米国ではトランプ政権が1月20日にスタートし、公約の実現に向けて大統領令が矢継ぎ早に発表されています。日本でも“大転換”としてメディアを賑わせていますが、米国の政策転換で私たちの生活の身近なところにはどのような影響が及ぶのかをちょっと大胆に探ってみましょう。
大胆予測(1)米TPP離脱でお米も自由化?
トランプ大統領は公約通り、就任初日にTPPからの離脱を表明し、23日には大統領令にも署名して正式に離脱が決定しました。脱TPPは保護貿易主義の象徴のような扱いになっていますが、視点を変えると別の見方もできそうです。
TPPは確かに自由貿易協定なのですが、多国間協定であることから各国の利害が複雑に絡み合ってしまい、玉虫色の決着となっています。
たとえば、日本が輸入する牛肉には現在38.5%の関税がかけられていますが、TPPではこれを16年かけて9%に引き下げることにしていました。大幅な引き下げではありますが、9%の関税は残ります。また、日本はコメに対して実質的に日本に輸出することが不可能な高関税をかけていますが、TPPではこうした高関税が維持されることになっていました。
トランプ大統領は日本が米国産の牛肉に対して38%の関税をかけるのであれば、米国は日本から輸出される自動車にも同じ38%の関税をかけると主張しています。このように、米国がTPPを離脱するのは“米国にとって”不利だからであり、決して自由貿易を放棄したわけではありません。
米国がTPPからの離脱を表明したことで、今後は日米の2国間で自由貿易協定が締結される見通しです。米国の希望は関税の撤廃ですので、交渉が始まれば日米どちらがより保護貿易主義的なのか見えて来る可能性もあります。
ポイントは、米TPP離脱により牛肉やコメに対する関税撤廃の可能性が復活したことにあります。日本の消費者は牛肉やコメをより安く手に入れることができるかもしれません。
トランプ政権のTPP離脱は自由貿易から保護貿易への政策転換のように映るかもしれませんが、実は自由貿易のバージョンアップといった側面もあるのです。
大胆予測(2)パリ協定離脱で首都圏が水没?
トランプ大統領は1月24日、カナダから米メキシコ湾に原油を運ぶパイプラインの建設を推進する大統領令に署名しました。トランプ政権のエネルギー政策は、オバマ前政権の“環境保護”から“開発重視”へと転換しています。
地球温暖化は「オカルト級の嘘っぱちだ」と主張するトランプ大統領は、温暖化対策の国際的な枠組みである“パリ協定”からの離脱を表明しており、米国の離脱は破滅的な結果を招く恐れがあります。
パリ協定の目的は気温の上昇を抑制することにあり、気温の上昇で懸念されるのが海面の上昇です。海面がどの程度上昇するのかを予測するのは難しいのですが、2100年までに1m近くの上昇が見込まれており、一部では6m近く上昇する可能性も指摘されています。
ジオロジー・ドットコムによる海面上昇マップを見ると、1mの海面上昇でも広範な影響が確認でき、6m上昇した場合には日本の首都圏が壊滅的な状況になることがわかります。2017年生まれの人が平均寿命を迎える頃には、首都圏が水没しているかもしれません。
大胆予測(3)外食で日本語がうまく通じなくなる?
トランプ大統領は25日、メキシコとの国境に壁を築くように命じる大統領令に署名しました。さらに、27日には移民や難民の受け入れを制限する大統領令にも署名しています。
トランプ大統領は不法移民の強制退去を公約にしています。米国には1,100万人の不法移民がいると言われていますが、まずは犯罪歴のある300万人に退去を命じる方針です。
欧州では、英国が移民の受け入れを拒否してEUからの離脱を選択しており、移民の受け入れに難色を示す国は世界中に広がりつつあります。
一方、移民の受け入れに積極的なドイツでは、人口が増加しています。ドイツの人口は約8,200万人で死亡者数が出生数を上回る“自然減”の状態にありますが、自然減を大きく上回るペースで移民が流入していることで、人口が増加しているのです。
こうした中、日本では2016年10月末の外国人労働者数が初めて100万人を突破しました。少子高齢化に悩む日本ですから、アジアのみならず中南米やヨーロッパからの移民が労働力として重宝される時代が来ないとも限りません。
既にコンビニや居酒屋では外国人労働者が珍しくなくなっており、日本語がうまく通じなかったという話も耳にします。欧米での反移民政策は人口減少に悩む日本には追い風とも言えますが、こと日本語に関しては不便な思いをすることになるのかもしれません。
“大転換”は一時的な可能性に留意
トランプ政権が打ち出している政策には世界的なトレンドと逆行している場合もあり、私たちの日常生活にも大きな変化をもたらす可能性があります。
とはいえ、トランプ政権も永遠に続くわけではありまでんので、4年後の米国では再び民主党が政権を取り、またまた“大転換”が起きるかもしれません。したがって、大転換と言われている政策でもこれですべてが決まったわけではないことには留意すべきでしょう。
LIMO編集部