日銀がETFの年間買い入れペースを6兆円に倍増
日銀は2016年7月28~29日に開いた金融政策決定会合で、株価指数連動型上場投資信託(ETF)の年間買い入れペースを、現行の3兆3,000億円から6兆円にほぼ倍増させることを決めました。
ETFは、「Exchange Traded Funds」の略で、直訳すれば、「取引所で売買できる投資信託」、つまり上場投資信託です。
ETFは、TOPIX(東証株価指数)や日経平均株価(日経225)、JPX日経インデックス400といった株価指数や、金価格などの指標に連動するように、投信会社によって運用されています。このため、たとえばTOPIXに連動するETFを保有すれば、TOPIX全体に投資を行っているのとほぼ同じ効果が得られます。
と言うと、「インデックスファンドとどう違うの?」と思う人もいるでしょう。ETFもインデックスファンドも運用手法は同じです。
ただし、ETFが全銘柄全国の証券会社どこでも購入可能で、取引価格はリアルタイムで変動する市場価格なのに対して、通常の投資信託は、販売会社は特定の取り扱い証券会社や銀行、取引価格も特定の基準価格といった違いがあります。
ETFは「指し値注文」や「信用取引」を行うこともできます。また、一般的に信託報酬などのコストは、ETFのほうが安くなっています(注:ETFは基本的に売買手数料がかかる一方、インデックス投信の中には売買手数料がかからない商品があり、売買時の手数料はインデックス投信の方が有利なケースがあります)。
なぜ、日銀はETFを買い入れるのか?金融緩和の狙いは?
ところで、日銀はなぜ、このように大量のETFを購入するのでしょうか。キーワードは「金融緩和」です。日銀は、消費者物価の前年比上昇率2%の目標を実現するために、「量」、「質」、「金利」の3次元で金融緩和を進めています。
まず「量」は、マネタリーベース(日銀が世の中に直接的に供給する資金)を、年間約80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行っています。「金利」は、いわゆるマイナス金利です。「質」は、国債、ETF、J-REIT、CP債(大企業などが発行する無担保の約束手形)、社債などの買い入れです。
日銀は国債の買い入れを「質的緩和」と定義していますが、大量の国債を買い入れることで世の中に出回る資金を増やす策でもあることから、報道などでは国債の買い入れを「量的緩和」と呼ぶことが多いようです。
日銀がETFを買い入れる目的はどこにあるのでしょうか。まずは前述したように、世の中に出回る資金の量が増えることです。
日銀はこれまで、1日あたり約350億円のETFを買い入れてきています。7月末に追加緩和策を打ち出してからは、その枠がほぼ倍に増えました。すでに、8月4日、10日、25日、26日の4回にわたり、ETFを1日約707億円買い入れています。このほか、設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETFも毎日12億円買い入れています。
さらに、相場を押し上げる効果もあります。日銀がどのETFを買っているかは公表されていませんが、TOPIX、日経平均株価、JPX日経インデックス400などを対象指数とする銘柄だとされます。
ETFの各銘柄が直接に投資している株式の株価の上昇だけでなく、「日銀が日経平均株価を買っている」といった心理的な影響を投資家に与える効果もあります。
金融緩和策の効果がなかなか出ない中で、日銀の次の手は?
日銀のETF買い入れには課題もあります。まず、金融緩和策の成果が出ていないことです。日銀は3年以上前から2%の物価目標を掲げていますが、実際の消費者物価はむしろ下がっています。
世の中に資金が出回り、企業向け融資や住宅ローン金利が過去最低水準に低下しました。資金を借りやすい環境にはなっていますが、伸びているのは不動産投資などの一部で、設備投資や個人消費が活発になっているとは言いがたい状況です。
株価についても、海外で株高傾向が続く中で、円高などの影響により日本株だけが取り残されています。
日銀がETFを買い入れることで、下値が支えられる一方で、海外の投資家にとっては「下がっても日銀が買ってくれる」といったように、押し目を拾ったり、一定の上値になると戻り売りを仕掛けたりすることになりかねません。本来のファンダメンタルズとは異なる動きになりますし、中長期的な株価の上昇も難しくなります。
これらの課題の解決に向けて、日銀がこれからどんな策を打ってくるのか期待したいところです。
下原 一晃