2023年12月9日にログミーFinance主催で行われた、第68回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナーの第5部・森六ホールディングス株式会社の講演の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:森六ホールディングス株式会社 代表取締役 社長執行役員 栗田尚 氏
経済アナリスト/経営コンサルタント 増井麻里子 氏
フリーアナウンサー 荒井沙織 氏

個人投資家向けIRセミナー

栗田尚氏(以下、栗田):みなさまこんにちは。森六ホールディングス株式会社代表取締役社長、栗田尚です。本日はお忙しい中、当社のIRセミナーにご参加いただき、誠にありがとうございます。

ログミーFinanceのセミナーに参加するのは、今回が初めてとなります。当社の名前を初めて聞くという方もいらっしゃると思いますので、まずはグループの概要についてご理解いただいてから、今後の成長戦略や足元の業績、株主還元などについてご説明します。短い時間ですが、どうぞよろしくお願いします。

会社概要

栗田:会社概要からご説明します。森六ホールディングスは、東証プライム市場に上場しており、セクターは化学、証券コードは4249です。4249の語呂合わせで、「世に良く」と覚えていただければと思います。

特徴的なのは創業が1663年であることです。今年3月に360周年を迎えることができました。

全国「老舗上場企業」調査ランキング

栗田:こちらのスライドは、東京商工リサーチから公表されている「老舗上場企業」ランキングですが、当社は第8位にランクインしています。

森六グループのあゆみ

栗田:当社の長い歴史の中から4つのターニングポイントをご紹介します。1つ目は、創業の1663年です。江戸幕府4代将軍・徳川家綱の時代にあたります。この年に、創業家である森家が、徳島県で藍染の藍と肥料の販売をスタートしました。

これが森六グループの始まりであるとともに、今のケミカル事業、化学品の商社ビジネスへと発展していきます。なお、当社の社名「森六」は、6代目当主・森六兵衛の名前から2文字をとって名乗ったことが始まりとされています。

2つ目は1958年(昭和33年)です。私が生まれた年でもあり、東京タワーが完成した年でもありますが、この年にホンダ「スーパーカブ」というオートバイが発売になりました。今でも新聞配達や出前などに使われている、ベストセラーモデルです。

当社は、その外装部品の樹脂化に成功して、製造業への進出を果たしました。このビジネスが、もう1つの柱である樹脂加工製品事業へと発展していきます。それと同時に、ホンダとの長いお付き合いがスタートしました。

3つ目は1986年、事業のグローバル化です。時代の流れとともに、当社の製造業は「スーパーカブ」から自動車部品へシフトしました。同年の北米進出を皮切りに、海外での生産拠点を増やし、事業を拡大していきました。

そして4つ目は、2017年の東証一部上場です。2022年の市場再編でプライム市場への移行を果たし、現在に至っています。

売上高の長期推移

栗田:スライドのグラフは、森六グループの360年間の売上高の推移です。ご覧のとおり、リーマン・ショック、東日本大震災、新型コロナウイルス感染症など、幾多の困難があったものの、右肩上がりで成長を続けてきました。

昨今では、地政学リスクへの対応として、サプライチェーンマネジメントの強化が求められています。当社は、1994年にフィリピン、1996年にインドに工場を設け、その後中国にも進出しました。

2000年代に入り、世間では「中国だけではだめなのではないか」「チャイナ・プラスワン」などと言われるようになりましたが、その頃には当社はタイやインドネシアにも進出をし、「チャイナ・プラスフォー」の体制を確立していました。特定の地域に依存することなく、相互に補完し合える体制を構築していることが、360年続く経営のレジリエンスにつながっていると考えています。

増井麻里子氏(以下、増井):質問を挟み込みながら進めていきたいと思います。1986年からグローバル展開を進めていますが、当初から委託や提携ではなく、自社で生産・販売拠点を作っていたのでしょうか?

