このように、火災件数は減少傾向にあるものの、少し大げさに言えば、放火による火災はいつ起きても不思議ではないのです。

では、放火を防ぐにはどうしたらいいでしょうか?

これは、防犯パトロールを強化したり、防火装置(監視カメラ含む)を増強させたりするしかありません。しかし、こうした対策には人員面やコスト面で限界があることも事実です。特に、放火が多発する時間帯である深夜にパトロールの人員を増やすことは難しく、そもそも、そのパトロールを(警察以外の)誰がやるのか?という問題があります。

火災保険の多くの場合は放火による火災にも適用される

やはり、放火も含めて、実際に火災が起きた時のこと、具体的には火災保険への加入を考える必要がありそうです。火災保険は損害保険の一種で、火災、落雷や風水害などの事故によって生じた建物や家財の損害を補償する保険です。

ここで補償対象となる「建物」は建屋本体、車庫、物置、塀などを指し、「家財」とは家具、家電製品、衣料などを指します。その火災保険の種類によって、「建物」のみの補償、「家財」のみの補償、両方の補償に分かれますが、当然、保険料が異なってきます。また、「家財」の補償対象には例外対象が多くあるので注意が必要です(例:宝石、貴金属、高価な絵画等)。

そして、ほとんどの火災保険では、重大な過失がない限り、今回のような放火による火災も補償対象になります。なお、ここでいう“重大な過失”とは、長期間にわたって建物を無施錠で空き家として放置していた等が該当しますが(注:過去の判例)、多くの場合はこうした重大過失となることはありません。

仮に、放火犯に損害賠償請求しても、補償能力がなければどうにもならないのが実情です。その時に効果があるのが火災保険ということでしょう。

また、火災保険はその補償範囲が広い事でも有用です。多くの火災保険では、火災以外にも落雷や風水災などの自然災害、あるいは盗難・破損・爆発などによる被害も補償範囲に含まれています。こうした保険の性格により、現在は持ち家の場合、火災保険の加入率は概ね85%程度に達しているようです。

なお、賃貸住宅の場合は、所有者(大家さん)が「建物」補償の火災保険に加入しているケースがほとんどであり、賃借者は「家財」補償の火災保険に加入するかどうか選択することになります。

“もらい火災”の場合、相手に損害賠償請求できないという理不尽さ

火災保険が効果を発揮するケースで代表的なのは、周りの火災に巻き込まれるケース、いわゆる“もらい火災”です。実は、“もらい火災”の場合、出火先(火災を起こした相手)に“重大な過失”がない場合、相手側に損害補償を請求できません。

“まさか、そんな理不尽な!”と思う人が多いかもしれませんが、これは「失火責任法」という法律に基づいています。現実的に、出火相手の“重大な過失”を100%認定するのは困難と言われています。こうした納得し切れない場合でも、自らが火災保険に加入していれば安心です。

一方、心配な点があるとすれば、火災保険では「地震」による損害(地震によって発生した津波・噴火で受けた霜害)は補償の対象外になっていることです。この地震のリスクに備えるための保険としては「地震保険」があります。地震保険は、火災保険とセットでしか加入できないので、火災保険を検討するときに一緒に考えてみるとよいでしょう。

なお、東日本大震災以降、この地震保険への加入が大幅に増加しています。

火災保険への加入は一考の価値あり

いかがでしょうか。筆者は決して火災保険をゴリ押しするつもりはありません。しかし、クルマを運転するほぼ全ての人が自動車保険(注:自賠責保険以外の任意保険)に加入するのと同様に、持ち家・借家を問わず、火災保険への加入を検討することを考えてみてもいいのではないでしょうか。

最後にもう一度、今回のような放火火災は決して他人事ではないのです。

葛西 裕一