暦の上では春を迎える2月となりましたが、まだ寒さが続く日も多いですね。この時期、将来の生活設計についてじっくり考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に70歳代を迎え、セカンドライフを過ごしている方々にとって、老後資金の柱となる「貯蓄」と「公的年金」は重要なテーマです。
「他の同世代はどれくらい貯蓄があるのだろう」「自分たちの年金だけで生活は成り立つのか」といった疑問や不安を感じることもあるでしょう。この記事では、70歳代二人以上世帯の平均的な貯蓄額や、厚生年金・国民年金の受給実態、そして高齢者世帯の家計収支について、最新の公的データを基に詳しく解説します。
さらに、働き方にも影響する年金制度改正のポイントもご紹介しますので、ご自身の状況と照らし合わせながら、今後のライフプランを考える参考にしてください。
1. 70歳代二人世帯の貯蓄事情:平均値と中央値から見る老後の備え
J-FLEC(金融経済教育推進機構)が公表している「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」を基に、70歳代で二人以上世帯の金融資産保有額についてグラフを交えながら見ていきましょう。
※ここでいう金融資産保有額とは、預貯金だけでなく株式、投資信託、生命保険なども含んだ金額です。ただし、日常的に使う普通預金の残高は含まれていません。
70歳代・二人以上世帯の平均貯蓄額は2416万円です。しかし、この平均値は一部の富裕層が金額を大きく引き上げているため、一般的な家庭の実感とは異なる可能性があります。
より実態に近いとされる中央値は1178万円で、多くの世帯の貯蓄額はこの金額の周辺に集まっていると考えられます。
世帯ごとの詳しい貯蓄額の分布は以下の通りです。
- 金融資産非保有:10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100~200万円未満:5.1%
- 200~300万円未満:3.7%
- 300~400万円未満:3.9%
- 400~500万円未満:2.9%
- 500~700万円未満:6.4%
- 700~1000万円未満:6.7%
- 1000~1500万円未満:11.1%
- 1500~2000万円未満:6.7%
- 2000~3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
- 無回答:0.6%
70歳代の二人以上世帯のうち、金融資産を全く保有していない、いわゆる「貯蓄0円」の世帯が10.9%を占めています。その一方で、3000万円以上の資産を持つ世帯が25.2%も存在しており、資産状況の二極化が進んでいることがわかります。
他の分布に目を向けると、貯蓄額が300万円未満の世帯が合計で13.3%いるなど、資産が少ない世帯も少なくありません。対照的に、1000万円以上のまとまった資産を持つ世帯も多く見受けられます。
このように、貯蓄額は退職金の有無、現役時代の収入、相続、健康状態といった様々な要因で大きく変わります。公的年金の受給額も加入状況によって個人差が大きいため、貯蓄が少ない世帯では年金収入だけで生活を維持するのが困難な場合も考えられます。
安定した老後を送るためには、各世帯の状況に合わせた生活設計が不可欠です。例えば、健康なうちはパートタイムで働いて収入を補ったり、不動産や投資から副収入を得る道を模索したりと、早めに準備を始めることが将来の安心につながるでしょう。
2. 厚生年金の受給額はいくら?平均月額と分布を解説
厚生労働省が発表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金と国民年金の平均的な受給月額を確認してみましょう。
厚生年金の被保険者はいくつかの種類に分かれていますが、ここでは民間企業などに勤務していた方が受け取る「厚生年金保険(第1号)」の年金月額についてご紹介します。
※この記事で紹介する厚生年金保険(第1号)の月額には、基礎年金である国民年金部分も含まれています。
2.1 厚生年金の平均受給月額
- 〈全体〉平均:15万289円
- 〈男性〉平均:16万9967円
- 〈女性〉平均:11万1413円
2.2 厚生年金の月額階級別受給権者数
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
3. 国民年金(老齢基礎年金)の平均受給月額と実態
次に、自営業者や専業主婦(主夫)など、厚生年金の加入期間がなかった方が受け取る国民年金(老齢基礎年金)の月額について見ていきましょう。
3.1 国民年金の平均受給月額
- 〈全体〉平均:5万9310円
- 〈男性〉平均:6万1595円
- 〈女性〉平均:5万7582円
3.2 国民年金の月額階級別受給権者数
- 1万円未満:5万1828人
- 1万円以上~2万円未満:21万3583人
- 2万円以上~3万円未満:68万4559人
- 3万円以上~4万円未満:206万1539人
- 4万円以上~5万円未満:388万83人
- 5万円以上~6万円未満:641万228人
- 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
- 7万円以上~:299万7738人
仮に、夫が厚生年金の男性平均月額、妻が国民年金の女性平均月額を受け取る夫婦世帯を想定すると、二人分の年金受給額は合計で月額22万7549円となります。
