この記事の読みどころ
正月早々の経済紙、一般紙の一面トップを飾るなど、再生医療関連製品への注目度が高まっています。実際、2016年中にiPS細胞由来の心筋細胞を使った臨床試験の申請が行われ、2017年にも臨床が始まる可能性があります。
テルモ(4543)が大阪大学の澤芳樹教授と共同開発し、2015年9月に製造販売の認可を得た「ハートシート」は、2014年11月の医薬品医療機器法施行後初めての再生医療製品となります。
澤教授は重症の心臓病患者にiPS由来のシートを使うことで心筋梗塞、狭心症の治療に意欲を燃やしており、2020年頃の販売を目標としています。
再生医療による心筋シートは第3の方法に
わが国の死因で癌に次いで第2位の心疾患の治療は、これまで心臓移植、補助人工心臓などによる治療が中心でした。
2015年9月にテルモが製造販売許可を取得した心筋シート「ハートシート」は、重症の心臓病患者の脚の筋肉細胞をシート状に加工、これを心臓に張り付けることで、ある程度の再生治療が可能となりました。まさに心臓病の第3の治療方法と言え、既に40人の治療実績があります。
これをさらに一歩進めようとしているのが大阪大学心臓血管外科の澤芳樹教授で、患者自身の筋肉細胞ではなく、他人のiPS細胞(万能細胞)を心筋細胞に変化させ、これをシートに加工して心臓に張り付けるというものです。
iPS細胞から心筋シートを作成することは既に成功しており、2016年度に治験(臨床)の申請を行い、2017年度に臨床に着手したいとしています。順調にいけば2020年頃にも心筋シートによる本格的な再生治療が始まるかもしれません。
iPS細胞を使った世界初の製品化を目指すが、リスクも当然ある
これが計画通りに進行すると、iPS細胞を使った製品としては世界初の再生医療製品となる可能性があります。
問題はコストです。患者自身の細胞を使うiPS細胞のケースでは、培養期間を考慮するとコスト高になります。このため他人の細胞由来のシートを予め大量に培養し、凍結保存によるバンク化でコストを節約する方法が有効とみられます。
この場合、免疫拒絶反応や癌化などのリスクが付きまといます。これをクリアして医薬品医療機器法(旧薬事法)による早期承認のメリットを生かせるかが鍵を握っています。
心筋シートの成功が他の治療の広がりに好影響を及ぼす
今、既存の医薬メーカー、バイオベンチャーが再生医療分野に積極的にアプローチをかけています。
しかし、旧薬事法下で唯一製造販売の承認を得ているのは、富士フィルムホールディングス(4901)の子会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(7774)が製品化している火傷などの治療用培養表皮、培養軟骨に過ぎません。
その意味で、今回のテルモと大阪大学の共同開発による心臓シートは、新しい法律の下での画期的な技術開発となるでしょう。
このプロジェクトが成功すると、理化学研究所で行われているiPS細胞を使った加齢黄斑変性の治療、脊髄損傷やパーキンソン病などへの面の広がりが一気に進む可能性があります。既に京都大学iPS細胞研究所では脊椎損傷を治療するiPS細胞の培養に着手しているようです。
いずれにしても、2016年は再生医療関連の情報、関連企業から目を離すことができない年になるかもしれません。
石原 耕一