栗田:基本的には、自社で生産・販売拠点を設立してきました。ホンダのグローバル戦略として、現地生産・現地供給の方針があったことに加え、当社の部品はプラスチック製であり、比較的容積量が多いために、現地で作って現地で販売していくことが基本となっています。

森六グループの現在

栗田:現在の森六グループについての理解も深めていただきたいと思います。まずはグループの構成です。持株会社として、森六ホールディングスがあります。

2つの事業があり、1つは樹脂加工製品事業です。わかりやすく言うと、自動車部品メーカーです。この中核になっているのが、事業会社の森六テクノロジーです。もう1つがケミカル事業で、化学品の専門商社です。この中核が事業会社の森六ケミカルズとなります。

それぞれが多くの拠点や関係会社を持ち、世界14ヶ国に60拠点、連結では4,400名近い従業員が活躍しています。

売上構成

栗田:事業ポートフォリオです。セグメント別では、自動車部品メーカーとしての売上が約8割、化学商社としての売上が約2割の内訳となっています。

先ほども少し触れましたが、地域別では日本以外に北米、中国、東南アジアに製造・販売拠点を構えています。主要3極でおおむね3分の1ずつ、バランスの良い比率になっています。

増井:将来的には欧州やアフリカへの進出も検討しているのでしょうか?

栗田:ケミカル事業においては、すでにオーストリアとイスラエルに拠点を設けており、ヨーロッパへのさらなる事業の拡大も検討しています。樹脂加工製品事業については、現時点では進出してはいないものの、今後の動向によっては検討の余地は十分あると考えています。

樹脂加工製品事業とは?

栗田:当社の具体的な商品イメージをお伝えしたいと思います。樹脂加工製品事業では、自動車の内装部品・外装部品の両方を手がけており、スライドに示しているのは内装部品です。

イラストにあるとおり、ダッシュボード一帯が当社の手がける範囲となります。運転席と助手席の間にあるセンターコンソールという肘掛けの部分が当社の主力部品です。

樹脂部品は、プラスチックの質感そのままでは安っぽく見えてしまうこともあります。しかし、当社では部品の表面にフィルムを貼ることで、金属調、木目調、カーボン調などの加飾を施したり、特殊な塗装によりソフトな手触りに仕上げたりと、さまざまな加飾技術により、高級感のあるデザイン性の高い内装部品に仕上げることができます。

樹脂加工製品事業とは?

栗田:外装部品についても、代表的な部品をスライドに掲載しています。ヘッドライト周辺のラジエーターグリル、車の後部のルーフスポイラーなど、内装に比べてサイズも大きめな部品が多いです。

最近の車は外装も樹脂化が進んでおり、隣り合った部品の一方は金属、そして一方が樹脂というケースが増えていますが、見た目としては完全に一体化して見えるよう、高い外観品質を保たなければなりません。当社の部品は一体塗装の高い技術で、見た目も美しく、耐久性も高いことが特徴となっています。

ケミカル事業とは?

栗田:ケミカル事業についてご説明します。大きく4つの領域があります。1つ目のモビリティでは、自動車用の樹脂原材料や機能材料などを部品メーカーに納めています。半導体やLED向けの材料なども、モビリティに含まれます。

ファインケミカルでは、医療品や化粧品の原材料などを取り扱っています。ライフサイエンスは、樹脂原料や添加剤などが中心で、食品、住宅関係、医療関係など幅広い顧客を持っています。

そして、ものづくりと呼んでいる領域は商社の中でも製造機能を持つ分野です。中心となるのが高機能フィルムで、医療用の点滴バッグや、ハムやソーセージの包装フィルムなどに使用されています。

荒井沙織氏(以下、荒井):ケミカル事業には幅広い分野が含まれていますが、御社が高いシェアを誇っている製品はどれですか?

