厚生労働省は2026年9月25日に「令和7年転職者実態調査」の結果を、そして直後の9月28日には「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年7月分結果確報」を相次いで公表しました。物価の上昇を上回る賃上げのニュースが続き、実質賃金(物価の変動を差し引いて計算した、お金の実際の購買力を示す指標)はプラスの状態が続いています。
一方で、転職した人に前の職場を辞めた理由を尋ねると、最も多かったのは「賃金が低かったから」という切実な声でした。筆者はFPとしてこれまで多くの家計相談に携わってきましたが、「お給料は上がったはずなのに、毎月の生活が楽になった気がしない」「今後の教育費を考えると不安だ」というお声を本当によく耳にします。数字上の景気回復と、私たちが日々の暮らしで感じる豊かさの間には、まだ少し距離があるのかもしれません。
今回は、これら2つの最新統計から見える「働く人とお金」の実態や、男女で異なる転職の背景について、FPの視点でわかりやすく解説します。
1. 7月の現金給与総額は43万4507円!実質賃金がプラスを続ける3つのポイント
まずは「毎月勤労統計調査」から、足元の賃金の動きを確認してみましょう。2026年7月分結果確報の概要は以下の通りです。
- 現金給与総額(就業形態計、事業所規模5人以上):43万4507円(前年同月比4.3%増)
- 一般労働者の現金給与総額:57万6019円(同4.3%増)
- パートタイム労働者の時間当たり給与:1455円(同5.4%増)
- 実質賃金指数(現金給与総額):117.1(同2.0%増)
- 消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合):前年同月比2.2%上昇
ここから読み取れる重要なポイントは、大きく3つあります。
第一に、名目賃金(実際に口座に振り込まれたり、手渡しで受け取ったりする金額そのもの)が大きく伸びている点です。7月は夏のボーナスが含まれる企業が多い月であり、現金給与総額は43万4507円と前年同月から4.3%増えました。ボーナスなどの「特別に支払われた給与」に限ると13万3533円で、前年同月比5.3%増と力強い伸びを見せています。
第二に、実質賃金がしっかりとプラスを保っている点です。消費者物価指数が前年同月比2.2%上昇と物価高が続く中であっても、それを上回るペースで名目賃金が伸びたため、実質賃金は前年同月比2.0%増となりました。月ごとの推移を振り返ると、実質賃金は2025年12月まではマイナスが続いて苦しい状況でしたが、2026年1月にプラスに転じて以降、7月まで7カ月連続でプラスを維持しています。
第三に、パートタイムで働く人の時給も着実に上がっている点です。パートタイム労働者の時間当たり給与は1455円で、前年同月比5.4%増と、正社員などの一般労働者を上回る伸びを見せています。家計を支えるためにパートタイムで働く方にとって、時給のアップは日々の生活を直接的に助ける明るい兆しといえるでしょう。
ただし、業種によって差がある点には注意が必要です。7月の現金給与総額を見ると、建設業が64万8880円で前年同月比10.1%増と大きく伸びた一方で、教育や学習支援業は36万1868円で0.3%減とわずかにマイナスになるなど、働く業界によって賃上げの恩恵にバラつきが見られます。
2. 転職者の8割超が「自己都合」で離職。男女で異なる辞めた理由の上位3つとは?
賃金の上昇が社会全体で続く一方で、転職を決意した人はどのような理由で前の職場を離れたのでしょうか。5年ぶりに公表された「転職者実態調査」の結果を見ていきましょう。この調査は、5人以上の常用労働者を雇用する約1万7000事業所と、そこで働く転職者約1万3000人を対象にした大規模なものです。
直前の勤め先を離職した主な理由は、「自己都合」が81.3%と圧倒的な割合を占めました。全体で見ると離職理由のトップ3は、「賃金が低かったから(25.5%)」「会社の将来に不安を感じたから(25.2%)」「満足のいく仕事内容でなかったから(24.7%)」と僅差で並んでいます。 しかし、男女別にデータを紐解くと、少し違った背景が見えてきます。
男性の離職理由の上位は以下の通りです。
- 賃金が低かったから:29.6%
- 会社の将来に不安を感じたから:28.3%
- 満足のいく仕事内容でなかったから:25.8%
一方、女性の離職理由の上位は以下のようになっています。
- 満足のいく仕事内容でなかったから:23.5%
- 労働条件(賃金以外)がよくなかったから:23.1%
- 人間関係がうまくいかなかったから / 会社の将来に不安を感じたから:ともに21.9%
男性は「賃金」や「会社の将来性」といった、収入の基盤や中長期的な安定を重視して離職を決意する傾向が強いようです。対して女性は、賃金への不満(21.1%)もあるものの、「賃金以外の労働条件」や「人間関係」といった、日々の働きやすさや職場環境に関する理由が上位にきていることがわかります。
家事や育児、介護などと仕事の両立を迫られるケースがいまだ女性に多い社会背景もあり、柔軟に働ける環境を求めて職場を離れる様子がうかがえます。
3. 転職先を選んだ理由は「賃金」より「仕事内容」?
ここでも見える男女の違いでは、転職者は新しい勤め先を何を基準に選んだのでしょうか。「現在の勤め先を選んだ理由(3つまでの複数回答)」の回答を見てみると、ここでも興味深い結果と男女の違いが見えてきます。全体のトップは「仕事の内容・職種に満足がいくから(40.2%)」、次いで「自分の技能・能力が活かせるから(38.4%)」でした。「賃金が高いから」を選んだ人は18.8%にとどまっています。
辞める理由では「賃金」がトップクラスだったにもかかわらず、新しい居場所を選ぶとなると、精神的な充足感が強く重視されているのです。これを男女別に見てみましょう。
男性が転職先を選んだ理由の上位は以下の通りです。
- 自分の技能・能力が活かせるから:42.4%
- 仕事の内容・職種に満足がいくから:41.6%
- 労働条件(賃金以外)がよいから:21.5%
一方、女性が転職先を選んだ理由の上位は以下の通りです。
- 仕事の内容・職種に満足がいくから:38.6%
- 自分の技能・能力が活かせるから:34.0%
- 労働条件(賃金以外)がよいから:24.9%
- 転勤が少ない、通勤が便利だから:20.1%
男性は「自分の能力が活かせるか」というやりがいをトップに挙げているのに対し、女性は仕事内容に加え、「賃金以外の労働条件」や「転勤の少なさ・通勤の便利さ」をより高く重視しています。限られた時間の中で効率よく働き、プライベートや家庭生活とのバランスを取りたいという切実な思いが、転職先選びの基準にも表れているといえるでしょう。