DIAMアセットマネジメント 運用ソリューション本部 星野元伸

DIAMアセットマネジメント株式会社 運用ソリューション本部 本部長 星野元伸氏に、最近の資産価格の急激な値動きの特徴、資産価格が急落するときの対応の重要性、そして下値目安値を設け国内外の6資産に分散投資する投資信託「クルーズコントロール」[リスクと費用] の運用方針についてお伺いしました。

投資家に伝えたい3つのポイント

最近の相場は大きく変動することが多く、急落時に損失を膨らませないことが中長期で資産を増やすカギ。

急落時は資産目減り限度を定め、現金とリスク資産を巧みにコントロールすることが必要。

相場急落時は資産をしっかりと守り、相場上昇時にはしっかりついていくという哲学を守りきるには、額に汗かく運用現場の経験と、ぶれることのないコンピューター・アルゴリズムとの相乗効果がものをいう。

激しい相場の乱高下。個人投資家はいかに資産を守り、増やすことができるのか

―― 多くの個人投資家は、資産運用に興味があっても、毎日変動する相場への恐怖心もありますし、特に相場の急落時に苦い思いをした人が多いと思います。プロの投資家は、個人投資家と同じような経験はしていないのでしょうか。

DIAMアセットマネジメント 星野元伸(以下、星野):そんなことはありません。ちょっと古い話になりますが、日本の機関投資家の多くもITバブルが崩壊した2000年以降、ずっと同じような経験をしています。

―― どのような経験でしょうか。

星野:ご存知のように、日本株は景気循環による相場の上下はあるものの、米国株のような右肩上がりの相場ではありませんでした。債券に関しても、国債をはじめとして長く低金利が続いています。日本だけではなく、世界中の金利は低いままです。プロの投資家も実際は個人投資家の皆様と同様に運用難のなかで結果を求められているのです。

―― プロの投資家は、バブル崩壊後様々な経験をしていると思います。その中でどのような運用にいきついたのでしょうか。

星野:一言でいえば、相場急落時には資産の目減りを最小限に抑え、相場上昇時にはしっかりと享受するということでしょうか。

―― そんなにうまい話があるのでしょうか。

星野:相場急落時には、現金の保有比率を増やし、相場上昇時にはリスク資産の保有比率を上げるという「ダイナミックヘッジ」という手法を活用すると実現できます。このコンセプトが機関投資家で評価され、当社では同手法を活用した運用資産が1兆円程度あります。

―― ただ、プロの投資家は、相場が乱高下する方が投資による収益機会が多いような気がしますが、いかがでしょうか。

星野:価格変動性が高いことそれ自体は、熱心な市場参加者にとっては収益機会と言えます。しかし、マーケットタイミングを計るのはプロでも難しいのです。

―― プロといえでもどのような難しさがあるのでしょうか。

星野:株や債券などのリスク資産に投資をしたのち、急に値下がりし含み損を抱えてしまうと、プロといえども後ろ向きの気持ちになります。ここで本来ならリスク資産を買い増さなくてはならないはずですが、含み損を抱えたままでは心理的なハードルが高いといえます。

―― そうした状況でどのように対応すればよいのでしょうか。

星野:私がこれまで経験してきた中でいうと、機械のぶれない判断を軸としながら、人間の経験を掛けあわせることで、人間の心理的な判断のブレを補正することができます。私は大学卒業以来、一貫して「クウォンツ」とよばれる金融市場のデータをもとに、いかに超過収益を得ることができるか、またリスクを数値化し、いかに管理をするかについて研究してきました。金融工学の純粋な理論だけでは実際の運用現場に適さないことがあると気づき、理論を現場で機能するように「実装」することにも時間を費やしてきました。結論として、クウォンツ・ファンドのパフォーマンスに、「いかに額に汗をかくか」というようなきめ細かいメンテナンスが大きく影響することが分かりました。

―― ぱっと聞いただけでは単純に聞こえますが、実践するとなるとかなり難しいようですね。例えば、資産価格が急落して回復に時間を要するときは「早めに現金にしておいてよかった」となりますが、急落後に急速にリバウンドする場合ではいつどれだけ現金からリスク資産に戻すべきか難しい判断になりますね。

星野:下げるときは現金にして資産を守り、上げるときはしっかりリスク資産を持っている。これをきちんとしたアルゴリズム(問題に対処するための処理順序)にするまでにはさまざまなノウハウの蓄積が必要だと思います。

―― プロの投資家向けの手法を個人投資家向けにも展開できないのでしょうか。

星野:もともとプロの投資家である機関投資家向けの商品を個人投資家向け投信にして販売したいというアイデア自体はありました。最近NISAをはじめとして個人の資産形成の環境が整備されたことがきっかけで商品化したのが、現在私が運用する「クルーズコントロール」です。