栗田:特定のシェアというよりは幅広い範囲で多種多様な商材を取り扱っていることが特徴です。特に利益率の高い製品としては、独自の製造技術で開発した、食品向けおよび医療向けのフィルムがあります。

荒井:そのフィルムというのは具体的にどのようなものですか?

栗田:食品向けにはパッケージ用の透明なフィルムがあります。また、医療向けでは点滴バッグ、輸液バッグのフィルムを作っています。このフィルムの特徴としては、輸液バックの中が複数室に分かれており、手で圧力をかけてパチッと合わせると、中の液体がその場で混ざって、1つにできるという技術を持っています。

グループシナジー1

栗田:自動車部品メーカーと化学商社の2つの事業をご説明しましたが、両社を併せて持っているところが、森六グループ独自の強みだと考えています。いわゆるシナジー効果です。

自動車部品を作ろうとした場合、さまざまな原材料を開発・調達するところから始まります。ベースとなるのは樹脂で、ここに用途に応じた添加剤を加えていきます。

例えば、「弾力性がある」「紫外線に強い」など、その部品に求められる性質を考えて、いろいろな添加剤を配合していきます。この配合する技術のことを、コンパウンド技術と呼んでいますが、ここに森六ケミカルズのノウハウが活きてきます。

材料が揃ったら、次は森六テクノロジーの出番です。森六テクノロジーでは、この原材料を熱で溶かして成形していきます。この後、表面にフィルムを貼ったり、塗装したり、あるいは組み立てを行ったりして、自動車メーカーに出荷していきます。このように、自動車部品を原材料レベルから一貫して提案および商品化できることがグループとしての強みになっています。

グループシナジー2

栗田:環境材の取り組みについてもご紹介させてください。プラスチックによる環境汚染が社会課題となり、多くの企業が再生プラスチック・バイオプラスチックなどの研究を進めています。

森六グループでも、自然由来の廃材を混ぜ込むことで、樹脂の使用量を削減するための研究を進めています。籾殻や卵の殻、間伐材などさまざまなものを試していますが、当然、ただ混ぜるだけではだめです。自動車部品には、衝突に耐えうる安全性や、暑さ・寒さにも耐えうる耐候性など厳しい条件が求められます。

当社グループでは、森六ケミカルズの化学の知見と森六テクノロジーの量産実績を活かして、素材の調合や設計、生産方法などさまざまな点からアプローチを重ねています。両事業会社のシナジーを発揮し、スピード感を持って環境材の実用化を進めることで、社会課題への解決に貢献していきたいと考えています。

ホンダとの信頼関係

栗田:少し視点を変えて、森六グループとホンダの関係性についてお話ししたいと思います。スライド左の写真は、ホンダの代表的なグローバル戦略車である「アコード」のセンターコンソールで、私どもが長年受注し続けている製品の1つです。

森六は、ホンダに対して提案型の開発を行っています。例えば、昔はCDが主流であったため、コンソールにCDが何枚収納できるかが非常に重要なポイントでした。今はCDに代わってスマートフォンで音楽を再生するため、USBポートやワイヤレス接続機能が備わっています。カップホルダーについても、缶コーヒーからコンビニのカップコーヒーが主流になれば、形を進化させる必要があります。

当社では、車が市場に出る前から、そのような提案を行っています。言われたものを作るだけでなく、変化を先取りして提案し、「クルマづくり」のパートナーとなることが長年の信頼関係につながっていると考えます。

なお、当社では、日本はもちろんのこと、北米、中国、タイに研究開発拠点を設けており、現地のニーズに沿った提案を可能にする体制を構築しています。

栗田:スライド右の写真は、ホンダ初の国内向けEV「Honda e」ですが、内装・外装において数多くの部品を当社が受注しています。ホンダ初の国産EVで、多くの部品を採用していただいたのは信頼の証でもあり、今後のEVを中心とした受注活動においても、大きなアドバンテージになると考えています。

他の自動車メーカーへの拡販1

ただし、ホンダ一本足打法では当然リスクもありますので、他の自動車メーカーへの販売拡大にも力を入れています。当社のメキシコ工場は、フォルクスワーゲン向けの専用工場となっており、国内では日産自動車向けの部品供給も行っています。昨年発売された日産のEV車「ARIYA」の充電ポートカバーは、当社が納めている部品です。

増井:今後、自動車メーカー拡販に注力するとのことですが、そうすると多品種生産をしていかなければならないかと思います。材料や部品の共通化などは可能なのでしょうか?