この月額約22万円という年金収入で、シニア夫婦の生活費を十分にまかなえるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。
4. 65歳以上・夫婦のみ無職世帯のリアルな家計収支
総務省統計局の「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」から、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」における標準的な家計の収支状況を見ていきましょう。
4.1 収入:25万2818円
■うち社会保障給付(主に年金):22万5182円
4.2 支出:28万6877円
■うち消費支出:25万6521円
- 食料:7万6352円
- 住居:1万6432円
- 光熱・水道:2万1919円
- 家具・家事用品:1万2265円
- 被服及び履物:5590円
- 保健医療:1万8383円
- 交通・通信:2万7768円
- 教育:0円
- 教養娯楽:2万5377円
- その他の消費支出:5万2433円
- うち諸雑費:2万2125円
- うち交際費:2万3888円
- うち仕送り金:1040円
■うち非消費支出:3万356円
- 直接税:1万1162円
- 社会保険料:1万9171円
4.3 家計収支の結果
- ひと月の不足額:3万4058円
- エンゲル係数(※消費支出に占める食料費の割合):29.8%
- 平均消費性向(※可処分所得に対する消費支出の割合):115.3%
このモデル世帯の月間収入は25万2818円で、その大半を公的年金などの社会保障給付が占めています。
一方で、月間支出は28万6877円です。その内訳は、食費や光熱費といった生活に直接かかる消費支出が25万6521円、税金や社会保険料などの非消費支出が3万356円となっています。
結果として、毎月の家計は3万4058円の赤字となり、この不足分を貯蓄から取り崩して補填する必要があります。年間に換算すると、約40万円を取り崩している計算になります。
シニア世代は現役時代と比べて安定した収入を得る機会が限られるため、このような慢性的な赤字は、長期的に見て貯蓄を大きく減らしてしまう要因になりかねません。
現在の貯蓄額を把握した上で家計を見直したり、健康状態に応じて短時間でも働いたりするなど、できる範囲で対策を講じることが、老後の暮らしを安定させる鍵となるでしょう。
5. 2025年金制度改正のポイント:「106万円の壁」と社会保険の適用拡大
2025年6月13日に成立した「年金制度改正法」には、パートやアルバイトとして働く人々の働き方に大きく関わる、いわゆる「年収106万円の壁」の撤廃に向けた改正が含まれています。
5.1 「年収106万円の壁」の概要
「106万円の壁」とは、パートタイマーなどの短時間労働者の年収が106万円以上になると、配偶者の社会保険(健康保険・厚生年金)の扶養から外れ、自身で保険料を支払う必要が生じる目安のことです。
保険料の負担によって手取り収入が減少するため、収入が基準額を超えないように労働時間を調整する「働き控え」の一因と指摘されてきました。
また、社会保険の適用対象となる企業の規模はこれまで段階的に広げられており、2024年10月からは従業員数「51人以上」の事業所が対象となっています。
今回の改正では、「3年以内に賃金要件を撤廃」し、「10年かけて企業規模要件を段階的に撤廃」することが決定しました。
5.2 社会保険の加入対象拡大と短時間労働者の要件見直し
2025年7月時点で、パートタイムなどで働く短時間労働者が社会保険に加入するためには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 2カ月を超える雇用の見込みがあること
- 学生ではないこと
- 所定内賃金が月額8万8000円以上であること(賃金要件)
- 従業員数51人以上の企業で働いていること(企業規模要件)
今回の改正によって、このうち4番目の「賃金要件」と5番目の「企業規模要件」が撤廃されることになります。
いわゆる「106万円の壁」は、全国の最低賃金の引き上げ状況を考慮しながら3年以内に廃止される方向です。また、社会保険の適用対象となる企業規模は、10年という期間をかけて段階的に拡大される予定です。
6. 老後資金の準備に向けて
今回は、70歳代の家計や資産状況について詳しく見てきました。
老後資金に関しては、かつて「老後2000万円問題」が注目された影響で、数千万円単位の貯蓄が必須というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
年金で生活する高齢者の中には、子どもの教育費や住宅ローンの返済で、ご自身の老後資金まで手が回らなかったという方や、退職金の運用に失敗して資産を減らしてしまったという方もいらっしゃいます。
現在現役世代の方や、これから老後を迎える方は、貯蓄ゼロという状況を避けるためにも、今のうちから計画的に老後のための資産形成を始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
- 厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」に関するQ&A(キャリアアップ助成金関係)
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
鶴田 綾