トルコリラは、昨年8月の下落以降、昨年末にかけて落ち着きを取り戻していましたが、ここへきて再び下落圧力に晒されています。

トルコリラが昨年来最大の下げを記録

リラは3月22日に対ドルで6.5%程度下落し、昨年の下落以降で最大の下げを記録しました。年初来では8%を超える下げです。背景には、政治的な米国との軋轢があります。

イスラエルによるゴラン高原併合を支持するトランプ米大統領の決定に対し、エルドアン・トルコ大統領が猛反発したことや、トルコによるソ連製ミサイル購入の決定により、米国とトルコの政治的な関係が悪化して、経済的な苦境に陥ることを市場が懸念したのです。

また、トルコは3月31日に地方選挙を控えていますが、エルドアン大統領率いるトルコ与党の苦戦が伝えられると、大統領の政権基盤が弱体化して政治が流動化することへの懸念も加わりました。

外貨準備高や外貨預金残高が急増したことも市場に不安を与えた原因でしょう。トルコ中央銀行の発表によれば、3月15日までの1週間で外貨準備高は約30億ドル減少して737億8000万ドルとなり、トルコ国内の個人投資家の外貨預金は、同週に16億4000万ドルも急増して、過去最高の1057億ドルに達しました。

トルコ政府はリラ売り抑制になりふり構わず

さらに、大手米銀が調査レポートで、対ドルでのリラ売りを推奨したことがきっかけになり、外国人からのトルコリラ売りが加わった模様です。

トルコの銀行規制当局である銀行調整監視機構(BDDK)は23日、当該リポートが市場を操作する意図で書かれており、投資家を誤った方向に導くものでリラの過度の変動を招いたと、この大手米銀を非難しました。

トルコの市場監督当局である資本市場評議会(CMB)も、同じ理由で調査を開始したとの声明を発表しました。これとは別に、BDDKは複数の銀行が不当な手法により顧客に為替取引を実行させていたとして、銀行の調査を始めたことを発表しました。エルドアン大統領も24日、投機に荷担した銀行は処罰する方針を発表しています。

しかし、これは「魔女狩り」のような行動です。こうした政治介入や警告は、かえってトルコへの不信感を増幅させることになるでしょう。

BDDKは、昨年夏のリラ急落後、外国勢によるリラの一斉売りを抑制するため、国内銀行が外銀に貸し付ける額を株主資本の25%までに制限しました。さらに、地方選挙を目前に控え、トルコの国内銀行は、トルコリラの流動性を提供しないようトルコ政府の圧力を受けているといわれます。

これにより、トルコリラの流動性は枯渇し、リラの売却・空売りは事実上不可能になっている状況です。トルコ政府は、こうした手段によりリラの下落に歯止めを掛ける腹積もりのようですが、市場での流動性不足は、かえってリラを保有することへの懸念を強めるばかりで、売り圧力は弱まらないでしょう。

信任が失墜したトルコ市場

トルコ政府の策は、リラが投資対象足りうる通貨という評価に疑問を生じさせるだけです。実際、3月27日の市場では、オフショアの為替スワップ市場でリラを借り入れるための翌日物レートは一時1000%を超えた模様です。

2年物トルコ国債の利回りも20%を上回り(価格は下落)、トルコ国債のCDSも5年ゾーンで450Bps(ベーシスポイント)と昨年8月以来の水準に急上昇しました。株式相場は昨年7月以来で最大の下落幅を記録しました。

新興国市場を見ると、昨年夏にはトルコやアルゼンチンの経済危機をきっかけに資金の流出にみまわれました。しかし、今年に入り米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策のスタンスを、引き締めから当面は状況を見極める姿勢に転換したことで、今年2月には投資家や金融機関が新興国市場への投資を増やして、資金の流入が見られました。

筆者は、昨年のような米ドル一強という状況とは異なるため、新興国通貨でも、成長率が高い国、経常収支の状況のよい国の通貨は、引き続き資金流入が続くと予想しています。ただ、トルコ経済は、短期的で整合的でない政策と政治的な不安定要因から、投資家の信認は失墜している状況です。

新興国の中でも、潜在力が高く評価され、独自の実用主義を掲げて発展し、経済の優等生と目されたトルコですが、当面、経済・金融面では受難が続き、トルコリラも不安定な動きになると予想しています。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一