ペットボトル容器に入った、「缶コーヒーじゃない『BOSS』」登場
サントリー食品インターナショナル(2587)は2017年3月15日、缶コーヒー『BOSS(ボス)』の新たなラインナップとして、『クラフトボス』シリーズを展開し、その第1弾として『クラフトボス ブラック』を4月4日から、第2弾『同 ラテ』を6月13日から全国で発売すると発表しました。
大きな特長は「缶コーヒーの『BOSS』」というキャッチフレーズで知られるにもかかわらず、新商品を缶ではなくペットボトル容器で発売することです。
同社では、「缶コーヒーじゃない『BOSS』」について、「缶コーヒーやボトル缶コーヒーに馴染みがない“第3世代”の働く人に向けた新シリーズ」と表現。さらに、中身についても、「時間をかけて少しずつ飲むことを想定し、満足感がありながらも、すっきり飲み続けられる味わいを実現」したとしています。
飲み方までを示しPRする背景には、以下のように、缶コーヒーメーカーにとって背に腹はかえられない状況があります。
コーヒーの需要が伸びる一方で、缶コーヒー市場は横ばい
全日本コーヒー協会の統計によると、2016年のコーヒーの国内消費は47万2,535トンで、5年連続で増えています。その一方で、缶コーヒー市場は横ばいといったところです。
では、コーヒーはどこで飲まれているのでしょうか。まずはコーヒーショップです。『ドトールコーヒー』/ドトール・日レスホールディングス(3087)、『スターバックス』、『タリーズコーヒー』/伊藤園(2593)、『サンマルクカフェ』/サンマルクホールディングス(3395)、『コメダ珈琲』/コメダホールディングス(3543)などがシェア上位陣です。
あまり知られていませんが、実は『エクセルシオール カフェ』、『カフェ マウカメドウズ』、『コロラド』、『星乃珈琲店』も、ドトール・日レスホールディングスのブランドです。
これらの大手チェーンに加え、最近ではハンドドリップを売りにした“サードウェーブ”と呼ばれるコーヒーショップの人気も増しています。
また、「コンビニのコーヒーがおいしくなった」と話す人が増えています。100円程度の低価格で淹れたてのコーヒーが飲めるとあって人気となり、コンビニ各社はいずれも「おいしいコーヒー」をアピールし、缶コーヒーのみならず、コーヒーショップなどの市場を脅かすまでになっています。
このほか、ネスレ日本の、コーヒーマシン『ネスカフェ ドルチェ グスト』や『ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ』などの登場で、オフィスや家庭でのコーヒーの飲まれ方も大きく変わりました。
缶コーヒーの新たな購買層を開拓できるか
ところで、缶コーヒーの主要なターゲットはどのような層か知っていますか。実は缶コーヒーをよく飲むのは、建設業・製造業などやトラック運転手など、体を使う労働者です。
缶コーヒーのシェアは、日本コカ・コーラの『GEORGIA(ジョージア)』が首位で、サントリーの『BOSS』、アサヒ飲料の『ワンダ』などが続きます。
ちなみに、『BOSS』は、1992年に誕生しましたが、それ以前のサントリーの缶コーヒーの主力ブランドは『WEST(ウエスト)』でした。新ブランドを生み出すにあたり、コンセプトを「働く人の相棒」とし、男性労働者があこがれる「ボス」というネーミングにしたことがヒットにつながったのです。
ただし、市場環境も変化しつつあります。『BOSS』が登場して以来25年になりますが、この間に、建築業や製造業に就業する人の数が大幅に減少しています。国土交通省の資料によると、建設業就業者数(平成27年平均)は500万人で、平成9年のピークから約27%減となっています(注)。
高齢化による退職者の増加で、今後はさらにそれが加速することになります。黙っていては市場が縮小するだけです。
今回の「缶コーヒーじゃない『BOSS』」の登場はまさに、このような状況下で、従来のボリュームゾーンに替わる新たな層を開拓するための挑戦と言えます。その意味では、『BOSS』だけでなく、缶コーヒー市場全体としても、その行方が注目されるところです。
注:国土交通省『建設業を取り巻く情勢・変化 参考資料(平成28年3月2日)』
下原 一晃