三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社 株式運用部 リート室長 兼 チーフファンドマネージャー 高垣勝己

三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社 リサーチ運用部 リート室長 兼 チーフファンドマネージャー 高垣勝己氏に、個人投資家にとってのREIT投資、特にアジアREITの魅力とポイントをお聞きしました。また、成長著しいアジアのREITを主要投資対象とし、安定的な収益の確保と中長期的な運用を行っている「アジアREIT・リサーチ・オープン(毎月決算型)」[リスクと費用(毎月決算型)] 、「アジアREIT・リサーチ・オープン(年2回決算型)」 [リスクと費用(年2回決算型)] (以下、「アジアREIT・リサーチ」 )の運用方針についてお伺いしました。

投資家に伝えたい3つのポイント

REITは投資先不動産の賃料収入に基づく配当の利回りが国債などと比較して高く、加えて値上がり益も狙える。

アジアのREITは経済成長に伴う賃料上昇期待と不動産開発の増加が見込める世界でも有望な投資先。

アジアREIT市場では、先進国REIT市場と比べ個性的且つ多様な個別物件が多く、目で見て調査をするボトムアップ・リサーチにより超過収益を狙える。

インフレにも強いREIT

―― 日本でJ-REIT(ジェイリート)市場が設立されてから14年ほどになります。そもそもREITに投資することと、実際に賃貸用不動産を購入することにはどのような違いがありますか。

三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社 高垣勝己(以下、高垣):個人の方が賃貸用不動産を購入することを想像してみてください。複数の優良物件に分散投資するには数千万円、場合によっては数億円の費用がかかり、よほどの資金規模をお持ちでない方を除いて難しそうです。一方REITは、複数の投資家の資金と銀行借入で多数の優良物件に分散投資が可能です。REITを保有することで、例えばシンガポールのラッフルズ・シティのような世界の優良不動産の実質的なオーナーの仲間入りができるわけです。

―― 他に違いはありますか。

高垣:自分で個別の不動産を保有している場合、その物件を思い立った時に売買できるとも限りません。いわゆる流動性の問題です。REITは市場で売買することができ、換金性が高いこともポイントのひとつです。

―― 個人投資家の方にもREITが認知されてきました。不動産賃料をベースにした配当利回りの高さが人気の要因と考えられます。あらためてREITの魅力を教えてください。

高垣:REITは、配当利回りの高さが非常に魅力的です。2015年6月末の数値ですが、J-REITの利回りが3.3%、米国は3.9%、豪州は4.3%、シンガポールは5.7%、香港は4.4%となっていて、各国の国債の利回りよりも高くなっています。

―― REITには他にどのような魅力がありますか。

高垣:REITの特徴のひとつが、あらかじめ利率が決まっている確定利付き証券と違い、相対的に「インフレに強い」ということです。

―― REITはなぜインフレに強いのでしょうか。

高垣:REITの収入源は不動産賃料です。賃料は物価にあわせて上昇する傾向があるため、インフレに強いと言えます。また投資している不動産がインフレにより上昇する期待もあります。

―― インフレに強いといえば、株式も同様ですね。

高垣:株式も一般にインフレに強いと言われます。企業利益は一般的にインフレの恩恵を受けますし、株価は企業の利益に基づいて値付けされています。

―― それでは、株式と比べてREITの良さはどこにあるのでしょうか。

高垣:REITは不動産賃貸事業の収益に関して、法人税等の控除メリットを受けることができ、収益をほぼまるごと配当の原資とすることができます。このような仕組みは、株式にはありませんので配当原資の厚みが違います。これがキャピタルロスが発生した場合のクッション効果にもつながり、中長期投資を実現する後押しとなります。

―― 株式を保有する個人投資家もREIT投資を考えた方がよいのでしょうか。

高垣:はい、十分に検討に値すると思います。

―― それはなぜでしょうか。

高垣:株式とREITを組み合わせることにより、異なった収益源泉と価格変動要因を併せ持つこととなり、分散投資のメリットが期待できるからです。

REITを通じて世界でも有名なアジアの優良物件のオーナーになれる

―― REITでもアジア市場に注目すべき理由は何でしょうか。

高垣:アジアREITは典型的な「高成長+安定配当」を実現している市場だからです。

―― アジアREITの成長性について更に教えてください。

高垣:アジア経済の成長速度が世界の他地域より高いことは間違いないでしょう。加えて、経済成長に伴い中間所得者層が増加し、商業施設の収益拡大が期待できます。また、産業の工業化・サービス化が進み都市部に人口が集中し、オフィス需要も高まるでしょう。物流・産業施設への需要も伸びると思われます。アジアのREITは配当と株価の両面で大いに期待が持てると考えています。

―― 日本の個人投資家がアジアのREITに投資することは可能なのでしょうか。

高垣:現在のところ国内の個人投資家の方が、私たちの投資対象であるアジアのREITの個別銘柄をすべて自由に売買できる状況にはありません。その理由は証券会社が必ずしもすべての銘柄を扱っていないからです。取扱があっても言葉や情報収集の面でハードルが高いと思います。そこで、日本の個人投資家の方に1万円程度の少額から幅広いアジアのREITに投資する機会をご提供したいという思いから、「アジアREIT・リサーチ」を設定いたしました。国内の個人投資家の方の資産形成を中長期でお手伝いができればと考えています。