栗田:OEMによって、デザインの考え方に違いがあるため、部品の共通化は非常に難しいです。ただし、同一OEMであれば、他車モデルの同等部品の流用や、効率化を図った設計デザインを行っています。

他の自動車メーカーへの拡販2

栗田:他の自動車メーカーへの販売拡大としては、森六グループ初となるトヨタ自動車への部品供給も決定しました。「世界のトヨタ」に、当社の技術と品質が認められたことを大変うれしく思います。ホンダとの関係も強化しつつ、取引先の多様化を進めています。

増井:今後もトヨタとの取引が増えていくとのことですが、部品供給が決定した背景についてうかがいます。サプライヤーコンペティションで選ばれるという話も聞くのですが、御社の場合はどのような背景で決まったのか、また今後どのように拡大していくのかを教えてください。

栗田:トヨタとは、ケミカル事業で材料を提供するなど、Tier2としての納入実績はありましたが、直接納入はありませんでした。工場を見ていただくなど、長年の交渉を続けた結果、ようやく取引開始が認められました。

部品の採用理由としては、品質、コスト、デリバリーのQCD、また開発能力を評価していただいたと考えています。引き続き、製品開発や提案力を強化していくことによって、受注拡大に取り組んでいきます。

増井:新しい取引先が増えるにしたがって、ホンダとの関係が変わっていく懸念はないのでしょうか?

栗田:既存顧客との関係には、まったく影響はないと考えています。昨今、いろいろなOEMがいろいろなサプライヤーから供給していただくことにより、考え方を多種多様にしていっています。例えば、日本国内のみならず、ヨーロッパのサプライヤーが日本に供給することによって、いろいろな可能性が拡大されていくと思いますので、特に懸念事項とは考えていません。

増井:信頼関係もますます強化されていくということですね。

栗田:はい、グローバルに考えていきたいと思います。

第13次中期経営計画の骨子

栗田:成長戦略についてご説明します。当社グループは、2022年5月に第13次中期経営計画を発表しました。その骨子は、樹脂加工製品事業とケミカル事業の2つの既存ビジネスを拡大強化しながら、現在保有する資本や強みを活かせる領域で、第3の柱となる新規事業の創出を目指すというものです。

次世代車の価値向上1

栗田:それぞれの事業について、具体的な取り組みをご紹介します。樹脂加工製品事業では、次世代に向けた価値向上に取り組んでいます。みなさまもご存じのとおり、EV化は自動車業界全体の大きな流れですが、エンジン部品だけでなく、車の見た目や車内の過ごし方なども大きく変化しています。

例えば、車のフロント部分には、ラジエーターグリルと呼ばれる部品があります。この部品は車の顔でもありますが、隙間から風を入れてエンジンやラジエーターを冷やす役割もあります。これがEV車になると、発熱量が少なくなりますので、この冷却口としての機能は不要となります。

そうすると、フロントグリルは多彩なデザインが可能となり、当社の技術を応用すれば、無限のバリエーションをもたらすことができます。多層成形と呼ばれる複数の樹脂を重ねて成形する技術に、フィルムでの加飾や照明を融合させることで、EVらしい先進的なデザインに貢献することが可能です。

次世代車の価値向上2

栗田:自動運転が進化すると車内はどう変化するのでしょうか? これまでは、運転のしやすさ、操作性が重視されていました。しかし、自動運転が進化し、座っていれば目的地に到達するようになると、内装への期待値も変わってきます。

