日本一のFinTechスタートアップ企業が集積するFINOLABが2017年2月よりセカンドステージに突入した。FINOLABの拠点は引き続き大手町に拠点を構えるものの、これまでの東京銀行協会ビルから大手町ビルに移転、フロアも拡大した。

今回はFINOLABのファーストフェーズの振り返りとセカンドフェーズの狙いについて、運営三社(三菱地所、電通、ISID)を代表して、発起人でありコミュニティ運営責任者であるISIDの伊藤千恵氏に、そして、FINOLABに今般“Mizuho Creation Studio(以下、MCS.io)”を開設するとともに、FINOLABのメンター役「FINOVATORS」でもある株式会社みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)の大久保光伸氏にMCS.io開所の狙いを伺った。

読者に伝えたい3つのポイント

  •  FINOLABのファーストフェーズにおける狙いはFinTechのエコシステムとして存在感を示すこと。
  •  セカンドフェーズではFINOLABに参画するスタートアップ企業と具体的な計画を持った企業とが共同で実証実験や研究開発を推し進める。
  •  スタートアップにはFINOLABのエコシステムを活用してもらい最終的には参画する前よりもさらに大きなステージに挑戦して欲しい。

FINOLABのセカンドフェーズは何が新しいのか

――まずは伊藤さんにお話を伺います。いよいよFINOLABがセカンドフェーズへ進みます。これまでとは何が変わるのでしょうか。

ISID 伊藤千恵(以下、伊藤):FINOLABを立ち上げる当初は一体どれくらいのスタートアップが参画してくれるかは正直わかりませんでした。しかし、おかげさまで2016年11月末では36社が参加してくれました。財産ネット、Alpacaなど、既にFINOLABを卒業し、より大きなオフィスを構えたスタートアップも輩出し、ファーストフェーズにおける狙いでもあった「FinTechのエコシステムとして存在感を示す」という役割は果たせたのではないでしょうか。

ファーストフェーズでは多くの金融機関、事業法人などがFINOLABのコンセプトや参画しているスタートアップに興味を持ってくれたのではと思います。国内外から多くの見学や面談も受け入れてきました。セカンドフェーズではより具体的な新規事業開発の成果を出せるようにしていきたいと考えています。

ISID 伊藤千恵氏

電通国際情報サービス 金融事業開発部 部長 Head of FINOLAB

FINOLABスタートアップ×目的が明確な大企業

――「具体的な新規事業開発の成果」とはどのようなものでしょうか。

伊藤:セカンドフェーズではFINOLABに参画するスタートアップ企業と具体的な計画を持った企業とが共同で実証実験や研究開発を推し進めていきます。

2017年2月1日オープニング時点のスタートアップ会員は32社、企業会員は5社です。企業会員に関しては、みずほFG様、静岡銀行様、農林中央金庫様、富士通様、全日空商事様の予定です。

みずほFG様はFINOLAB内にラボ施設を設置し、2月からIoT決済プラットフォームのR&D(Research and development:研究開発)と3件のPOC(Proof of concept:概念実証。新しい概念や理論などが実現可能であることを示すための試行)を開始する予定です。みずほFG様のBank APIを活用し、その開発環境においてFINOLABのスタートアップがともに新たな金融サービスを生み出すべくプロジェクトを進めていくことになります。

また、全日空商事様とは地方創生×FinTechというテーマでの研究開発プロジェクトを検討しています。

みずほFGがインキュベーション機能をFINOLABに立ち上げ

――次に大久保さんにお話を伺いたいと思います。今回みずほFGはメガバンクとして初めてFINOLAB内にインキュベーション機能を立ち上げました。その狙いについて教えてください。

みずほFG 大久保光伸(以下、大久保):今回 “Mizuho Creation Studio(MCS.io)”をFINOLAB内に開設した背景は大きく3つあります。

一つ目にはみずほ銀行のAPI(Application Programming Interface)を活用してオープンイノベーションを活性化させたいとの狙いがあります。FINOLAB内にはFinTechに関係する様々な企業が入居しています。私どもが入居し、彼らとともに新規ビジネスを創出できたらと考えています。