バランス型ファンドでも万全ではない

―― クウォンツというような難しい手法をとらなくても、国内外の株や債券へ幅広く投資する分散投資で資産を十分に守れないのでしょうか。

星野:分散投資は確かに有効な投資手法です。中長期の投資には、国内債券、国内株式だけではなく、海外先進国・新興国の債券と株式を分散して持つことが、リスクを抑えリターンを確保する正攻法だと考えています。いわゆるバランス型ファンドの考え方がこれにあたります。しかし、これは「平時」、つまり相場上昇局面での戦略というべきものです。先ほどお話したように、急激に相場が下落する状況では十分とは言えません。

―― それはなぜでしょうか。

星野:その理由のひとつは、相場急落時にはリスク資産の分散効果がうまく働かないということです。例えば、日本株と日本国債に分散投資をしている場合を考えてみてください。従来の教科書によれば、日本株が下がるときに日本国債の価格があまり下がらない、あるいは上昇すると期待できるからこそ分散投資が望ましいとされてきました。しかし、2013年5月の際の「バーナンキ・ショック」のケースでは、日本株が売られ、日本国債も売られ、円高によって海外資産も痛手を受けました。「リスク資産を分散し保有しても救いにならないときがある」、これが市場の実際です。

―― では、今後はどのようなリスクがあるのでしょうか。

星野:債券の利回り水準の低さです。特に日銀による量的緩和が行われて以来、円金利は極めて低い水準に下がってしまいました。仮に株の下落リスクを緩和するために日本国債を買おうと考えたとしても、債券の利回りが低すぎてクッションの役目を果たしてくれないのです。

DIAMアセットマネジメント 運用ソリューション本部 星野元伸

「クルーズコントロール」の実際

―― 一般のバランス型ファンドと「クルーズコントロール」の違いについては分かりました。さらに「クルーズコントロール」の運用方法についてもう少し解説をお願いします。

星野:まずリスク資産ですが、国内、海外先進国、新興国の株式と債券、合計6つの資産のバランス型ファンドになります。中長期でリターンを狙うためミドルリスクをとっています。為替ヘッジは行っていません。年に一回、6つの資産のあるべき配分を見直しますが、大きく変わることはあまりありません。

―― 「クルーズコントロール」は国内資産よりも海外資産のほうが大きいですね。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の新しい資産配分計画よりもさらに海外資産に積極的な構成ですね。リスク資産と現金との比率のコントロールはどうなっていますか。

星野:ダウンサイドの目安として、3か月に一度その時点の基準価額より2%低い水準を下値目安値として設定します。その後、仮にリスク資産価格が上がっていけばそのままポートフォリオの価値も追随して増えていきます。そしてそのまま3か月が終わると、期初から上昇して着地した基準価額の2%下にあたらしい下値目安値を設定します。

―― 資産価格が下がって下値目安値に近づいたときはどうなりますか。

星野:リスク資産の比率をぐっと落としていきます。最大で10%程度の構成比まで、つまり状況によっては90%超を現金にします。これで下値目安値を割り込むことの無いように最大限の努力をします。

―― 細かくメンテナンスが必要な運用ですね。

星野:はい、額に汗すると先程申し上げたのは、まさにこのことです。

―― さて、リスク資産の価格が更に下落し、その3か月が終われば、資産価値は当初の98%にとどめることができますね。3か月たったらまたリセットですか。

星野:そうです。新たに基準価額の2%下に新たな下値目安値を設定し、現金を落としてリスク資産を改めて高位に組み込みます。3か月たったらリセットし、きちんとリスク資産を組み入れなおすことがルール化されているのが、アップサイドを取り逃がさないポイントです。

3か月ごとのリセットがアップサイドも確実に取り込む仕組み

―― ある3か月の間にリスク資産の価格が下がり下値目安値に接近したため現金を増やしたら、急に相場がリバウンド(反発)した場合はどうなるのでしょうか?

星野:リバウンドの程度にもよりますが、徐々に現金を減らしてリスク資産を増やしていきます。リバウンドが大きい場合はこれに追いつくには限界があるかもしれません。しかし、3か月後には下値目安値がリセットされると同時にリスク資産の組入れが更に高められます。上昇相場でリスク資産を十分持っていない、いわゆる「持たざるリスク」が長期間発生しないように工夫してあるわけです。

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3か月ごと下値2%の意味

―― 3か月ごとにその時に基準価額の2%下を下値目安値とするということですが、2%にはどんな意味があるのでしょうか?

星野:1年間下げ相場が続き、3か月ごとに2%までの目減りでくいとめたとすると、年間で約8%の資産の目減りになります。この水準であれば翌年十分に取り返せる、これを超えると簡単には取り返せないだろう、という判断をしました。

―― 資産形成のために一定のリスクを取る用意があるが、証券市場に張り付いて下げ相場に備えるだけの準備が無い方に、いわば保険付きのバランスファンドを提供しているという理解でよろしいでしょうか。

星野:そうですね。これまでの経験をアルゴリズムの細部まで織り込んで運用させていただいています。買うタイミングをあまり気にせずに済むといえますし、積立にも向いているのではないでしょうか。

―― 本日はお忙しいなか大変貴重なお話をありがとうございました。

星野:こちらこそありがとうございました。

※本インタビューは、楽天証券株式会社との共同インタビューとなります。

Longine編集部