響く?
2〜6万円の自己負担を、親の家計に置き換えて考えてみましょう。総務省統計局の「家計調査(家計収支編)」の2025年の結果によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の実収入は月平均25万4395円で、そのうち社会保障給付(公的年金などを含みます)が22万8614円を占めます。可処分所得は22万1544円、消費支出は26万3979円で、同調査が示す不足分は月に4万2434円です。表示した金額の単純な差額とは、平均値の端数処理により1円異なります。なお、この家計収支には介護費用は含まれていません。
住宅改修の自己負担が2万円から6万円(工事費20万円の場合)と聞くと、一度の出費としては小さく見えるかもしれません。
しかし、毎月の不足が4万円台という家計では、貯蓄などで補う場面も出てくるでしょう。
工事費が上限を超えれば、さらに負担は増えます。平均値であり、世帯によって状況は大きく異なりますが、改修を検討する際は、給付の仕組みだけでなく、資金計画も合わせて考えておきたいところです。
6. まとめにかえて|次の帰省で確かめたい3か所
ここまで見てきたとおり、実家のヒヤリは多くの子世代が経験しており、手すりの設置は取り組みやすい対策といえます。介護保険の住宅改修を使えば費用を抑えられますが、認定と事前の申請が前提になります。次の帰省では、次の3か所を確認してみてください。
- 階段:手すりの有無、足元の明るさ、滑り止めの状態
- 浴室:出入り口の段差、立ち座りを支える手すりの要否、床の滑りにくさ
- 玄関:上がり框の段差、靴を履くときに体を支える場所の有無
気になる点があれば、親の要介護認定の有無を確認しましょう。すでに認定を受けている場合は担当のケアマネジャーへ、まだの場合はお住まいの地域の地域包括支援センターへ相談できます。工事の発注は、その後で遅くありません。
7. 【筆者コメント】
親の家の改修を考えるとき悩ましいのは、長年暮らした家だけに、段差をなくすことが思い出を削るようにも感じられます。
最近はバリアフリーを意識した住まい選びも増えているため、考え方は少しずつ変わっていくのかもしれません。
それでも、慣れ親しんだ家で暮らし続けるための備えは、できる範囲で考えておきたいところです。
実務の面では、介護保険の住宅改修に条件や手続きの順序があるので、工事の前に要支援・要介護の認定の有無と相談窓口を確かめておくと安心です。
申請の流れや必要書類は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに尋ねてみてください。費用の目安がわかっていれば、親とも見通しを持って話し合えるはずです。まずは次に会うとき、階段や敷居の様子を一緒に見てみてはいかがでしょうか。
