決算発表後、米国市場での株価は上昇

決算発表直後の株式市場の反応を知るための手っ取り早い方法は、PTS(証券会社の私設取引システム)における「時間外取引」や、ソニーのような大型株であればニューヨーク市場でのADR(米国預託証券)での株価の動きです。

そのソニーのADRですが、2017年3月期Q1(4-6月期)決算発表直後の7月29日の終値は33.4ドルと、前日比+8.9%上昇で引けています。これに呼応するように、日本の8月1日の寄り付きの株価も、日経平均が▲200円以上の下落になる中、逆行高で始まり、終値は+57円高の3,339円となる年初来高値で引けました。

Q1実績は、売上高が前年同期比▲11%減、営業利益が同▲42%減、当社株主に帰属する四半期純利益が同▲74%減と減収・減益となっています。このように、必ずしも見栄えは良くなかったにもかかわらず、なぜ、ソニーの決算は好感されたのでしょうか。その理由を考えてみたいと思います。

実態は好転していた

まず第1に、見かけほど実態は悪くなかったという理由です。Q1の営業利益は減益となっていましたが、前年度Q1および今年度Q1にあった特殊要因を考慮すると、実質的には増益となっていたためです。

具体的には、前年度Q1営業利益にはOrchard Media持分再評価益、ロジスティックス事業売却益、PSNサイバー攻撃関連保険収益で、合計+351億円の嵩上げ要因が含まれていました。これを除くと実質の営業利益は618億円となります。

一方、今年度のQ1営業利益は562億円でしたが、そこには4月に発生した熊本地震のマイナス影響が▲342億円含まれています。地震という不可抗力によるマイナス影響を取り除くと、実態ベースでは904億円の営業利益であったことになり、これを先ほどの前年度の実態ベースの営業利益と比較すると、実態は+46%増益の大幅増益であったという試算が可能となります。

Q1決算では、震災影響を受けなかった電機メーカーの多くが、急速な円高や世界景気の減速などにより減益決算を発表しています。一方、ソニーは震災影響など特殊要因を除くと実態ベースでは増益となっています。この相対比較での健闘が好感された可能性が十分に考えられます。

厳しい環境下で利益予想が据え置かれたことも好感された

第2の理由は、2017年3月期の利益予想が据え置かれたことです。

Q2以降の為替前提が1ドル103円前後(従来は110円前後)、1ユーロ114円前後(同120円前後)に修正されたため、売上高は下方修正されました。一方、熊本地震影響額が生産の前倒し再開により当初見込みよりも減少する見通しとなったこと、コストのドル建て比率が高いスマホ事業は円高ドル安のメリットを享受できること、PS4ソフトの販売が好調であること、液晶テレビやデジカメなど高付加価値製品の販売が好調であること(製品ミックスの好転)などにより、利益予想は据え置かれています。

もちろん、村田製作所(6981)への電池事業の売却に関連して損失が生じる可能性があることや、今後さらに円高が進んだ場合のマイナス影響に注意は必要ですが、下方修正が相次ぐ中で利益予想が据え置かれことが素直に好感された可能性が高いと考えられます。

新事業に対する期待の高まり

第3の理由は、新製品や新サービスへの期待です。いよいよ今秋、バーチャルリアリティ技術を活用した「PlayStation VR」が発売されます。事前の予約が好調であるというニュースが報じられているため、これへの期待値が高まっているのではないでしょうか。

また、今回の決算では、ゲーム分野に含まれるネットワークサービスの売上高が同部門全体の46%に達し、前年同期比で+38%増収となったというコメントがありました。従来のハードやソフトの売り切り型ビジネスから継続課金型(リカーリング型)のビジネスへの転換が着実に進展してきた、という点にも注目が集まった可能性が想定されます。

今後の注目点

今回の決算発表を受けた株価上昇については、上述した理由から大きな違和感はありませんが、気掛かり材料が全くなくなったわけではありません。

特に、これまで同社の成長ドライバーとして期待されていたイメージセンサーを主力とする半導体事業の採算性が足元で大きく低下していることには注意が必要です。今後の需要動向次第では、V字型の回復が見込まれる一方で、需要回復が期待はずれとなった場合には、多額の減損を迫られる可能性があるためです。

こうしたリスク要因にも注意しながら、ソニーの復活に期待したいと思います。

和泉 美治