この記事の読みどころ

トヨタ自動車が、既に子会社であるダイハツ工業を完全子会社にすることを発表しました。グループ力の強化が目的とされています。

完全子会社には少数株主の影響を排除できるという利点があります。少数株主は様々な権利が保証されているのです。

2~3年後には、トヨタによる完全子会社化の意図がハッキリと見えてくるのではないでしょうか。

トヨタ自動車がダイハツ工業を完全子会社化

2016年1月29日、トヨタ自動車(7203)がダイハツ工業(7262)を完全子会社化することを正式に発表しました。既にトヨタはダイハツの発行済株式の51%を所有する親会社です(つまり、ダイハツはトヨタの子会社です)。その所有比率を、株式交換を用いて100%にするのです。

株式交換の詳しい説明は省略しますが、ダイハツの既存株主に対しては、株式交換比率に基づき、その保有株数に応じたトヨタ株が割り当てられます。簡単に言うと、投資家が保有しているダイハツ株がトヨタ株に変わるということです。

同日夕刻に開催された記者会見では、両社の技術・ノウハウや事業基盤を融合し、新興国を中心に成長が見込まれる小型車分野を軸に一体的なクルマづくりを進めることを掲げ、グループ力の強化を目的とした再編であることを強調しています。両社の社長が笑顔で堅い握手をしていたのが印象的でした。

なぜ、子会社をわざわざ完全子会社化するのか?

美しい提携強化に見えますが、“なぜ完全子会社化する必要があるのか?”と不思議に感じた人も少なくないと思います。

確かに、既にトヨタの連結子会社なのですから、提携を強化するとしても、現状のままでいいような気がします。議決権の過半数を有しているのに、なぜ4,000億円超ものお金を使ってまで、完全子会社にする必要があるのでしょうか(注)

注:トヨタは金庫株を用いた株式交換を適用するため、実際にキャッシュを支払うわけではない。

子会社と完全子会社の違いは?

ここで、子会社と完全子会社の違いを考えてみましょう。本質的に同じような印象がありますが、完全子会社は、少数株主の影響を排除できるという大きな利点があります。少数株主とは、親会社以外の株主を指します。ここでは、トヨタ所有分(51%)以外の49%を持つ数多くの株主のことです。

それでも、多くの方は、“過半数の議決権があるのだから、少数株主なんて関係ないじゃないか”と思うかもしれません。確かに、株主総会での議事議決においてはそうなります。

無視できない少数株主という存在

しかし一方で、現在の会社法では、少数株主には様々な権利(「少数株主権」といいます)が保証されています。主なものだけでも、業務執行の検査役の選任請求権、会計帳簿閲覧請求権、臨時株主総会招集請求権、役員解任の訴え提起権、会社解散の訴え提起権、等々があります。

これらの重要権利を行使するには、一定比率(1~3%、権利内容による)を有したり、一定期間(半年以上、同)有したりしている等の条件がありますが、行使可能な少数株主数は決して少なくありません。

こうした少数株主権が行使されると、その後の手続きや決定に際して、兎にも角にも時間を要します。もし、それがこじれて訴訟等に発展すると、大変な時間と労力が必要になるのです。少数株主がいる、とりわけ、恣意的な少数株主がいる場合、親会社の進めようとする経営戦略がスムーズに進まないことは、決してめずらしくないのです。

ましてや、その子会社が上場企業の場合(今回のダイハツも該当)、親会社の持つ議決権行使には、事実上、様々な障害が待ち構えているのです。親会社によって進められる事案が、既存株主に多大な不利益をもたらすことは認められないのです。

したがって、これを解消するのは、少数株主の影響を排除する完全子会社化(これは上場廃止を意味します)が一番の近道と言えましょう。

参考:ダイハツ工業の過去1年間の株価推移

2~3年後に今回の子会社化の背景が明らかになる

今回、トヨタがダイハツを完全子会社化したのは、抜本的な構造改革、及び、新たなグローバル戦略をスピーディーに行う必要があったと推測されます。それは、ダイハツにとっては、かなりドラスティックな内容になるかもしれません。

恐らく、2~3年後には、“あー、トヨタはこういうことをしたかったのか” “トヨタはここまで思い切ったことをするのか”と驚くような結果が出てくるのではないかと予想しています。

LIMO編集部