ここで出てくるのが、自宅でくつろぐ雰囲気を実現する「車内のリビング化」という新たなニーズです。当社の技術を用いれば、このリビング化にも新たな価値の提供が可能です。

スライドの写真は、当社で製作したコンセプトモデル「2Way リビング コンソール」です。停車時にはフルフラット化して、自由にテーブルとして利用することができます。ドリンクホルダーやアームレストなど、コンソールに必要な機能は、必要な時にセンサーもしくは自動的に出現させることで、くつろぎと使い勝手の両立を実現しました。

製品の特徴をイメージしやすいよう、簡単な動画を用意しましたので、ご覧ください。

(動画が流れる)

動画をご覧いただき、当社の取り組みがご理解いただけたかと思います。

他社との協業による競争力の強化

栗田:このような技術をすべてイチから開発して手の内化することは、時間もお金もかかりますし、当社の規模ではなかなか難しいです。そこで、当社に足りない要素、例えば電子制御技術やシステムインテグレーションコーディネートなどを補完できるような、パートナー企業との協業も積極的に活用しています。

先ほどの「2Way リビング コンソール」は、東海理化に技術協力をいただきました。東海理化はトヨタ系で、主にスイッチやセンサーなどを扱っています。

また昨今、スペインの自動車内装部品大手であるアントリンとも、共同開発に向けた協定を締結しました。アントリンは、メルセデス・BMW・ルノーなど、欧州メーカーへ部品供給を行っています。それぞれの強みを活かして、効率的にスピード感をもって開発を進め、顧客への提案力の向上と、新規顧客拡大へとつなげていきます。

グローバル事業の拡大

栗田:ケミカル事業の成長戦略をご説明します。1つ目は、グローバル事業の拡大です。近年、拠点を新設したインドやベトナムを中心に、今後も成長が期待されるASEAN地域での事業拡大に注力していきます。

ASEANには、樹脂加工製品事業の生産拠点も複数あるため、原料調達から製品化まで一貫して手がけられる強みをPRし、受注拡大を狙っていきます。また、食品・香料・化粧品原料などの分野で、原材料と包装材のセット提案など、シナジー効果を追求していきます。

ものづくりによる付加価値向上

栗田:2つ目は、ものづくり事業の拡大による付加価値向上です。高機能フィルムの製造・販売を行う四国化工では、2020年に最新設備を導入した新工場が稼働を開始しました。その後も無人搬送機を導入するなど、自動化の範囲を拡大し、生産体制の強化を図っています。

化学品の受託合成を行う五興化成工業では、設備の更新により、従来ではできなかった化学合成にも対応できるようになったほか、研究開発機能を強化し、オリジナル製品の開発に挑戦する計画です。ものづくり事業の強化により、単なる商社にとどまらない付加価値の高いビジネスモデルへと変革を進めていきます。

新規事業の創出

栗田:新規事業の創出に向けては、パートナー企業、産学連携、M&Aなど、外部リソースを積極的に活用しています。その一環として、ベンチャーファンドに対し、総額20億円の出資を行いました。

また、ファンドを通じて交流を深めてきたスタートアップ企業で、総合的な菌ケアサービスを展開する株式会社KINSへの出資を実施しました。今後は、KINSとのパートナーシップを構築し、ヘルスケア事業のさらなる拡大に取り組んでいく計画です。

増井:新規事業について、最初は総合商社のようなかたちで出資し、経営に関与していくのが中心なのでしょうか?

