情報開示の強化を表明

東芝(6502)は、11月27日に報道各社および投資家・アナリスト向け説明会を開催しました。

案内状では、「ウエスチングハウス社(以下、WEC)等に関する説明会」とされていましたが、当日のプレゼンテーションのタイトルは「電力・社会インフラ事業グループ主要案件に関する説明」に変更されていました。

説明会の内容もWECだけではなく、スイスのランディスギア社や英NuGen社関連の事業、そして米フリーポート社との天然ガス液化サービス契約に関しても詳細な説明が行われました。

このタイトルの微修正の背景は、これまでの原子力事業に関する情報開示が不十分であったことへの陳謝や、WECに関する「のれん」が適正であることを訴えることに加え、今後の情報開示を強化していく姿勢を強くアピールすることが目的であったと推察されます。

なぜ、情報開示姿勢の強化をアピールしたのか

東芝は、11月17日に東証からの要請を受け、2013年3月期と2014年3月期の2年間にWEC単体で1,156億円の減損があったことを適時開示しています。

この10日前の11月7日に“異例の土曜日の発表”として話題になった2016年3月期上期決算説明会を発表しており、そこで、この2年間に減損があったことは開示されましたが、金額は開示されていませんでした。

ところが、日経ビジネスが11月16日号でスクープとして金額を発表し、これを追認するかたちで他のメディアも同様な報道を行っています。本来は東証への適時開示によって公平に伝達されるべき重要情報の伝達が、メディアを通して行われてしまったのです。

現在、東芝は東京証券取引所から「特設注意市場銘柄」に指定されており、ガバナンス体制の強化を求められています。具体的には、2016年9月15日以降に「内部管理体制確認書」を東証に提出し、3回までの審査を経てこれが認められなければ上場廃止となる立場にあります。

このため、東証の心象を良くするためにも、情報開示に不備があったことを真摯に反省している姿勢を、27日の説明会で強く示す必要があったのだと考えられます。

説明は十分に尽くされたのか

今回の説明会では、東芝の連結バランスシートに計上されている約3,400億円(2015年9月末時点)のWECに関する「のれん」が適正であることを示すために、過去の減損テスト(2013年3月期及び2014年3月期)と最新の減損テスト(2015年3月期時点)の内容が開示されました。

開示姿勢が大きく改善したことは率直に評価したいと思いますが、2点、気になる点がありました。

第1は、説明会資料7ページ、8ページに示された「WEC全体」の時価と簿価の差が大きく変化していることです。

2013年3月期には572億円あったものが、2014年3月期には39億円に大きく縮小しています。なぜ、このような変化が起こったのか、もう少し丁寧な説明が欲しいところです。

第2は、最新の減損テストの前提となる原子力事業部による事業計画が、9月に新経営体制が発足する以前に作成されたものであることです。

この事業計画や減損テストの結果を、社外取締役を含む新経営陣がどのように議論し評価したかについては、会見では十分には明らかにされませんでした。

ちなみに、この事業計画は東芝本体の原子力事業部とWEC事業部が一体となった前提で作成されていますが、営業利益は、2015年3月期実績の▲29億円の赤字から、2016年3月期は300億円、2017年3月期は400億円、2018年3月期は500億円、2019年3月期~2030年3月は年平均で1,500億円へ急拡大が見込まれています。

また、減損テストは、今後15年間の受注基数前提を64基から46基へ、永久成長率を2.5%から0%へ保守的に見積もって計算されたという説明がありました。

悪材料は出尽くしたのか

ただし、会見において、会社側は、2016年3月期の減損テストは来年1-2月に行うことを表明しています。このため、それまでの間に、のれん評価の前提となる事業計画に対しての議論が新経営陣の間で深まる可能性があると考えられます。

果たして、次の減損テストでもこれまでの計画が踏襲されるのか、あるいは、事業計画が一段と先憂行楽、つまり、より保守的に見積もられたものとなるのか? 

室町社長は、半導体事業のIPOなど増資以外の様々な資本増強策を検討していると会見でコメントしていたため、減損の可能性も完全には否定できないでしょう。

また、こうした点を見極める必要があるため、悪材料が出尽くしたと見るのは、まだ早すぎるのではないかと筆者は考えます。

LIMO編集部