資産形成を始めたい、でも何に投資しよう?と迷っていませんか。日本株式は身近だけれど個別銘柄への投資に必要な専門知識や検討する時間がないという方、あるいは日本株式は投資対象としてそもそも魅力があるのか疑問だという方もいらっしゃるでしょう。
今回はそうした疑問を解消すべく、アセットマネジメント One 株式会社で日本に上場しているベンチャーや成長著しい企業を中心に調査と投資を行っている岩本誠一郎さんにお話を伺いました。
(編集部注)
アセットマネジメント One 株式会社は、2016年10月1日にみずほ投信投資顧問株式会社、DIAMアセットマネジメント株式会社、新光投信株式会社、みずほ信託銀行株式会社(資産運用部門)の統合により誕生。
読者に伝えたい3つのポイント
- 現在の注目テーマはIoT、FinTech、デジタル・マーケティング。長期的には、ロボット、VR(バーチャルリアリティ)、AR(仮想現実)、シェアリング・エコノミーなどのテーマを扱う企業の動きにも注目。
- 株式市場では中小型株のバリュエーションが調整しているが、2017年にかけて株式相場で改めて中小型株が評価されてくる可能性あり。
- 投資にあたっては、年間のべ3,000社の会社訪問から積み上げた投資テーマ、投資対象選別のためのスコアリングから判断。こうした取り組みが好パフォーマンスファンドを生み出している。
日本株に投資するメリットとは
―――ズバリ、そもそも今、日本株に投資をするメリットはあるのでしょうか。
アセットマネジメント One 株式会社 岩本誠一郎(以下、岩本):そこは「何に投資するか」ですよね。日本の名目GDP成長率は年率2%を目指しているくらいですから、マクロ経済の影響を受けそうな会社―たとえば事業規模の大きな会社だけに投資するならリターンをそれほど期待できないのでは、と考えるのも仕方ありません。
ただ、日本には今はまだ事業規模が小さいけれども利益成長率が高い企業が多いですし、産業構造の変化によって事業機会が増え、それらを収益に結び付けられそうな企業も確実に存在します。そうした企業に投資できれば株価の値上がり益を享受できるでしょう。
―――岩本さんは現在どのようなテーマや産業構造に注目しているのでしょうか。
岩本:単に言葉だけが躍る投資テーマではなく、企業が収益に結びつけられるようなテーマですね。具体的にはIoT(モノのインターネット)、FinTech(金融とテクノロジーの融合)、デジタル・マーケティング(インターネットを通じ商品やサービスを訴求)などに注目しています。
いずれもテクノロジーの変化をきっかけに産業構造の変化まで引き起こしているところが面白いな、と。
―――どのような点に注目されているのか具体的に教えてください。
岩本:では、IoTの話をしましょうか。IoTを一言でいえば、様々なハードウェアがネットワークに接続される環境になることです。そうした環境がスムーズに整うのは産業機器、いわゆるB2B領域だと思います。たとえば、工場での監視や機器メンテナンス目的のモニタリング、機械同士のやり取りによる新たな情報取得などが効率的にできるようになります。
今後、産業機器向けの新しいサービスが提供されるようになって、それを利用している企業も効率的な運用ができるようになるでしょう。
―――私たちの生活と接点はありますか。
岩本:身近な例なら、駅や道路にある飲料の自動販売機。あれにセンサーや通信機能が実装されていくでしょう。これまで自動販売機は積極的にモノを販売してこなかったですが(笑)、いよいよ自動販売機の提案で商品を購入する日が来るかもしれません。事業としてのポイントは、新型の自動販売機を普及させるのではなく、既設の自動販売機をネットワークに接続させることです。
飲料メーカーは消費者の属性や購買動向などの情報を取得できるだけでなく、このデータを活用してこれまでにないマーケティングができます。IoTに対応するためのモジュールメーカーや電子部品メーカーも恩恵を受けそうです。
長期的に注目していくべきテーマとは
―――産業構造の変化をとらえて伸びている企業がありそうですね。では、今後長期的に注目していくべきテーマにはどのようなものがありますか。
岩本:将来投資機会として魅力的なテーマはロボットやVR(バーチャルリアリティ)、AR(仮想現実)、シェアリング・エコノミーなどです。私たちが実際に投資をするのはテーマが企業の業績に結び付くと確信してからですが、投資機会を逃さないようにすでに調査をスタートしています。
―――これら長期のテーマがどのように面白いのか教えてください。
岩本:投資アイデアは飯のタネなので考え方のヒントをお話ししますね(笑)。たとえばシェアリング・エコノミーは、「モノの流れ」を変える可能性があると思っています。今まで価値のなかったモノに新たな価値が生まれたり、都心に一方的に集中していたモノたちが地方に拡散したりと、これまでになかった現象が起こります。潜在的市場もとても大きいと見ています。都心と地方では物理的に市場が重複しませんからね。
ラクスルやメルカリなど未上場ですがビジネスモデルが興味深いベンチャーがいくつかあるのでじっくり調査をしています。大企業も中小企業のビジネスを物色していますよ。
―――なるほど。中小企業から小さな革新が生まれ、それがやがて大きなうねりとなって日本の未来を形作っていくのかもしれませんね。ところで岩本さんは最近の株式市場と今後の見通しをどう見ておられますか。
岩本:中小型株の株価評価(バリュエーション)が調整しています。東証1部とJASDAQなら、JASDAQの銘柄が割安に見えますね。前から目を付けていた銘柄をより割安に購入できる機会が増え、中小型株に投資をする私たちのファンドにとっては今が絶好の買い場と考えています。
ただ、こうした状況も長くは続かないでしょう。2017年にかけて株式相場で改めて中小型株が評価されてくる可能性もあるのでしっかりと準備をしています。
―――どういった準備でしょうか。
岩本:いや、これまでと比較して特に何かを変えるわけではないです。まずはチームで年間のべ約3,000社の会社訪問。その中で投資テーマを積み上げ、投資対象を選別するためのスコアリングを欠かさず行います。
投資アイデアやヒントの多くは企業とのディスカッションから生まれます。また、取材してきた内容をチームで議論することでも新たなアイデアが生まれるのです。私たちにとって、足を使って調べ、議論することは不可欠ですね。
―――取材を通じて実感される中小企業の変化はありますか。
岩本:すごくありますね。20年以上、中小企業の取材をしてきましたが、ここ一年くらいで地に足の着いた経営をする企業が非常に増えたと肌で感じています。経営者の質が変化しているのです。昔のワンマン経営のイメージからかなり変わりました。例えば、コネではなく自社にとって本当に必要な分野に詳しい社外取締役を任命したり、会議の運営方法のような細かいことまで真剣に検討したりしています。
会社を良くしたい、大きくしたいという思いが強く、我々投資家の意見にきちんと耳を傾けてくれる企業が増えました。そういう企業って、伸びますよ。これから中小型株投資はますます面白くなると思っています。
―――徹底した調査と議論が岩本さんの運用するファンドの好パフォーマンスにつながっているのですね。本日はありがとうございました。
岩本:こちらこそありがとうございました。今後もこうした機会があれば、面白い投資テーマやアイデアなどをお話ししますよ。引き続きよろしくお願いします。
LIMO編集部