栗田:KINSのような出資を通じたパートナーシップに加えて、両社の強みを活かした事業シナジーの追求も考えています。原材料の提供や、化粧品パッケージの提案など、今後さまざまなシナジーが考えられるため、成長戦略の1つとして推進していきます。その場合、人・モノ・お金と、すべてのかたちで進めていきたいと考えています。

増井:社員もそちらにシフトしていくということですね。

栗田:おっしゃるとおりです。

森六グループの新体制

栗田:当社の新体制についてご紹介します。当社は、主要な事業会社2社を統合し、事業持株会社体制に移行することとしました。商号も、「森六ホールディングス」から「森六株式会社」に変更します。統合により、グループシナジーの強化に加えて、研究開発や新規事業のスピードアップを図り、当社グループの中長期的な成長、企業価値の向上につなげていきます。

2024年3月期第2四半期の業績

栗田:足元の業績についてご説明します。2024年3月期第2四半期の実績です。

樹脂加工製品事業はここ数年、新型コロナウイルス感染症の拡大や半導体の供給不足などにより厳しい状況で推移していましたが、今期は日本、北米、アジアで台数の回復と生産の安定化が進みました。一方、中国では急激にEVが普及したことで、日系自動車メーカーが販売不振に陥り、在庫調整による減産が続きました。

前期のケミカル事業はサプライチェーンの混乱などによって荷動きが活発でしたが、今期は落ち着いた状況で推移しました。

連結では樹脂加工製品事業の回復により、売上高669億円、営業利益10億円、経常利益15億円、四半期純利益9億円と、期初計画を上回る実績となりました。

2024年3月期通期 業績予想

栗田:通期の見通しについてです。上期実績や為替レートの見直しなどを考慮し、期初予想を上方修正した結果、売上高1,480億円、営業利益45億円、経常利益45億円、最終利益26億円を予想しています。

自動車生産では、下期に向けてさらに回復が進むことを期待しています。原材料やエネルギー価格は高止まりではあるものの、顧客との交渉による市場影響の価格転嫁や合理化による改善施策を重ね、収益最大化に努めていきます。

株主還元方針の見直し

栗田:株主還元についてです。当社は、2023年11月に株主還元のさらなる拡充を目的とした株主還元方針の変更を行いました。

これまでも、安定的かつ継続的な配当を基本方針としていましたが、その姿勢をより明確にするため、自己資本配当率(DOE)を配当指標に採用しました。2024年3月期からはDOE2.2パーセントを目処に配当を実施し、将来的にはDOE3.0パーセントを目指します。

増井:DOEの目標を3.0パーセントにした背景と達成時期について教えてください。

栗田:当社では「2030年ビジョン」を作成し、長期的な目標を定めています。その過程として超えるべき数値から逆算し、DOEの目標を3.0パーセントに設定しました。現時点では達成時期に関する回答は控えますが、再来年から始まる中期計画の中で明確にしていこうと考えています。

増井:では、来年あたりに策定するということですね?

栗田:そのとおりです。

配当の推移

栗田:配当金の推移です。今期は50円の中間配当を実施しており、期末配当50円、年間配当100円を予想しています。

自己株式の取得と消却

栗田:配当以外に、自社株買いも積極的に行っています。2021年から2023年にかけて総額30億円の自社株買いを行い、その75パーセントの消却を実施しました。今後も機動的な自己株取得と消却により、さらなる株主還元の充実に努めていきます。

サステナビリティ重要課題

栗田:事業の成長とともに、当社が重視しているサステナビリティについても少しお話しします。サステナビリティ推進にあたって、社長直轄のサステナビリティ推進室を設置し、本格的な取り組みを開始しています。森六グループと社会にとっての重要課題を特定し、これらの課題を経営計画に反映することで各施策の展開を加速しています。

気候変動問題への対応

栗田:中でも気候変動への対応を最重要課題と位置づけ、事業を通じて排出される温室効果ガスの削減と再生可能エネルギーの利用促進にグローバルで取り組んでいます。2022年度は、合計6ヶ所のグローバル工場で太陽光パネルの設置やCO2フリー電力を導入したほか、省エネ設備への切り替えを行いました。鈴鹿工場では消費電力の100パーセントのカーボンニュートラルの実現をしているほか、北米工場では風力発電の導入も予定しています。

