3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)が14日から2日間の予定で開かれます。利上げは既定路線となっていますが、なぜ利上げを急いでいるのかは謎のままです。仮定の多い話になってしまいますが、FRBが利上げを急ぐ理由を探ってみましょう。

利上げ確率は89%、年内3回を織り込み中

まず3月10日現在のフェドウォッチを確認すると、今回のFOMCでの利上げ確率は89%となっています。70%が利上げの目安とされていますので、ほぼ確実と言えそうです。

3月に利上げが実施されたと仮定して、次回利上げが6月に実施される確率は53%、9月だと75%です。12月までに3回以上の利上げが実施される確率は63%まで上昇していますが、まだ70%には届いてません。

したがって、市場では3月と9月のFOMCでの利上げを織り込んだ上で、12月に3回目の利上げがあるのかどうかを探っている模様です。

経済指標からは利上げを急ぐ必要性は伺えない

イエレン議長を始めとする多くのFRB関係者は、これまで「緩やかなペースでの利上げが適切」と繰り返し発言してきましたが、最近になってイエレン議長を含むFRB関係者は「早期利上げが適切」との見方で見解を一致させています。

ただ、こうした変化に違和感があることは否めません。利上げの判断は“今後の経済指標次第”としていたにもかかわらず、経済指標をみる限りでは利上げを急ぐ理由が見当たらないからです。

実際、ドル高で貿易赤字が膨らみGDPを押し下げているほか、景気の柱である個人消費も1月はインフレ調整後の実質で前月比0.3%減と2009年9月以来で最大の落ち込みとなっています。

インフレ率を見ても、1月の消費者物価指数(CPI)は変動の激しいエネルギーと食品を除くコア指数が前年同月比2.3%上昇と、過去1年のトレンドから上振れているわけではありません。賃金の伸びが抑制されていることを踏まえると、インフレ率が加速する恐れがあるとは考えづらい状況と言えます。

狙いは“ルールベースの金融政策”導入の阻止?

経済的な要因ではないとすると、政治的な要因が影を落としてきます。

FRBでは7人の理事のうち現在は2人が空白となっており、4月にはタルーロ理事が退任することで空席は3人となります。また、イエレン議長が来年2月、フィッシャー副議長も来年6月にそれぞれ議長・副議長としての任期満了を迎えます。

トランプ大統領はイエレン議長の“再任はない”と公言していますので、今後1年でFRBの執行部が大きく入れ替わる可能性があるわけです。

こうした状況のなかで注目されているのがFRB改革法案の行方です。共和党はFRBへの監督強化とともに、ルールベースでの金融政策運営の義務付けを主張しています。

ルールベースとは、政策金利をある特定のルールに機械的に当てはめて決定することを意味しており、具体的にはテイラー・ルールが基本的な枠組みとして想定されている模様です。

もちろん、FRBはこれまで通り裁量的な金融政策決定のプロセスを望んでおり、対応を迫られているわけです。

積極的な利上げは共和党へのアピール?

トランポノミクスでの財政出動がどの程度の規模となるのかに注目が集まるなか、3月15日には米連邦債務上限の適用停止期間が終了します。時を同じくして、3月16日には予算教書が発表される見通しとなっています。

共和党は伝統的に小さな政府を望んでいることから、減税には賛成ですが財政支出の拡大には反対というのが基本的なスタンスになります。しがたって、トランプ大統領と共和党は債務上限の引き上げと予算審議の過程において何らかの形でお互いに譲歩する必要があると考えられます。

一方、FRBが“財政を拡大するなら金融を引き締める”とのスタンスを明確に示すことは、トランポノミクスにおける財政拡大路線をけん制するという意味では、共和党寄りのスタンスと言えます。

さらに、タカ派的なポーズをとることで、裁量的な金融政策であってもインフレやドル安を招く恐れがないことを共和党に示すこともできます。共和党はインフレやドル安により支持基盤である富裕層の資産価値が低下すること問題視しており、それがルールベースの金融政策を主張する背景となっています。

以上のような状況を踏まえると、FRBはトランプ政権の拡張的な財政政策に釘を刺すことで共和党と共同歩調を取る一方で、ルールベースの金融政策の導入に関して共和党からの譲歩を引き出し、幅を持たせることで玉虫色の決着に持ち込むというストーリーが見えてきます。

また、FRBの議長や理事の任命には議会承認が必要ですので、共和党に歩み寄ることで、イエレン議長の再任を拒否しているトランプ大統領の意向を覆すことも可能となるかもしれません。

いずれにしても、FRBがこれまでの慎重姿勢から態度を急変させ、なぜ利上げを急いでいるのかについてはウォール街の市場関係者の間でも“謎”とされていますので、政治的な思惑も排除せずに、幅広く可能性を探る必要があるのかもしれません。

LIMO編集部