米国の利上げの影響を考える

―― 米国では、2015年に利上げに踏み出す可能性もあります。アジアのREIT市場にどのような影響があるのでしょうか。

高垣:利上げによってアジアのREIT市場が大崩するというような心配はあまりしなくていいと考えます。

―― それはなぜでしょうか。

高垣:利上げが行われれば、長期国債の利回りも上昇すると考えられるため、投資家がREITに求める利回りは従来よりも高くなることもあるでしょう。一方、今回の米国利上げの局面では、米国経済に牽引されアジアの米国向け輸出等も堅調となり、アジアの景況感も相応によくなることが想定され、アジアREITの賃料収入、そしてそれに連動するREITの配当金も上昇する可能性が高いと思われることから、相対的に高い配当利回りが期待できるものと考えています。

アジア経済の自律的成長力と米国景気の改善がアジアの不動産市況にプラスに働くと考えています。なお、金利上昇に伴うREITの資金調達コスト面については、他地域のREITに比べ負債比率が相対的に低めであり、また足元で固定金利での調達比率を高めております。よって、金利上昇による収益及び配当への影響は限定的と見られます。

―― ギリシャや中国の影響はいかがでしょうか。

高垣:足元の資本市場は、欧州のギリシャ債務問題や中国株式の大幅調整といった外的要因により影響を受けておりますが、相応に利回りが確保されており、アジア域内の堅調な不動産市況といったファンダメンタルズがついてきているアジアREITは、この局面において相対的に影響は限定的と見ております。利回り水準、国債との利回り格差、株価純資産倍率等でみて、中長期の投資対象としての買い場を提供しているものと考えます。

REITにおけるボトムアップ・リサーチの強み

―― REITに投資する際の調査はどのように行われているのでしょうか。

高垣:ボトムアップ・リサーチといいまして、個別物件に訪問し、調査をいたします。こうして資本市場がまだ気づいていない点を見出します。丹念に調査することでREITへの投資とその運用で超過収益を得ることができると考えています。

―― 三井住友トラスト・アセットマネジメントの調査の強みはどこにあると言えますか。

高垣:私どもは不動産業務に強い三井住友信託銀行を母体にしています。グループ内には不動産専門のシンクタンクである三井住友トラスト基礎研究所も有しており、調査リソースについては日本でトップクラスと自負しています。そうしたことから、REITに関しては他社にはない強みが発揮できると考え、資産運用の分野でも取り組みを強化しています。当社のホームページには「よくわかるREIT」 というREITの特設コンテンツも展開しておりますので、ぜひご覧ください。

―― 海外の調査体制についてはいかがでしょうか。

高垣:現地にアナリストを配置し、個別物件の調査やREIT運営会社のマネジメントと定期的にコンタクトをしています。私どもの調査体制は、他の日系運用会社と比較してもローカル化という点で先行しています。こうした調査体制が整っているからこそ、利回りの高いREITへ自信を持って選別投資ができていると考えています。

―― 高垣さんも現地で調査活動をされてきたのでしょうか。

高垣:私は香港に14年間駐在し、香港・シンガポールをはじめとするアジアの株式市場とREIT市場を見てきました。アジアREIT・リサーチの設定後も、延べ100件程度の個別物件を訪問し、また、REIT運営会社のマネジメントと定期的にコンタクトをとってきました。そうした現地のREIT運営会社のマネジメントとは、東京に戻ってきた今でも直接連絡を取り合える関係です。

―― つい先日もシンガポールへご出張されたのですね。

高垣:はい。おおよそ3か月から6か月に1回はアジア地区へ海外出張をし、調査活動を行っています。

―― 現地に行かれた際は、どのような調査をするのでしょうか。

高垣:成長し常に変化を遂げているアジアのREIT市場を相手にしていますので、個別物件の訪問は欠かせません。また、規制が変わることで運用環境も変わることもしばしばあります。規制当局との面談は不可欠だと考えています。足元では2014年11月にタイ、2015年5月にシンガポールの規制当局と面談を実施しました。またREIT運営会社のマネジメントとのインタビューなども行い、情報収集に努めております。

リスク管理の勘所

―― REITの運用にあたって注意されている点は何ですか。

高垣:足で稼ぐことを徹底することがまずは一番ですが、それ以外にマクロ環境を分析するトップダウン・アプローチも欠かせません。ボトムアップ及びトップダウンの両面から、運用する中で起きうるリスクには特に注意を払っています。

―― トップダウンによるリスク管理のポイントは何ですか。

高垣:金利が変化した場合、それぞれの銘柄にどういう影響が出るのか精査しています。また、運用環境に影響を与える規制動向の先読みに注意しています。

―― ボトムアップによるリスク管理のポイントは何ですか。

高垣:REIT運営会社のマネジメントの質、そしてスポンサー企業の物件開発動向には特に目配りしています。

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三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社 株式運用部
リート室長 兼 チーフファンドマネージャー 高垣勝己

分配金支払で二つのコース

―― 毎月決算型(毎月分配金支払)と年2回決算型の二通りありますね。

高垣:運用の中身は同じですが、前者は年金の補完を考えておられるような分配金受取り重視の投資家向け、後者は分配金をファンド内で再投資することにより複利効果を享受したい資産形成層のような投資家向けになっています。

―― 年2回決算型はこれまで分配金の支払いはなく、再投資に回ってきたのですね。

高垣:お若い方が中長期の資産形成をお考えでしたらこちらのコースをぜひご検討ください。

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―― 本日はお忙しいところありがとうございました。

高垣:こちらこそありがとうございました。

※本インタビューは、楽天証券株式会社との共同インタビューとなります。

Longine編集部