当社グループは、2030年までに温室効果ガスを2019年度比で50パーセント削減し、再生可能エネルギーの導入比率を55パーセントとする目標を掲げています。2022年時点では、温室効果ガス26パーセントの削減と再生可能エネルギー導入率24パーセントを実現しています。今後も、2030年の目標達成に向けて活動を継続していきます。

経営理念

栗田:当社の経営理念は「未来を先取りする創造力と優れた技術で、高い価値を共創し、時を超えて、グローバル社会に貢献する」です。

森六グループは400年目に向けてこれからも歩みを進めていきますので、みなさまに長期的に応援していただければ、大変うれしく存じます。以上で、私からのご説明は終了します。

質疑応答:PBR1倍に向けた取り組みの内容について

増井:「PBR1倍に向けてどのような取り組みをしているか教えてください」というご質問です。

栗田:こちらについては、みなさまも非常に興味をお持ちだと思いますし、当社も一丁目一番地で進めています。まずは、当社の利益水準をコロナ禍前の状態に戻すことが先決です。

そして、中期計画で掲げたROE9.1パーセントの早期達成が経営の最重要課題であると認識しています。また、株主還元のさらなる充実や非財務情報も含めた情報発信の強化など、IR活動を積極的に推進し、中長期的な企業価値の向上を推進していきます。

増井:利益水準を戻すというお話ですが、原材料価格の上昇などが影響しているのでしょうか?

栗田:おっしゃるとおりです。原材料価格だけでなく、電気、ガス、水道など光熱費の値上がりが非常に大きいのですが、ここに来て賃金の上昇なども起こっています。ただし、OEMにもそのあたりはかなり考慮していただいていて、以前とは違い、価格転嫁を認めていただける状況ですので、OEMと協力しながら、販売価格に見合った良いものを作る努力を続けていきます。

質疑応答:中国でのEV需要拡大による減産への対応について

荒井:「中国ではEV需要拡大などにより減産となっているかと思いますが、足元ではどのように対応しているのでしょうか?」というご質問です。

栗田:先ほどもご説明しましたが、中国でのEV需要拡大によって日系のOEMが非常に苦戦している状況ではあります。現在、当社だけで今後の見通しを立てることは非常に難しい状況ではありますが、タイムリーに適切な対応ができるよう、状況を慎重に注視しています。当面は中国以外の拠点である、北米や現在成長しているインドなどASEANでも同じ品質の製品を作ることができるため、そちらでカバーしていこうと考えています。

質疑応答:今後のEV戦略について

増井:「今後のEV戦略についてどのようにお考えでしょうか?」というご質問です。

栗田:車の電動化においては、走行距離の問題から車重の軽量化は避けられない課題です。当社が使っている鉄より比重の軽い樹脂には大きなアドバンテージがあり、ビジネスチャンスはまだあると考えています。先ほどご紹介したEVらしいフロントグリルレスの外観およびリビングコンソールなど、当社の技術を応用できる分野も多いと考えているため、EV化はチャンスであると考えています。

増井:鉄よりも軽いものにはアルミやカーボンなどもあると思いますが、御社の樹脂にはアドバンテージがありますか?

栗田:樹脂はアルミやカーボンよりも安いです。また、金型を作る必要はあるものの、フレキシブルにデザインできます。高級車に対応する場合はアルミを使っているものやカーボンを使っているものもありますが、現在はバージン材が高いため、それらをいかにリサイクルして使用するかについても考えながら進めているところです。

質疑応答:創業地である徳島県との関係性について

荒井:「創業は徳島県とのことですが、現在も拠点など、なにか関係性はあるのでしょうか?」というご質問です。

栗田:徳島県は温暖な気候で住みやすく、非常に良いところだと思います。現在は森六ケミカルズの四国支店があり、化学品の販売を行っています。また、森六アグリという子会社があり、肥料や飼料の卸売を行っています。こちらは、現在も非常に重要な拠点の1つです。

ご存じのように、徳島県は阿波おどりが非常に有名です。ここ数年は新型コロナウイルスの影響によりできていませんが、当社も「森六連」を出しており、私も何度も参加させていただきました。そのような意味でも、四国は非常に重要な拠点です。

荒井:では、今後も創業の地である徳島県の拠点は大切にしていくということですね?

