台湾の液晶パネル大手、AU Optronics(AUO)は、このほど東京エレクトロン(TEL)から製造装置を購入したことを明らかにした。この装置は、TELが先ごろリリースを発表した第4.5世代(4.5G=730×920mm)ガラス基板に対応した有機ELディスプレー製造用インクジェット(IJ)描画装置「Elius 1000」だとみられる。AUOがElius 1000を導入するのは台湾の3.5Gラインだといわれており、まずはIJプロセスによる有機ELディスプレーの試作・評価などに活用するもようだ。

現在はウエアラブル用に少量生産

 AUOはこれまで、有機ELへの大型投資や大規模量産からは距離を置き、最低限の投資で生産能力をわずかにとどめ、スマートウオッチ用の1.2インチおよび1.4インチの円形パネルや、台湾HTCが販売しているVR(仮想現実)ヘッドセット「VIVE」向けのディスプレーなど、主にモバイル&ウエアラブル用にリジッド(ガラスベース)の特定品種だけを生産・供給してきた。

 だが今回、TELのIJ装置を導入したことによって、有機ELの量産範囲を車載用やモニター用といった中型パネルに拡大し、リジッドベースに限定せず、柔軟に曲げることができるフレキシブル有機ELの量産をも視野に入れていく可能性が高まったといえる。ちなみに、装置の納入時期は2019年早々とみられる。

TELは14年からインクジェット装置を提供

 TELは先ごろ、14年に発売した8.5G(2200×2500mm)基板対応のIJ装置「Elius 2500」に続き、これを4.5G基板にも対応できるようにしたElius 1000の発売を発表した。IJ技術によって、RGB3色の発光材料を同時かつ必要量だけ画素内へ描画することができ、一般的な蒸着方式に比べて有機EL発光層の生産性を大幅に改善して、最大6種類のインク材料を同時に搭載できるようにした。

 ちなみに、8.5G用のElius 2500は、IJ技術を保有していたセイコーエプソンと共同開発した装置。TELは量産装置と位置づけており、55インチ4Kパネルを製造することが可能だ。現在は65インチ8Kパネル製造対応についても技術開発を進めている。なお、Elius 2500は、すでに韓国のLGディスプレーがテレビ用有機ELディスプレーの試作評価用に導入済みだといわれている。

インクジェットによる量産は現在JOLEDのみ

 IJ技術を用いて有機ELを量産しているのは、現在のところJOLED(ジェイオーレッド)だけだ。JOLEDは、政府系ファンドの産業革新機構(現INCJ)、ジャパンディスプレイ(JDI)、ソニー、パナソニックが出資して15年1月に設立され、JDIの石川工場内に4.5Gの開発試作ラインを整備して、17年12月に初の製品となる21.6インチの4K有機ELを医療用ディスプレーとして商品化した。

 JOLEDが量産に適用しているIJ装置は、出資者であるパナソニックの設備を用い、現在、JDIの旧・能美工場を取得して量産拠点を整備中で、20年からの量産開始を目指している。

 また、JOLEDは8月、生産設備の開発設計を行うパナソニック プロダクションエンジニアリング、ディスプレー製造工程で使われる各種装置と関連サービスを提供するSCREENファインテックソリューションズと3社で、主にテレビ向けを想定したIJ技術による大型有機EL製造設備の開発・製造・販売・サービスに関して業務提携契約を締結し、製造技術を他社に提供する技術ライセンスも推進し始めている。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