スマートフォンひとつで国や地域を越えて人がつながることのできる時代。人気のサービスには人が集まり、コミュニティが形成されます。そこではリアルとはまた違ったコミュニケーションを楽しめるのも、ネットの醍醐味でしょう。
しかし、垣根がない分、たとえばマナー意識の低い人たちも集まってきて、トラブルの温床となったりすることもしばしばあります。たとえば皆さんは「デジタルスラム」という言葉をご存じですか?
「モラルが低い」といわれるネットサービスの特徴
デジタルスラムとは、ネット発祥の言葉で、「ネット上のスラム街」といった意味で使われています。明確な定義付けはありませんが、ひとまずこの記事では「モラルやマナーに対する意識が低いユーザーが多く集まるインターネットコミュニティ」とします。
ネット上の無料のサービス、特に「メルカリ」など取引やユーザー同士のやりとりが発生するサービスの「民度の低さ」の議論の中でこの単語は生まれ、しばらく前に、その点に触れた次のようなツイートが大きな話題となりました。
「例えば、『メルカリが年会費1000円』取るようになれば劇的にメルカリ内の民度が上がると思う。
1円でも金が取られるのを嫌うやべえ人を弾くいわゆる『金の壁』
>とにかくケチな人達が集まる“デジタルスラム”という新単語」
50円値切るために何時間も粘る
こうしたツイートがされた背景として、メルカリでは以前から「50円単位での値下げ交渉」「雑な梱包」「送られてきた商品が写真と違う」「見当違いなクレーム」などのトラブルを訴えるユーザーも多く、利用者のモラルや意識の低さが話題となっていました。上記のツイートに関連して、ネット上では、
「メルカリはターゲットがスラムの住民」
「メルカリもzozoも言葉を選ばなければいわゆる貧困ビジネスだよね」
「たかが50円100円値切るのに何時間も粘るとか理解できん」
「金のないヒマ人か時給の計算できないレベルの奴しかいないからスラム化するのは当然」
といった投稿が相次ぎました。こうした文脈もあって、「デジタルスラム」というワードに注目が集まったようです。
広く使われているサービスであればあるほど、いろんな人が集まってくるのはある程度は仕方ない部分もあります。ただ、広く使われているだけに、問題だと感じている人も多いのは実際のところです。
ほかにもまだある!? 荒れたコミュニティ
インターネット上のサービスの多くが「無料」で「誰でも」利用できる分、モラルやマナーを知らない若いユーザー、生活に余裕がないため他人への気遣いにゆとりがない層や、一般常識の欠けた人でも参加できます。それらのユーザーが「デジタルスラム」を形づくっているともいえます。
メルカリ以外でも、一部の人が「デジタルスラム」的だと考えているサービスはあります。たとえば、アルバイト中の不適切な様子を記録した通称「バイトテロ」と呼ばれる動画は、主に「Instagram」のストーリー機能や動画投稿アプリ「TikTok」での投稿が元となっていることが多くありました。
これらの主なユーザー層は中高生を中心とした「若い層」であり、まだ社会的常識をよく知らず、そういった動画を投稿してしまうという点もあるでしょう。
一方、利用者の年齢層がこれらと比べて高いといわれる「発言小町」や「Yahoo!知恵袋」においても、多くの人は普通に受け答えをしているものの、ときに質問に対して真摯に適切な回答がなされなかったり、そもそもわからないから質問しているのに「お前はその程度のことも知らないのか?」とばかりにマウント発言をしたり質問者をバカにする回答があったりして、コミュニティが荒れてしまうことも少なくありません。
徹底無課金だがクレームはつけまくる
また、こういった現象は、ゲームでも見られます。「基本無料」とうたっているゲームでは、一切サービスにお金を払わない「無課金ユーザー」がいます。そうしたユーザー自体は特に問題ではありませんが、中には、ゲームを進めるにあたって有力な課金アイテムが出たりすると、運営のSNSなどに「こいつら金の亡者」「結局カネ取りたいんなら『無料』とか嘘っぱち言って人集めてんじゃねーよ」などとクレームをつけたり、ひどいレビューをつけたりするユーザーも現れます。
音楽についても同様に、「金とるような人間の曲は聴かない」「ラジオとかテレビとか無料でやってんじゃん」「○○さんの曲、前までタダだったのになんでいま公開してないんですか?」「無料で提供するためのアーティストやレコード会社の努力が足りない」といっためちゃくちゃな論理でクレームをつけて「お金を取るのは悪」といわんばかりの主張をする人は一定数います。
このような状況に対して、ウェブサービスの運営者やコンテンツ制作者で、「最初から有料化すれば、くだらないクレーマーは一気に減る」という主旨の発言をしている人も数多くいます。
そのサービスを続けるお金はどこから出ている?
こうした「デジタルスラム」と呼ばれる状況に関しては、「民度」やコミュニティ内でのモラル意識として、以前からずっと語られてきました。たとえば、
「民度低いと課金勢がどんどんやめてって衰退してサービス終了しちゃうでほんま」
「前まで有料会員だったけど無料で大量の馬鹿が入ってきて急速につまらなくなったから有料やめた」
「メルカリが民度低いって話、思うに安く買いたたく人が集まるからよねぇ」
「運営の責任じゃないって意見もあるけど、質の悪いユーザーをどう排除するかを考えるのも運営の重要な仕事」
といった意見も多く、コミュニティの質が下がることで一番お金を落としてくれる顧客を失う結果となったり、そもそもシステム的にそういった人たちが集まりやすくなったりするということが観測できるようです。
そもそも、何かコンテンツやサービスをつくるには、当たり前ですがお金がかかります。人が関われば人件費も発生します。地上波のテレビなどでは、スポンサーから広告料をもらうことで番組制作などのお金が出るから無料で放送できるわけですし、製作者がコンテンツの一部を無料で公開するのは、そうすることで有料コンテンツのプロモーションにつなげたりして関わる人たちの労力分をほかの部分で回収できるからこそです。一般人同士の取引でも、相手は生身の人間ですし、時間的な制約もあれば、労力や手間もかかっているはずです。
「デジタルスラム」の住人たちには、そうした「当たり前のこと」への想像力に欠けている部分があるのではないでしょうか。
「金の壁」は効果的なのか
記事冒頭で紹介したツイートにもあった対抗策である「金の壁」に対しては、
「有料なのであれば『それでも使いたい』っていう確固たる意思のもと使ってる人しかいないから民度は良くなる」ってことでは?」
「少なくともコンテンツに金を払う時点で大半の有象無象はふるい落とされる」
といった肯定的な意見も見られますが、一方で、
「(金の壁を)いくらに設定しても、湧いてくる人は一定数いますけど」
「ワイワイと意見交換する。それこそネットの醍醐味さ」
「無料とかで認知度上げないとそもそもカネ払う人間が集まらないだろ」
「有料ユーザーだけじゃコミュニティがコアな年寄りだけになって衰退する」
といったことを指摘する人たちもいます。
無料だから何でもあり、ではない
このように、「金の壁」があるからといってユーザー層が安定したり、情報の質が上がったりするのかといわれれば、そう単純なわけでもないようです。また、無料だから質の悪い情報しかないというわけでもなく、実際は玉石混合でしょう。
使う側のわれわれからしても、インターネット上のこととはいえ、画面の向こうには生身の人間がいて、また自分の振る舞いも多くの人から見られているわけです。当たり前ですが、たとえ無料のサービスでも、モラルやマナーをもって利用したいですね。
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