二つ目の狙いは、アジリティ(機敏さ)を追求することです。金融機関と大手のIT企業が何か新しいものを作り出そうとすると、打ち合わせための準備や調整など、どうしても時間がかかるケースを数多く見てきました。FINOLAB内に拠点を構えることで、そうしたプロトコルを省き、新しいものを生み出すサイクルを早めたいと考えています。たとえば、新しいアプリができた時には、入居している企業様にすぐに利用していただき、フィードバックがもらえればよいですね。

最後の狙いとして、社会への貢献というとやや漠然としてしまうのですが、金融機関である私たちが積極的にテクノロジーを活用することでいわゆるRegTech(レギュレーションとテクノロジーの造語)領域においてもイニシアティブをとることができればと考えています。

みずほFG インキュベーションPT シニアデジタルストラテジスト  大久保光伸氏

――APIを提供することでどのようなサービスなどが展開されていくのでしょうか。

大久保:私たちはFinTechを活用した決済はIoT環境の中でこそ生きると考えています。その利用シーンは家(スマートホーム)であったり、車(コネクティッドカー)であったり、もしかしたら時計などの身に着けるデジタル機器(ウェアラブルデバイス)かもしれません。これまで私たちが日常生活で銀行や決済シーンと関わるといえば、ATM利用時や買い物をしている時といった限られたシーンであったかもしれません。今後はテクノロジーによって金融がよりシームレスになることで新しいライフスタイルを提案できればと考えています。

FINOLABと産業の接点

――FINOLABと様々な産業の接点が広がっているように見えます。今後FINOLABはどのような姿を目指すのでしょうか。伊藤さん、いかがでしょうか。

伊藤:FINOLABはFinTechを基盤とする厳選されたスタートアップが集結した会員制の「クラブ」というようなイメージが近いかと思います。そのクラブメンバーが様々なテーマに応じてFINOLAB内外の企業とコンソーシアムを組んで研究開発、実証実験、そして最終的には画期的な新商品や新サービスを展開していくという流れを創っていきます。現時点で予定されているテーマはBank API、地方創生、インバウンド観光、スマートシティ、そしてレグテック(RegTech)です。

FINOLAB発のイノベーションを活性化させるために

――FINOLABのスタートアップ会員と企業会員に期待するのはどのようなことでしょうか。

伊藤:スタートアップにはFINOLABのエコシステムを活用してもらい、最終的には参画する前よりもさらに大きなステージに挑戦して欲しいと思います。日本では米国と異なり、大企業がスタートアップを買収する例が多くありませんし、規模も小さいので、スタートアップにはIPOできるくらいのビジョンは目標として掲げてほしいですね。

また、FINOLABに入会を希望される企業会員とは、具体的な課題意識と目指す成果を共有したうえで活動計画を相談し、スタートアップとのマッチングをさせていただきます。そうすることでFinTech領域の日本におけるイノベーションも加速すると信じています。

――ここまで国内のお話が中心でしたが、FINOLABと海外との接点は今後どのように展開されるのでしょうか。

伊藤:今、FINOLABには6社(米国2社、韓国2社、英国1社、ラトビア1社)の海外スタートアップ企業が会員になっています。日本のスタートアップも国内だけではなくグローバルに展開していってもらいたいですね。セカンドフェーズではStone&Chalk(豪)やSuper Charger(香港)といった海外のFinTechインキュベータと提携していきます。これまで以上にグローバルネットワークを強化することでFINOLABから世界に技術やサービスを展開する“in-out”の発想を持ちつつ、世界の面白い企業が日本に展開するのをサポートする“out-in”にも取り組んでいきたいと思います。

――セカンドフェーズではさらに展開が加速していきそうで、ますます楽しみになりました。本日はお二人とも、ありがとうございました。

伊藤:2017年はFINOLABもスタートアップと外部企業との取り組みやその成果にこだわっていきたいと思います。引き続きサポートいただければ幸いです。ありがとうございました。

大久保:FINOLAB内のメガバンクグループとして社会的責任を感じつつも、積極的に様々な取り組みを進めていきたいと考えています。よろしくお願いします。

 

LIMO編集部