日本年金機構は、パートなど短時間で働く人が厚生年金と健康保険に加入する要件のうち、「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件を2026年10月に撤廃する予定だと案内しています。
配偶者を亡くし、遺族厚生年金を受けながら働いている65歳未満の人にとっても、勤め先で厚生年金に加入するかどうかが変わりうる見直しです。まずは遺族厚生年金そのものがいくらになるのかを押さえておきたいところです。
この記事では、平均標準報酬額40万円の夫が在職中に亡くなったモデルケースで遺族厚生年金の額を計算し、妻が65歳未満のときと65歳以上のときの受け取り方、働いたときに止まるのかどうかを確認します。
1. 【遺族厚生年金】受け取れる4つの条件と6つの優先順位
遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者または被保険者であった人が亡くなったときに、その人に生計を維持されていた遺族が受け取る年金です。
まずは、どのような亡くなり方なら受け取れるのか、遺族のうちだれが受け取るのかを確認します。
1.1 在職中の死亡など、受給できる4つのケース
日本年金機構は、遺族厚生年金の受給要件として次の4つを挙げています。
- 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受け取っている人が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした人が死亡したとき
このうち上の3つは「短期要件」、4つ目は「長期要件」と呼ばれます。どちらにあたるかで、次の章で見る額の計算方法が変わります。
1.2 受け取れる遺族の順位
遺族厚生年金を受け取れる遺族には順位があり、「子のある配偶者」「子」「子のない配偶者」「父母」「孫」「祖父母」の順です。
実際に受け取るのは、このうち最も順位の高い人です。子のない妻も、配偶者として受け取ることができます。
2. 【モデルケース】平均標準報酬額40万円・加入180月の夫が在職中に亡くなると遺族厚生年金は年49万3290円
遺族厚生年金の額は、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。ここでは、平均標準報酬額40万円で厚生年金に180月(15年)加入していた夫が、在職中に亡くなったケースで計算します。
夫の加入期間はすべて平成15年4月以後とし、金額はLIMO編集部の試算です。
2.1 加入180月でも300月とみなして報酬比例部分を計算する
報酬比例部分は、平成15年4月以後の加入期間について「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」で計算します。
在職中の死亡は短期要件にあたるため、被保険者期間が300月(25年)に満たないときは300月とみなして計算します。このケースでは実際の加入180月ではなく300月を使います。
40万円×5.481/1000×300月で、報酬比例部分は年65万7720円です。
2.2 その4分の3にあたる年49万3290円が遺族厚生年金になる
65万7720円の4分の3で、遺族厚生年金は年49万3290円です。月にすると約4万1107円です。
年金は偶数月に2か月分ずつ振り込まれるので、1回あたりの振込は約8万2215円になります。
3. 【遺族厚生年金】65歳未満の妻が受け取る年金額「子の有無と働き方」の関係
妻が65歳未満のときは、遺族厚生年金の年49万3290円に、子がいるかどうかで別の給付が加わります。
モデルケースで、子が2人いる妻と、子のない40歳以上の妻の年額を並べます。
3.1 子が2人いる妻は、遺族基礎年金とあわせて年182万8190円
子のある妻には、遺族厚生年金とあわせて遺族基礎年金が支給されます。令和8年4月分からの遺族基礎年金は年84万7300円で、第1子・第2子にはそれぞれ年24万3800円、第3子以降は1人年8万1300円が加算されます。
※昭和31年4月1日以前生まれの人の遺族基礎年金は年84万4900円です。
子が2人なら、84万7300円に子の加算48万7600円を足して遺族基礎年金は年133万4900円です。遺族厚生年金の年49万3290円とあわせて、年182万8190円になります。
ここでいう子は、18歳になった年度の3月31日までにある子、または20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある子です。末子が18歳になった年度末を過ぎるなどして子の要件にあたる子がいなくなると、遺族基礎年金は受け取れなくなります。
3.2 子のない40歳以上の妻は、中高齢寡婦加算がついて年112万8790円
夫が亡くなったときに40歳以上65歳未満で、生計を同じくする子がいない妻には、65歳になるまで中高齢寡婦加算が年63万5500円加算されます。40歳になった当時に子がいて遺族基礎年金を受けていた妻が、子が18歳になった年度末を過ぎるなどして遺族基礎年金を受け取れなくなったときも対象です。
モデルケースでは、遺族厚生年金の年49万3290円と中高齢寡婦加算の年63万5500円で年112万8790円、月にすると約9万4065円です。
なお、遺族基礎年金を受け取っている間は、中高齢寡婦加算は加算されません。
3.3 65歳になるまでの遺族厚生年金は、働いて厚生年金に加入しても在職を理由に止まらない
厚生労働省が示している遺族厚生年金の支給停止の事由は、労働基準法による遺族補償を受けられるとき、配偶者や子の受給関係によるもの、所在が1年以上明らかでないときなどで、働いて賃金を得ていることは含まれていません。
働きながら年金を受けるときに支給が止まる在職老齢年金の仕組みは、日本年金機構の案内でも老齢厚生年金が対象です。2026年10月以降に勤め先で厚生年金に加入しても、65歳未満で受け取る遺族厚生年金の額は在職を理由には変わりません。
ただし、60歳台前半で特別支給の老齢厚生年金を受け取れる人は、65歳になるまでは遺族厚生年金とどちらか一方を選ぶことになります。
4. 遺族が65歳以上になると、遺族厚生年金は自分の老齢厚生年金との差額になる
妻が65歳になると、中高齢寡婦加算は終わり、自分の老齢厚生年金との調整が始まります。昭和31年4月2日以後生まれの妻には、中高齢寡婦加算のあとの経過的寡婦加算もありません。
遺族厚生年金がどう支払われるかを、日本年金機構と厚生労働省の説明から確認します。
4.1 自分の老齢厚生年金は全額支給される
65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある人は、老齢厚生年金が全額支給されます。遺族厚生年金は、老齢厚生年金に相当する額が支給停止となります。
実際に遺族厚生年金として振り込まれるのは、自分の老齢厚生年金を上回る部分です。
4.2 遺族厚生年金は2つの式の高い方で決まる
配偶者の死亡による遺族厚生年金を65歳以上で受け取るときは、次の2つを比べて高い方が遺族厚生年金の額になります。
- 亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額
- 亡くなった人の報酬比例部分の2分の1の額と、自分の老齢厚生年金の2分の1の額を合算した額
そのうえで、自分の老齢厚生年金を全額受け取り、遺族厚生年金の額から自分の老齢厚生年金を差し引いた額を遺族厚生年金として受け取ります。自分の厚生年金の加入期間が長い人ほど、遺族厚生年金として振り込まれる額は小さくなります。
65歳になるまでの遺族厚生年金は、働いて厚生年金に加入しても在職を理由に止まることはありません。一方で、自分の厚生年金は65歳からの受け取り方に関わるので、年金事務所で見込額を確かめておくと働き方を決めやすくなります。
