この記事の読みどころ
円建て輸出ならば、円高でも影響を受けないというのは誤りです。
円建てのままで円高になると、輸入する人にとっては価格上昇となり、値下げ圧力が増してきます。
円建てでも外貨建てでも、必ず輸出には為替リスクが伴います。
円建て輸出なら、円高の影響はほとんどない?
2月以降、円高が進んでいます。先日、どこの新聞だか忘れましたが、中堅工作機械メーカーの社長のインタビュー記事が掲載されていました。
その記事の中で、“当社の輸出は円建てだから、円高の影響はほとんどない”という類のコメントがありました。この記事を読むと、“円建て輸出ならば安全だ”、“円建て輸出は為替リスクがない”と感じた方がいても不思議ではないと思われます。
円建て輸出でも為替リスクに晒される
結論から言うと、円建て輸出でも為替リスクに晒されます。円建て輸出ならば安全というのは大きな誤りです。
日本からの輸出は、外貨建て(以降はドル建てとします)、もしくは、円建てのどちらかです。例えば、自動車を1台2万ドルで輸出する場合は「ドル建て」、1台230万円で輸出する場合は「円建て」となります。
まず、円高が進んだ時に、ドル建て輸出が影響を受けることは、比較的簡単にお分かりだと思います。
この自動車の例では、1ドル=120円の時は受取金額が240万円(2万ドル×120円)ですが、円高となった1ドル=110円の時は220万円(2万ドル×110円)となり、同じ輸出でも▲20万円も受取額が減ってしまいます。これは収益に大きな打撃となります。
円建て輸出では、相手の立場になって考えてみることが重要
では、円建ての時はどうでしょうか? 1台230万円で輸出すれば、1ドル=120円でも110円でも、受取金額は同じ230万円となり、確かに、為替変動の影響がないように見えます。しかし、ここでのポイントは“相手の立場になって考えてみる”ということです。
輸入する人は、ドルを円に換金する必要がある
1台230万円の自動車を輸入する人(お客)は、自分が持っているドルを円に換金して購入資金230万円を用意しなければなりません。為替相場が1ドル=120円の時は約19,200ドル(=230万円÷120円/ドル)が必要ですが、1ドル=110円の時は約20,900ドル(=230万円÷110円/ドル)が必要です。
同じ自動車を買う(輸入する)にもかかわらず、用意するドルの金額が多くなってしまいます。つまり、輸入する人(お客)から見れば、値上げされたのと同じことになります。
円建ての輸出価格を値下げする必要が生じる
輸入する人(お客)は何と言うでしょうか? 多くは「(円建て価格を)値下げしてくれ」と言うでしょう。19,200ドルだった自動車が20,900ドルになったら、値下げ要請をするのは当然です。
そして、値段交渉の結果、もし「600ドルくらいの値上げなら我慢しよう」となり19,800ドルになったとすれば、輸出する人が受け取る金額は約218万円(=19,800×110円/ドル)になります。つまり、輸出する人は230万円から218万円に値下げすることになるため、受取金額は▲12万円減ってしまいます。
もし、輸入する人が「値上げは認めない。19,200ドルのままだ」と譲らなかった場合、輸出する人は約211万円に値下げしなければなりません(=19,200×110円/ドル)。受取金額は▲19万円減ってしまうのです。
ただ、ここの例に挙げた値下げ(230万円を218万円に引き下げ)は、実現するまでに少し時間を要します。
そのため、本当にごく短期的には230万円のままで円高影響を受けない場合が十分考えられます。冒頭の社長のインタビューはこのことを意味したのかもしれません。しかし、すぐに値下げとなって、円高影響を受けることになるのです。
「値下げしなければいいじゃないか」という意見があるかもしれません。しかし、値下げしないと買ってくれなくなる、あるいは、他社の商品を買ってしまうなどの事態が起きるため、タイムラグを経て値下げせざるを得なくなるのです。
また、輸出先が自社の販売会社(子会社)等の場合、仮に値下げをしないならば、子会社が為替リスクを被ることになります。当然、連結ベースでは業績に影響が出てきます。
ドル建てでも円建てでも、輸出には常に為替リスクが伴う
この記事の例では、非常に簡単なモデルで説明しました。実際には、為替予約によるリスクヘッジ等により、もっと複雑な関係になります。しかし、重要なことは、ドル建てだろうが、円建てだろうが、輸出には為替リスクが必ず伴うということです。
足元は円高進行にやや一服感が出ていますが、再び円高が進んだ時に、こうした点を踏まえて見てみたいものです。
【2016年4月20日 投信1編集部】
■参考記事■
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LIMO編集部