「嫁はブス」ではもう笑えない〜夫婦関係の変化を映し出すサラリーマン川柳

毎年恒例の第一生命のサラリーマン川柳。8万4,801人による投票で、4万7,559句の中から今年(第31回)の1位となったのは、「スポーツジム 車で行って チャリをこぐ」でした。

日常生活のちょっとした矛盾を詠んだ、クスリと笑える名句ですが、もしかしたら「あれ?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。「サラリーマン川柳と言えば、夫婦関係の悲哀をうたったものが多かったのに……」と。

歴代のグランプリの中には、夫を尻に敷く妻の姿を、夫の目線から詠まれた句が多くありました。しかし、今年の1位~100位までの順位を見てみると、過去の傾向と比較して2つの変化がありました。

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妻の容姿に対するものはもう笑えない!?

ちなみに、過去のグランプリには以下のようなものがありました。

<うちの嫁 後ろ姿は フナッシー>(第27回 グランプリ)

<しゅうち心 なくした妻は ポーニョポニョ>(第22回 グランプリ)

いかがでしょうか? 女性である筆者の主観も入ってしまうかもしれませんが、今となっては笑うことができません。一方で、今年の川柳にはパートナーの容姿についてぼやくものが、1位~100位の中に1つも入っていなかったのです。

笑いのツボというのは、世相に突き動かされ、大きく変わっていくもの。海の外を見れば、アメリカの映画界におけるセクハラ問題に端を発した「#MeToo」運動が広がり、日本では、女性差別の要素を含む企業CMや有名人の発言があっという間にボーボーと炎上する傾向が顕著になっています。

たとえ腹の内で抱えていても、「それを口に出してはおしまいよ」というワードは相当な数となっています。

「笑いをとるためなら、身内を多少下げても大丈夫。“ヨメは、女じゃなくて家族”」というような男性の本心は、今や公にするべきものではなくなっているのかもしれません。

専業主婦の妻への恨み節の句が消えた?

もうひとつの変化が、家庭の中でパワーを持つ、専業主婦の妻に対する恨み節の句が消えたことです。

過去のグランプリには以下のような句がありました。

<昼食は 妻がセレブで 俺セルフ>(第19回 グランプリ)

<わが家では 子供ポケモン パパノケモン>(第11回 グランプリ)

<いい家内 10年経ったら おっ家内>(第6回 グランプリ)

<まだ寝てる 帰ってみれば もう寝てる>(第5回 グランプリ)

短い文字数から想像するに、会社で管理職に就き、朝早くから夜遅くまで働く夫が、家庭では専業主婦の妻に冷たくあしらわれる自虐的な気持ちを抱えている様子が伝わってきます。

とはいえ、こうした専業主婦の妻に関する句もまた、今年の100句からは消えています。共働き家庭の増加により、過去のような句が、普遍的な笑いの対象ではなくなったと推測できます。

また、主に母親が育児と家事を担う「ワンオペ育児」や孤独な「カプセル育児」が問題となる今、「家にいて、ラクでいいよな」という夫の思いが透けて見える句は、女性側から激しい抵抗が起こる可能性もあります。

今年の100句の中には、家事をやろうと試みて、ダメ出しをされながらも、だまって「妻ファースト」を貫く男性の声がチラホラと混じっています。

家庭を顧みずに働くことが夫の使命で、家庭を守ることが妻の使命という社会の共通認識が薄れ、様々な家族の形がある今、川柳を通じて「普遍的な笑いのツボ」を探し出し、「誰も傷つけない笑い」を実現するのが、今後のトレンドとなっていくのではないでしょうか。

【参考】第31回サラリーマン川柳(第一生命)

北川 和子

ニュースレター

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東京外国語大学卒。商社の営業職、専業主婦を経てライターに。男女の働き方、子育て世代の消費動向などに関心がある。