ワーストからベストへ
米中貿易摩擦の影響もあり、昨年の中国株式市場は厳しい展開を強いられていましたが、今年に入り、主要株価指数である上海総合指数は20%以上上昇、3,000台に回復しました。また、2月の平均売買高は1日当たり5,930億元と、2016年以来の高水準となりました。
この背景として、米国との貿易交渉に対する懸念後退、中国国内の景気刺激策、そして、MSCI各指数に占める中国A株比率の引き上げ等が挙げられます。
MSCI指数 - 中国A株式の比率引き上げ
株価指数を開発・算出するMSCI社は、今年2月28日、同社各指数における中国A株(上海・深センの株式市場に上場している中国企業の人民元建て株式)の比率を5月、8月、11月の3段階に分けて引き上げていくことを発表しました。これにより、MSCI新興国株式指数の中国A株の比率は、4倍以上に拡大する見込みです。
MSCIの指数は多くの機関投資家からベンチマークとして採用されており、組み入れ比率の引き上げは、中国株への海外投資家からの資金流入を促すとみられています。
MSCI新興国株式指数を参照するファンド残高は世界で約1兆8,400億米ドル(約205兆円)、弊社グループの試算では、今回の比率引き上げにより、A株市場に約730億米ドル(約8兆1,300億円)の資金流入が見込まれます。2018年末時点で、海外投資家の中国A株保有は1.15兆人民元(約19兆円)以上と言われ、中国株式市場全体の2.6%に当たります。
2015年11月時点では0.9%であったことを考えると、この3年間で海外投資家の割合は大きく上昇しました。今後5~10年間で6,000億米ドル(約67兆円)を超える海外からの資金流入が予想されています。
全人代 – 減税、インフラ投資など様々な景気対策
第13期全国人民代表大会(全人代)第2回会議が3月5日から10日間にわたって開催され、2019年の成長率目標は前年比6.0%~6.5%と発表されました。2017年~2018年の成長目標率6.5%前後から引き下げにはなりますが、よりバランスの取れた安定成長を目指しています。
また、景気対策として、今年1月から施行された新個人所得税法に加え、増値税(付加価値税)の引き下げにより、製造業の税率は16%から13%にするなど、企業の税負担を軽減する方針を明らかにしました。その減税規模は過去最高の2兆元(約33兆円)近くとなる見込みです。そして、インフラ投資では、地方政府特別債の発行額を昨年より8,000億元増し、2.15兆元を目指します。
力強さを増す中国の消費
個人消費の代表的な指標である小売売上高を見ると、2018年は前年比9.0%増と、2017年を1.2ポイント下回りましたが、今後の個人消費動向を予測する上で重要な雇用関連指標は堅調で、都市部の求人倍率は1.3倍、登録失業率は3.8%、調査失業率は4.7%と、いずれも2017年より改善していました。
また、一人当たりの可処分所得の伸びが消費支出を下支えし、家計消費は2008年以来、175%も増大しました。
同時に、インターネット販売により新たな消費需要が喚起され、中国の「独身の日」(11月11日、ダブルイレブンとも呼ばれる中国最大のネットセールの日)には、アリババ社は昨年、310億米ドル(約3.5兆円)の売り上げを記録し、同年の米国の「ブラック・フライデー」と「サイバー・マンデー」を合わせた売上高を上回りました。
その一方、中国のインターネットの普及率は6割にも至らず、主要先進国の8~9割に比べ、相対的に低いことからも、インターネット普及率の高まりとともにさらなる消費の拡大も期待できます。
中国 - 世界の成長エンジン
米国のみならず先進国の経済成長が鈍化傾向にある一方で、新興国経済の重要性がますます高まっています。2018年の世界全体のGDP に占める中国の比率は約2割にも上り世界の成長エンジンとして存在感を増しています。
中国の景気減速が懸念されていますが、デレバレッジ(債務圧縮)を進めながら、「質の高い経済」に向けての移行期にあります。世界的な指数への中国株式組み入れ比率引き上げをきっかけに、中国株式市場へのアクセスのさらなる改善、海外投資家からの資金流入拡大へとつながり、中国株式市場への追い風となるでしょう。