早期退職して開業を考えるとき、気になるのが会社を辞めたあとの社会保険料です。会社員のときに給与から天引きされていた社会保険料は、開業すると国民年金と国民健康保険に変わります。
保険の手続きやマネーセミナーの運営を支えていた頃から、退職後の保険料は毎月必ず出ていく固定費として、先に数字で確かめておきたいテーマだと感じてきました。ここでは、45歳・単身・東京都大田区の会社員を例に、開業後の社会保険料を試算します。
会社員のときの月約6.9万円が、事業所得550万円なら月約8.0万円に。年金は減り、医療は増えます。開業1年目の国民健康保険料と任意継続の違い、売上が伸びない時期の保険料も見ていきます。
※年収550万円は、国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査」の45〜49歳の平均給与(男女計)です。
※保険料の率は、日本年金機構「厚生年金保険料」、全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」、大田区「国民健康保険料計算方法」の令和8年度の値をもとにしています。
1. 早期退職して開業すると社会保険料は月いくら変わる?会社員の月約6.9万円が事業所得550万円なら月約8.0万円に
日本年金機構「厚生年金保険料」によると、厚生年金保険料率は18.3%で、会社員は半分の9.15%を負担します。全国健康保険協会の令和8年度(東京支部)は、健康保険料率9.85%、介護保険料率1.62%(40歳〜64歳)、子ども・子育て支援金0.23%で、いずれも本人と会社が半分ずつ負担します。
開業すると、年金は月1万7920円の定額の国民年金、医療は大田区の国民健康保険に変わります。大田区「国民健康保険料計算方法」によると、国民健康保険料は前年の総所得金額から基礎控除43万円を引いた額に所得割率をかけ、均等割を足して決まります。
- 【会社員(年収550万円)】月約6.9万円(厚生年金 約4.2万円、健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金 約2.7万円)
- 【開業・事業所得550万円】月約8.0万円(国民年金 約1.8万円、国民健康保険料 約6.2万円)
- 【差】年金は約2.4万円減り、医療は約3.5万円増える(合計で約1.1万円増)
※試算の前提:45歳・単身。会社員は年収550万円に本人負担分の保険料率をかけた概算で、賞与の扱いや上限は考慮していません。開業後は、売上から経費を引いた事業所得が550万円とし、大田区の令和8年度の料率(医療分7.51%、後期高齢者支援金分2.80%、介護分2.43%、子ども・子育て支援金分0.27%、均等割は合計8万4873円)で計算しました。会社が負担していた半分は含みません。
例)45歳・単身・東京都大田区の場合 会社員と開業後の社会保険料(月額・2026年度)1/1
出所:日本年金機構「厚生年金保険料」、全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」、大田区「国民健康保険料計算方法」をもとにLIMO編集部作成
2. 早期退職して開業した1年目の社会保険料は?国民健康保険料は会社員時代の所得で決まり月約4.5万円、任意継続なら月約3.7万円
大田区「国民健康保険料計算方法」によると、国民健康保険料の算定の基礎は前年の所得です。早期退職して開業した1年目の保険料は、会社員だった前年の給与所得で決まることになります。
年収550万円の給与所得は、給与所得控除154万円を引いた約396万円です。ここから43万円を引いて料率をかけ、均等割を足すと、国民健康保険料は年約54万円、月約4.5万円です。国民年金の月1万7920円を足すと、社会保険料は月約6.3万円になります。
- 【国民健康保険(開業1年目)】月約4.5万円(年約54万円)
- 【任意継続(協会けんぽ東京支部)】月約3.7万円(標準報酬月額の上限32万円×11.70%)
- 【差】任意継続の方が月約0.8万円少ない(年約9.5万円)
全国健康保険協会「任意継続被保険者制度」によると、加入できるのは退職日までに被保険者期間が継続して2か月以上ある人で、退職日の翌日から20日以内の手続きが必要です。加入期間は2年間で、会社の負担がなくなるため保険料は全額が本人負担です。
※試算の前提:任意継続は、退職時の標準報酬月額(年収550万円なら47万円の等級)が上限の32万円を超えるため、32万円で計算しました。令和8年度の東京支部の料率(健康保険料率9.85%、介護保険料率1.62%、子ども・子育て支援金0.23%)を合計した11.70%を使っています。
3. 早期退職して開業した後の社会保険料は、売上が伸びない時期も残る?事業所得275万円なら月約5.0万円、所得がなくても月約2.5万円
日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」によると、開業から平均15.5カ月の時点で、採算が「黒字基調」の人は67.0%、「赤字基調」は33.0%でした。事業からの収入が本人の定期的な収入のすべて(100%)という人は53.3%です。
事業所得が会社員時代の半分の275万円になると、国民健康保険料は年約38.7万円、月約3.2万円です。国民年金と合わせた社会保険料は月約5.0万円で、会社員時代の月約6.9万円より少なくなります。
