株価が1カ月で4割上がったと聞けば、普通は業績が跳ねた会社を思い浮かべる。だが東邦亜鉛(5707)の直近の決算は、そこまで派手な数字ではない。2026年3月期通期は増益で黒字に戻したものの、売上高はほぼ横ばいだった。では、この株価は何を見ているのか。無配のまま借入金の返済に資金を振り向けた1年の中身から入りたい。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- ①2026年8月28日の終値は1,182円。7月30日の813円から4割超上げた水準にあり、当日は前日を下回って引けた
- ②直近時点のPERは10.59倍、PBRは1.18倍。2026年3月期通期は営業利益67億円と20%の増益で、当期利益は黒字に転じた
- ③2026年3月期の財務キャッシュフローは▲108億円。期末の有利子負債624億円をどう畳んでいくかが、この会社の次の論点になる
1. 1カ月で4割超上げた株価と、PER10倍台という現在地
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出所:各種資料をもとに筆者作成
2026年8月28日の終値は1,182円だった。1カ月前の7月30日は813円である。この間の上げ幅は4割を超える。
8月26日には1,232円を付け、直近1カ月ではここが最も高い水準になった。そこから2営業日は続落し、当日も前日を下回って引けている。
上げの角度が急なぶん、短期の反動は出やすい局面だ。もっとも、この水準まで買われた理由を単一の材料で断定することはできない。非鉄金属という業種の性格上、金属相場と為替の動きが常に背景にあるとみるのが自然だろう。
直近時点のバリュエーションも見ておきたい。PER(株価収益率)は10.59倍、PBR(株価純資産倍率)は1.18倍である。
PERは10倍台前半、PBRは1倍をわずかに上回る水準にとどまる。PBRが1倍近辺に張り付いているのは、後で触れる自己資本の薄さと無縁ではないだろう。
2. 減収なのに増益。2026年3月期に効いたのは相場と資産売却だった
2026年3月期通期は、売上高1,255億円で前期比1%の減収、営業利益67億円で20%の増益、経常利益56億円で54%の増益となった。当期利益は47億円で、前期の14億円の純損失から黒字に転じている。
売上が減って利益が増えた。何が起きたのか。
会社の説明によると、前期に撤退した事業の売上が剥落した一方で、金属価格の高騰と下期からの円安による精錬事業の増収がこれを埋めた。
利益面では、原料鉱石の買鉱条件悪化と鉛リサイクル原料の調達価格の高止まりが減益要因になっている。それでも、金製品の販売数量の増加、金や銀、ビスマスといった希少金属の相場上昇、そして亜鉛製錬の再編に伴う保有資産の売却が収益に貢献したという。
つまりこの増益は、本業の数量が伸びた結果というより、相場と資産売却が押し上げた面が大きい。ここは読み分けておきたいところだ。
前期に計上した亜鉛製錬事業の撤退に伴う特別損失78億円が当期にはなくなったことも、最終損益の反転に効いている。
営業利益率は5%台にとどまり、非鉄金属の業種中央値6.5%をやや下回る。相場に恵まれた期でこの水準ということは、平時の収益力がまだ厚いとは言いにくい。
3. ROE40%の中身。稼ぐ力なのか、自己資本の薄さなのか
2026年3月期のROE(自己資本利益率)は40.4%である。非鉄金属の業種中央値が9.0%だから、4倍を超える。数字だけを見れば、極めて資本効率の高い会社に映る。
だが同じ期の自己資本比率は13.8%だ。業種中央値の53.3%と並べると、4分の1程度でしかない。
ROEは利益を自己資本で割った指標である。分母が薄ければ、同じ利益でも数値は跳ね上がる。この40.4%は、稼ぐ力の強さというより、自己資本が小さいことの裏返しという側面が大きいだろう。
高ROE銘柄というラベルは独り歩きしやすい。分母の中身を見ないまま資本効率の評価に直結させないよう気をつけたい。
もっとも、自己資本比率は前期末から3.5ポイント上昇している。方向としては、薄い資本を積み直す途中にある。1カ月で4割超という株価の上げも、この途中経過を市場が拾いにいった動きとして読める。
4. 筆者コメント
この会社の姿が変わろうとしている最中だというのが、直近の数字を眺めた実感だ。
2026年3月期は、撤退の痛みが損益から抜けた最初の期にあたる。前期まで最終赤字を重ねていた会社が黒字に戻り、自己資本比率も薄いなりに上向いた。反転点として位置づけられる局面だろう。
ただ、反転したのは損益であって、財務構造そのものではない。自己資本比率は業種の中央値に対してまだ4分の1程度の水準にあり、ROEの高さもその薄さが押し上げている部分が大きい。
株価が短期間で大きく上げたのは、この反転を市場が織り込みにいった動きと読むこともできる。だとすれば、次に問われるのは反転が続くかどうかだ。
相場に恵まれた期の営業利益率が業種中央値を下回っている点は、私には引っかかる。金属相場という追い風がやんだとき、この会社の利益がどこまで残るのか。決算をそういう視点で見る癖をつけておきたい。