栗田:はい、おっしゃるとおりです。

増井:御社はメーカーのイメージになってきていますが、卸売もしているということで、もともとは商社なのですよね。

栗田:もともとは商社です。

荒井:現地での採用も担っている部分ではないかと思います。

栗田:はい、そのとおりです。ぜひ阿波おどりにもいらしてください。

質疑応答:製造拠点の国内回帰について

増井:「円安を受け、製造拠点の国内回帰などは検討していますか? 差し支えない範囲で教えてください」というご質問です。

栗田:為替変動や地政学的リスクによるサプライチェーンを考える必要はありますが、先ほどもご説明したとおり、当社グループとしては基本的に極力現地で作っていく考えです。一方で、常にどこでも同じ品質のものを作れる体制を作っておくことにより、さまざまなリスクに対応できるようにしています。

質疑応答:国内外からの協業に関する問い合わせ数について

荒井:「他社との協業について質問です。公表されている企業以外の、国内外からの問い合わせはどの程度あるのでしょうか?」というご質問です。

栗田:今年は、名古屋と横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展」へ出展しました。先ほどのセンターコンソールやフロントグリルなども展示したのですが、車の業界はもとより、他の業界からも「この技術を使えないか?」という問い合わせをいただいています。現時点では具体的な社名を公表することはできませんが、案件が具体化してきた際には、みなさまに公表したいと考えています。

荒井:楽しみにしています。

質疑応答:今後の自動車メーカーに対する販路拡大について

荒井:「ホンダ一本足打法からトヨタや他の自動車メーカーのEVへと販路を広げていますが、テスラやBYDなどの自動車メーカーに対する販路拡大は考えていますか?」というご質問です。

栗田:もちろん考えています。しかし、テスラやBYDなどは車の専業メーカーではないため、まずは足元を十分に固めた上で、そのような新しいところへもチャレンジしていこうかと考えています。

栗田氏からのご挨拶

栗田:みなさま、本日は当社のご説明を聞いていただきありがとうございました。森六グループの歴史は長く、これからも歴史を作っていこうと考えていますので、400年目に向かってご協力をよろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました。

当日に寄せられたその他の質問と回答

当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。

<質問1>

質問:革製品に関し、非アニマル由来の原料を使うという流れで多くの問い合わせを受ける企業があります。スライド13ページでご紹介のあった環境材の実用化の反響は、通常よりも大きなものがあったでしょうか?

回答:当社では環境材の実用化に向けた研究開発を行っており、横浜と名古屋で開催された「人とくるまのテクノロジー展」に出展しました。

その際、環境材を使用したセンターコンソールが多くの来場者に注目され、パーツの完成度と技術力が高く評価されました。

<質問2>

質問:現在90パーセントあるホンダ向け売上構成比は、将来的にどの程度まで下がると思われますか?

回答:ホンダの売上が大きいため、他の自動車メーカーへの拡販による売上構成比率の影響は軽微であります。当社としては、売上構成比率より、絶対額を伸ばす方針で進めてまいります。

<質問3>

質問:「会社四季報」に掲載の2025年3月期営業利益予想は70億円となっていますが、どのように思われますか?

回答:中国EV車市場の需要拡大に伴い、現在の顧客の生産回復状況は不透明です。しかし、中国を除き、2023年度下期から生産台数が改善しており、将来に向け最大限の利益を確保するため、生産効率の向上とコスト削減に注力していきます。

業績予測について、現時点での回答は差し控えさせていただきます。

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