- 【事業所得275万円】月約22.9万円。社会保険料を引くと月約17.9万円
- 【単身世帯の生活費】月約17.3万円(総務省「家計調査」2025年平均)
- 【差】所得税・住民税を引く前で、月約0.6万円
総務省統計局「家計調査(家計収支編)2025年平均」の単身世帯の消費支出は月17万3042円で、平均年齢は58.6歳です。45歳の生活費とは異なる可能性があるため、目安として見てください。上の差には所得税・住民税が入っていないため、実際の手元資金はさらに少なくなります。
売上や所得がない月があっても、国民年金の月1万7920円と、国民健康保険料の均等割は月約7070円(年8万4873円)が残ります。合わせて月約2.5万円です。所得が一定額以下の場合は、保険料の軽減や免除の仕組みがあります。
※試算の前提:事業所得275万円は、会社員時代の年収550万円の半分とした仮定です。国民健康保険料は大田区の令和8年度の料率で、事業所得がそのまま総所得金額になるとして計算しました。
4. 早期退職して開業すると将来の年金は?厚生年金に入らない15年間で、報酬比例部分は月約3.9万円少なくなる
日本年金機構「報酬比例部分」によると、平成15年4月以降の報酬比例部分は「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」で計算します。標準報酬月額47万円の人が、45歳から60歳までの15年間(180か月)、厚生年金に加入しなかった場合を考えます。
報酬比例部分は年約46万円、月約3.9万円少なくなる計算です。一方、老齢基礎年金は保険料を納付した月数で決まります。日本年金機構「年金額(令和8年4月分から)」によると満額は年84万7300円で、会社員でも個人事業主でも60歳まで納付すれば変わりません。
- 【付加年金】月400円を納付すると、15年で年金が年約3万6000円増える(月約3000円)
- 【国民年金基金】iDeCoと合算して月6万8000円まで
- 【小規模企業共済】掛金は月1000円から7万円まで。全額が所得控除の対象
国民年金基金や小規模企業共済は、掛金の負担が増えます。事業の見通しとあわせて検討したいところです。
※試算の前提:標準報酬月額47万円は、年収550万円(月換算で約45.8万円)に当たる等級として仮定しました。
5. 【元FP会社職員の視点】検証:開業後の社会保険料は「売上」ではなく「所得」で決まる
今回の試算で目を引いたのは、事業所得が550万円のとき、年金は約2.4万円減り、医療は約3.5万円増えて、合計の差は月約1.1万円にとどまる点です。合計額だけを見ると差は小さいのですが、中身は入れ替わっています。
年金は定額の国民年金に変わるため、保険料は所得に左右されません。一方で国民健康保険料は所得に応じて増減し、事業所得には給与所得控除がありません。同じ550万円でも、会社員の給与所得は約396万円、事業所得は550万円として扱われます。
保険の手続きやマネーセミナーの運営を支えていた頃から、固定費は先に見積もり、毎月の収支に組み込んでおくことが大切だと感じてきました。退職前に、お住まいの自治体の国民健康保険料の試算と任意継続の保険料を並べ、開業1年目の月々の負担を確かめておくと安心です。
もう一つ見落としやすいのが、国民健康保険料が前年の所得で決まる点です。開業して年を重ねるごとに、前の年の事業所得が保険料に反映されます。所得が大きく変わった年は、翌年の保険料も変わることを頭に入れておきたいところです。
退職後の社会保険料の考え方に、正解は一つではありません。無理のない範囲で数字を確かめ、ご自身のペースで準備を進めていきましょう。
6. まとめ
早期退職して開業すると、社会保険料は年金が下がり、医療が上がる形に入れ替わります。事業所得が会社員時代と同じ550万円なら月約8.0万円、半分の275万円なら月約5.0万円が目安です。
開業1年目は国民健康保険料と任意継続を比べ、将来の年金の上乗せは事業の見通しとあわせて考えていきましょう。保険料は状況によって変わるため、手続きの前に自治体や年金事務所で確認してください。
※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。保険料や制度は改正されることがあり、実際の額は加入する制度、自治体、所得の状況によって異なります。詳細は大田区の窓口、年金事務所、全国健康保険協会でご確認ください。
参考資料
- 国税庁「令和7年分 民間給与実態統計調査」
- 日本年金機構「厚生年金保険料」
- 日本年金機構「国民年金の保険料」
- 日本年金機構「報酬比例部分」
- 日本年金機構「年金額(令和8年4月分から)」
- 日本年金機構「国民年金基金」
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」
- 全国健康保険協会「任意継続被保険者制度」
- 全国健康保険協会「令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限」
- 大田区「国民健康保険料計算方法」
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果の概要」
- 日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」
- 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済」
下村 美乃莉