ドイツの半導体大手、インフィニオンテクノロジーズは、マイコンやNORフラッシュなどを手がける米サイプレス・セミコンダクターを総額90億ユーロで買収すると6月3日に発表した。買収完了は2019年後半から20年初頭を予定する。
両社合算売上高は100億ユーロ超
インフィニオンは1株あたり23.85ドルでサイプレスの発行済株式を取得。買収を通じ、コスト削減効果として22年までに1.8億ユーロ、重複が少なく補完性の高い製品ポートフォリオによって、15億ユーロ以上の新たな事業機会創出が見込めるとしている。両社合算の売上高は100億ユーロ(18年度ベース)を超え、半導体業界で世界第8位、車載用半導体、パワーディスクリート、セキュリティーIC分野でともに世界トップになるとしている。
買収するサイプレスは、もともと高速SRAMを主力に事業を展開。その後、13年に富士通からアナログ・マイコン事業、15年にはスパンションとの経営統合を果たし、マイコンやNORフラッシュなどが現在の主力事業。NORフラッシュでは23%、SRAMでは31%の市場シェアを有している(いずれも18年実績)。マイコンに関しては、32ビット市場において両社合算で15%のシェアを保有することになり、米テキサス・インスツルメンツを抜き、世界第4位に浮上する見通し。
買収後の新たな財務モデルとして、売上高成長率で年率9%以上、セグメント利益率で19%、売上高に占める設備投資割合(Capital Intensity)は13%と、従来インフィニオンが公表していたものに比べて、すべての項目が上方修正されており、買収による相乗効果は高いとしている。設備投資割合については、サイプレスはファブライト化を推進している関係上、従来目標の15%から13%に低下する見通し。
車載マイコンを強化
インフィニオンはもともと、パワー半導体に強みを持ち、パワーディスクリート分野では業界ナンバー1のシェアを有している。今後はこれに加えて、マイコン事業の拡大を図り、車載用半導体市場での地位を確固たるものにしていきたい考えだ。サイプレスの買収も製品レベルではマイコン事業強化の一環と見て取れる。
特に日本国内での車載マイコン事業を強化していく方針だ。従来、同社の国内向け車載用半導体事業はパワーデバイスやセンサーが主体であったが、今後はマイコンでのシェア拡大を図っていき、5年後の24年度(24年9月期)には車載マイコン売り上げ比率を従来の5%から15%まで引き上げる考え。
同社の国内向け車載事業は年々拡大を遂げており、00年以降はCAGR(年平均成長率)18%を達成している。これまで、国内顧客からの信頼を獲得するため、車載ビジネスをサポートする基礎づくりに重点を置いてきた。
日本国内での評価・解析体制を拡充
特に不良解析をはじめとする品質保証体制の整備に力を入れており、06年に東京本社に解析ラボを設置。15年にはこれを移転拡張し、体制を強化した。18年にはドイツ本社並みの技術サポートを完備した東京テクノロジーセンターを新設し、解析技術センターも従来設置している不良再現環境、物理故障解析設備に加え、エミッション顕微鏡や量産拠点と同仕様のICテスターの設置など解析能力の向上に努めてきた。
日本法人でオートモーティブ車載事業本部長を務める神戸肇氏は、19年1月に行われた報道機関向け事業説明会で、「すでに車載製品のうち、約7割を国内拠点で検査・解析できる」としており、今後はこれを8割に引き上げる目標を持っている。注力する車載マイコンは5年前から顧客への提案を本格的に開始。国内顧客の海外展開に対しても、代理店と連携して支援する体制を整えている。
車載マイコンは世界市場で8.5%のシェア(Strategy Analytics調べ)を獲得しており、世界第4位に位置している。パワートレイン系に強みを持っており、19年1~3月末までに主力製品の「Tricore」シリーズは累計5億個の出荷を予定している。
14年からは、このTricore(独自コア)を搭載した「AURIX」シリーズを新たに展開。18年末から40nmプロセスを採用した第2世代品の生産も開始しているほか、「28nmを採用した第3世代品の開発も進めている」(オートモーティブ事業本部マイクロコントローラー バイスプレジデント&ゼネラルマネージャーを務めるピーター・シェーファー氏)という。
AURIXはパワートレイン系が採用の中心であるが、自動運転などのセンサーフュージョン分野での実績も積み重ねており、ADAS(先進運転支援)分野での伸びが今後の牽引材料になると期待している。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