物語のハッピーエンドは、結婚ではありません。結婚してからまた、長い長い物語が始まります。そして、その物語にはいくつもの困難が待ち受けています。子育ての悩み、夫とのすれ違い、親せき付き合い…。そんな悩める妻が助けを求めるのは、他でもないパートナーである夫です。
そこで今回は、「私はこの夫の一言で、救われました」という体験談をご紹介します。もし奥さんが悩んでいるようなら、他でもないあなたが手をさしのべあげてください。
「これが俺たちのやり方だから」
Bさん(32歳)は、昨年ようやく第一子が誕生しました。義理の両親にとって待望の初孫、特に姑はとても喜んでくれたそうです。
Bさん宅から義理実家までは電車で30分ほどの距離。子供が生まれてからというもの、姑は毎週末にBさん宅に子供の顔を見に来るようになったといいます。「見に来るだけならまだよかったんですが…」Bさんは少し顔を曇らせながら言葉を続けます。「あぁしなさい、これはだめ、と育児方法に口を出すようになってきたんです」。
ほっぺたを触ったら肌荒れするから触っちゃダメ、足を冷やしたらダメ、靴下は常に履かせなさい…。毎回何かしら口を出されることに嫌気がさし、Bさんは週末が来ることを恐れるようになりました。
ある日、思い切って夫にそのことを相談、すると夫はすぐに「そろそろ週末家族で出かけることもあるから、毎週来なくていい。これからは僕たちがそっちに行くから」と姑に連絡してくれました。
「しんどい思いさせてごめんな、今週末は俺が子供見とくからお茶でもしてきな」という夫の言葉に、Bさんは心の中にあった鉛が溶けたような気持ちになったのだとか。
その週の土曜、Bさんは夫に子供を預けて久々にひとりの時間を楽しみました。ウィンドウショッピングにカフェ…。自由な時間を満喫した彼女が帰宅すると、なんとそこには姑の姿。
唖然とするBさんに姑は「あなた、何ひとりで遊んでるの? こんな小さな子供を置いて! 非常識よ!」と怒鳴りました。すると夫が「いいかげんにしろ!」と姑を一喝。
「これが俺たちの子育てスタイルなんだ。これが俺たちのやり方だ、お袋はもう黙っててくれ。俺たちふたりで頑張りたいから、どうか見守っててくれよ」そう訴える夫に、姑は何も言わずに帰ったそうです。
「あのとき、夫がああ言ってくれたのがすごくうれしかった。夫が私の味方だと分かったことが、とても心強かったんです」。
「ありがとう、幸せだよ」
Mさん(43歳)は結婚20年目。子供も大学生になり親の手を離れ、夫婦ふたりでの時間が多くなりました。「そのときに気がついたんです。夫婦で話すことが何もないんです」。
子育て真っ最中の頃は夫も激務、ワンオペ育児だったMさんは疲れ果て、夜は子供と一緒に眠ってしまう日々。Mさんの夫はMさんが眠ってから帰ってくることがほとんどだったため、夫婦ふたりの時間はほとんどなかったのです。
「最初は帰りが遅い主人に腹が立っていましたが、そこを責めても『仕事だから仕方ない』の一点張り。いつの頃からか私も主人に何も期待を持たなくなりました。『毎月家族を養えるだけの給料を稼いでくれたらそれでいい』と思うようになったんです」。
「夫はただ、お金を稼いでくるだけ、そう割り切ると気持ちが楽になった」そう語るMさん、夫も家庭のことなんて感心ないのだろうな、と決めつけていたそうです。そうして少しずつ夫婦の間に溝ができ、子育てと仕事に余裕ができたころには、その溝がとても大きくなっていたのです。
「子供が大学卒業したら、離婚しよう」そう思っていたある日、Mさんは夫にディナーに誘われました。「ディナーといっても近所の中華料理店。夫のためにわざわざおしゃれするのも面倒くさくて、私が近所なら…と指定しました」。
会話もなくただ黙々と運ばれた食事を口にするMさんに、夫が口を開いてこう言いました。「俺は、いい夫でも、いい父親でもなかったな」。
突然の言葉にびっくりしていると、さらに夫は話を続けました。「もう、俺に何も期待していないのもわかってる、俺に愛情がないことも知ってる。でも、俺はずっと君に感謝している。君と結婚できて幸せだと思っている。ありがとう。俺は、本当に幸せだよ」。
「自分でもびっくりしたんですが」とMさん。「気づいたら私は大粒の涙を流していました。私はずっと、この言葉を待っていたのかもしれません。もし、あの言葉がなければ、私は自分の長い結婚生活を否定していたでしょう。でも、夫の『幸せだよ』の一言で、私はこの人と結婚してよかった、と思えたんです」。
結婚してからが本当のスタート。ただ、「好き」という感情だけでは解決できないさまざまな問題が2人の前に立ちはだかります。それをひとつずつ乗り越えるたびに、名実ともに「夫婦」になっていくのかもしれません。
「言葉にしなくてもわかるだろう」...これは男性がよく言うセリフ。でも、時には言葉にすることが大切な場合もあります。夫婦が円満に暮らしていくのに大切なのは、お互いの心に寄り添い、共感することなのではないでしょうか。
大中 千景