2. 不明点が生じやすい「年金の計算」でシミュレーション
年金は制度が何度も改定されているため、不明点が生じやすいもの。なかでも特にわかりにくくなっている「計算方法」を紐解いていきましょう。
ねんきん定期便に記載されている金額については、今までのデータを反映しています。
2.1 「老齢厚生年金」の計算方法とは
厚生年金は、以下の両方(A+B)を合計したものです。
- A:2003年3月以前の厚生年金の加入期間
平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 2003年3月までの加入期間の月数 - B:2003年4月以降の厚生年金の加入期間
平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 2003年4月以降の加入期間の月数
「平均標準報酬月額」とは、2003年3月以前の加入期間について、計算の基礎となる各月の平均標準報酬月額(給与)の総額を2003年3月以前の加入期間で割った額のこと。
一方で「平均標準報酬額」とは、2003年4月以降の加入期間について、計算の基礎となる各月の標準報酬月額(給与)と標準賞与額の総額(ボーナス)を2003年4月以降の加入期間で割った額を指します。
ちなみに、2003年に「総報酬制」が導入されるまではボーナスからも厚生年金保険料が引かれながら、受給する年金額に反映されていませんでした。
2003年4月以降、乗率が変更されてボーナス分もしっかりと年金額に反映されるようになりました。
2.2 「老齢基礎年金」の計算方法(20歳から60歳までに払った保険料に対して反映)
老齢基礎年金の年金額を計算するときに「保険料免除・納付猶予」の承認を受けた期間がある場合は、保険料を全額納付した場合と比べて年金額が低額となります。
- 全額免除 = 対象月数 × 全額納付した場合の年金額の1/2
- 4分の1納付 = 対象月数 × 全額納付した場合の年金額の5/8
- 半額納付 = 対象月数 × 全額納付した場合の年金額の6/8
- 4分の3納付 = 対象月数 × 全額納付した場合の年金額の7/8
また、以下の計算式が用いられます。
81万6000円(2024年度)×(保険料納付月数+免除分)/ 480月
計算の概要を確認したところで、今回の相談者であるCさんの具体的な例を見てみましょう。
3. Cさんの老齢厚生年金と老齢基礎年金
〈相談者:Cさん〉
- 入社して30年
- 現在52歳
- 独身
Cさんが大学を卒業したときには就職も大変な時期で、給与もそれほど高いとはいえませんでした。そのため、20歳から大学卒業までは、国民年金保険料を免除していましたとのこと(当時は学生納付特例がありません)。
少しずつ給与やボーナスは増えてきて、今後も働き続けようと思っているようです。
今回、厚生年金は総報酬制導入後の平均標準報酬額として計算し「経過的加算」は含んでいません。
3.1 Cさんの老齢厚生年金(概算)をシミュレーション
総報酬制導入後のBを使い、ざっくりと考えてみると以下のような形となります。
35万円 × 5.481 / 1000 × 30年 × 12月 = 69万0606円
3.2 Cさんの老齢基礎年金をシミュレーション
81万6000円 × 30年 × 12月 / 480月 = 61万2000円
3.3 老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計
69万0606円 + 61万2000円 = 130万2606円
月額にすると10万8550円。これだけでは、物価高の現代で生活するのは大変かもしれません。
60歳まで8年間、今後も仮に同じ給与で働きつづけるとした場合、
- 老齢厚生年金
35万円 × 5.481 / 1000 × 8年 × 12月 = 18万4162円
- 老齢基礎年金
81万6000円 × 8年 × 12月 / 480月 = 16万3200円
つまり、18万4162円 + 16万3200円 = 34万7362円 の上乗せとなります。
この場合、130万2606円 + 34万7362円 = 164万9968円で、月額13万7497円となります。
ただし、この金額から健康保険や介護保険、所得税や住民税が引かれるため注意が必要です。
4. 今後、Cさんが「老後資金」をつくる手立ては?
物価上昇が著しい昨今、2024年の物価見通しはどうなっているのでしょうか。
4.1 【東京23区】2023年1年間の消費者物価指数
総務省によると、東京都区部の2023年CPI(総合)は前年比3.2%。1年間で3%も物価が上がっており、それだけ現金の価値が下がっていることになります。
また、2023年の各月のCPIを前年同月比で見てみると年初は4%を超えていましたが、12月には2%台になりました。
一方、生鮮食品及びエネルギーを除いたコアコアCPIは依然として前年同月比が3%代で推移しており、2024年も物価の上昇は続くかもしれません。
こうした物価上昇の影響の余波は、現役世代だけでなくシニア世代にも届くと推測できます。
Cさんは今後、どのような動きをすれば「老後資金」を増やしていけるのでしょうか。以下に例をあげてみました。
- 学生時代に未納だった国民年金保険料を60歳以降に支払いし、年金額を上乗せ
- 60歳以降もバリバリ働き、厚生年金に加入して年金額を上乗せ
- 老後のために資産運用を検討する
年金に不安な方も多いと思いますが、まずは実情を知ることが大切。
「ねんきん定期便」を確認してどのくらい年金がもらえるのか把握し、早い段階から準備や対策を考えていきましょう。
参考資料
- 日本年金機構「大切なお知らせ、「ねんきん定期便」をお届けしています」
- 日本年金機構「報酬比例部分」
- 日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」
- 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
- 厚生労働省「令和6年度の年金額改定についてお知らせします」
香月 和政